その38 暴露
魔法学校の禁書庫の許可が下りたので、エドモン君が呆れるぐらい、いろんな本を読みあさった。
歴史の本から、経済や法律の本まで。
その結果分かったのは、少なくとも国王は、この国が養ヒト場であることを容認しているだろうと言う事だった。
今まで、西の森を開拓する、というのは国を挙げての大目標だと思っていた。
でもそれは建て前で、計算上少なくとも毎年二百人以上は、魔獣のエサとして送り込まれていた。
まず犯罪者。
死刑囚はもちろん生きたまま森に放り込まれるけど、他の罪人も刑の重さによって、辺境の開拓村に送り込まれたり、警備隊に入れられたりする。
ちなみに警備隊に入った方が、実は長生きする。身を守る手段を与えられるからだ。
それから、回復の見込みのない病人や身寄りのない老人。
全国にいくつか王立のホスピスや老人ホームがある。
無料で、とても手厚いと聞いている。
ただし。
ここで亡くなった人は、遺体を家族が引き取る事は出来ない。附属の共同墓地に、手厚い葬式と共に葬られる。
その後の遺体がどうなるか、あんまり考えたくない。
もし私がその施設で治癒魔法を使いまくったら、国王陛下は何て言うかな。
ていうか。
そもそも魔法使いの扱いよ。
歴史書には大したことを書いてはないけど、推測するに、太陽の国から来たのは、山のような魔導書だけでなく、それを使いこなせる相当数の魔法使いたちだということ。
彼らは、森を拓き、町を作り、豊かな小麦畑を作り、近世ヨーロッパに近い封建制と成熟した文明をニ百年あまりで作りあげた。
はずだ。
なのに。
この大陸をすっかりヒトの物にしてしまう前に、彼らは勢力を無くした。
ある程度土地を開いたら、それこそ魔獣との不可侵条約を結んだかのようにピタリと開拓をやめて、小麦の収穫量をあげる事に力を入れている。
歴史の本にも、彼らが国造りをやったとはひと言も書いてない。
あくまで普通の人々が、少数の魔法使いの力を借りて、国を造った風に書いてある。
おかげで魔法使いは脇役だ。
なんでかなー。
「エドモン君は禁書庫の本、読んだ?」
夕ご飯の時に聞いてみる。
禁書庫にある魔導書は、残念ながらほとんど読めなかった。
見た事ない古代語だった。
「大体。」
エドモン君は、昼間は普通に副学長の仕事をしている。
「へー。すごっ。魔導書も?」
「書き下した物が、学生の教材として使われている。」
いつもの様に不機嫌そうな顔だけど、だんだん分かってきた。
今ちょっと得意そうだな。
「ねー。エドモン君。」
「なんだ。」
「私さー。前世の記憶があるんだ。」
さり気なく、あくまでさり気なく言ってみる。世間話みたいに。
「ほう?」
エドモン君は、ちらっと私を見ただけで、また夕食の鳥の肉にとりかかった。
「何か今の役に立ったか?」
え。そんな反応?
もうちょっと、びっくり!とかウソつくな!とかくだらん事を!とか言われるかと思った。
「変だと思わないの?」
「いや、別に。魔法使いの中には、死ぬ時に自分の記憶を魂に留めておくことが出来る者もいるそうだ。君がそれでも一向に不思議ではない。」
「そーなんだ。」
意外に淡々としているので、前世の記憶がある事も、そんなに大したことではない気がしてきた。
なので、ベラベラしゃべった。
前にいた世界はここと全然違う事。魔法は存在しない事。その代わり電気があって、すごく便利でほぼ魔法みたいだった事。
「魔法で応用出来そうなんだけど、どう応用したらいいのか分かんないんだよねー。」
そんな事を話しながら、ふとエドモン君を見ると、呆気に取られた顔の王子様が、フォークの端に鶏肉を刺したまま、固まっていた。
ソースがお肉からぽたりと落ちる。
「君は本当に、デタラメだな。」
いやいや。言う事それ?
私はローストビーフを平らげて、残ったソースをパンで掬った。
「前世が?」
「普通前世の記憶があっても、異世界って事はないだろう。しかもそんなにはっきり覚えてるとは。」
エドモン君の目がキラッと輝く。
でもその後、少し沈黙した。
「なに?」
「いや。君の記憶を元に、新しい魔法具を開発する事は可能だろうけど。」
「うん。」
そうそう。新しい商品を作って、大人気とかになったら、大儲け!だよ。
しかしエドモン君は、伺うように私を見た。
「君の発想は素晴らしい。だがそれを具現化するには、別の方向から制約がかかるんじゃないか?」
「制約?」
「例えば、先日の垣根の事だ。君の木を瞬時に育てる能力を使えば、西の国境沿いに防御柵を作る事も容易い。通常、人力なら何十年もかかるだろうが、君ならかかっても数カ月だろう。安価で効果的だ。でも君は急に諦めた。なぜだ?」
ふぉー。
ここで詰められるとは。




