その37 更生は期待しない
数日は、宿屋のベッドから動けなかった。
様子がおかしい事を、エドモン君は特に問い詰めたりしなかった。
四ヶ月遅れの新婚旅行を、ただゴロゴロイチャイチャ過ごした。
最初の頃は、お互いにお互いの素っ裸を正視できなかったけど、もはや服着るの面倒くさいぐらいまでになった頃、ふと思い出す。
「学校の授業とか、あるんじゃないの?」
「んー。まあ、ある。」
私の裸の肩に、キスマークつけながらエドモン君は応じた。
「いいの?」
「魔獣退治に出掛けると言った時点で、一ヶ月の有休になる。」
「でももう、ここに来て半月は経ってるよ。」
「そうだな。君がいいなら、王都へ戻ろうか。」
「うん。」
思い立ったが吉日。
早速荷物をまとめて、宿屋を引き払った。
半月引きこもっている間に、辺りはもう早春の気配だ。
「あの垣根・・ばん・・ナントカはもういいのか?」
馬車で、高速移動陣の駅まで送ってもらいながら、エドモン君が聞いた。
「アレは、警備隊の人が、時間のあるときにやればいいかと思って。」
言葉を選んでそう言うと、エドモン君は怪訝そうだった。
「名案だと思ったがな。」
あの勢いで育ったら、魔獣に踏み潰される心配はない。
「止められたので。」
「誰に?」
「今は言わない。」
信じて貰えないかも知れないから。
「分かった。君が話してくれるまで、待つ。」
エドモン君は、自分がトラウマ持ちだからか、絶対に無理には踏み込まない。
例のコーヒーカップに乗った後、流れる景色を見ながら、聞いてみる。
「魔獣の中に、ヒトを食べるのがいるでしょ。あれ、ひどいよね。」
「そうだな。俺もどうかと思う。ヒトの味を覚えたら、次もヒトを狙うからな。」
いつものように寝転がりながら、エドモン君は応じる。
「しかし、うちもフラメ王国も、死刑は基本的に西の森に放逐という形を取る。」
「えっ」
そうだっけ。
「余程の重罪を犯した者は、西の森の刑場に連れて行かれる。一ヶ月後には骨になっている。」
そう言えば、罪人の刑務所って割に国の西側に偏っている。
開拓を進めるのに人手が必要だから、と聞いていたけど。
実はエサ候補。
「悪事を働くヤツには、更生を期待出来ないのも多い。善人が平和で幸せに暮らせるようにするには、それもまたやむを得ない事かも知れない。」
半分うつらうつらしながら、エドモン君は言う。
「しかしそれで魔獣がヒトの味を覚えて住人を襲うんじゃ、問題があるとしか言えない。」
うん。
でももしかしたら、それも国策の一つなのかも。
国王陛下とか、もしかしてこの世界のカラクリを知っていて、見て見ぬふりなのかも。
王都に戻って、私は魔法学校の図書館に引きこもった。
どうせ私にはする事がない。
何か昔の事が分からないかと、片端から本をめくる事にしたのだ。
でも歴史については、あんまり記述がない。
中学で習う縄文時代みたいに、ざっくり。
いくつか見たけど、祖先は太陽の国からこの国の東端に降り立った、と判で押したように書いてある。
「ダメかな〜。」
独り言をつぶやいていると、エドモン君が上から覗き込んだ。
「王族は禁書庫にも立ち入れるぞ。あと、王宮にも書庫がある。」
「そうなの?調べてみたい。」
「分かった。申請しておこう。」
夕食を取るのに、二人で食堂へ向かう。
「エドモン君。」
「なんだ。」
「私と国とどっちを取る?って聞いたら私って言ったよね。」
確認する。
「言ったな。」
「私が、船で、海を渡るって言ったら、一緒に行く?」
食堂の入り口でトレーを取りながら、さすがにエドモン君は目を丸くした。
「渡れるのか?」
「ほら。海棲魔獣をやっつけながら、外洋に出られたら。後は東に向かって進んだら、太陽の国ってのに辿り着けそうな気がする。」
適当に料理を取り分けて、席に座る。
しばらく呆気に取られていたエドモン君だが、やがて表情が楽しそうにほころんだ。
「本当なら、話に乗る。」
「帰って来れなくても?途中で沈没するかもでも?」
突っ込んで聞いてみる。
「君はいいのか?両親や兄弟を置いて、行けるのか?」
「うちの親兄弟は、連れて行く。」
「沈没するかも知れなくても?」
「うん。」
みんな、ここが養ヒト場とは知らない。
大体平和で、すごく治安も良くて、魔法文明も進んでて、大抵は自分がエサ候補だった事も知らないまま、普通に生きて、寿命が来て普通に家族に看取られて死ぬ。
幸せかも知れないけど。
それっていいの?
そう言えば、アルダーの傭兵団もそうだけど、割に荒っぽい人が多い。
仕事が仕事だけに、そういうもんかと思っていたけど。
遊びで猫を殺したとか楽しそうに話して、女の子達にドン引きされていた。
そういう人達を狙って、西に送り込まれていたとしたら。
治安も良くなり、魔獣のエサも調達出来る。
一石二鳥。
国策としてはいいのかも。
でももし、それで足りなくなったら。
品行方正で、おとなしくて、働き者の国民ばかりになった時、誰が、魔獣のエサに選ばれるの。




