その36 世界の秘密
「でも、だからってやられっぱなしは嫌だ。」
私はエサなんかにならない。
「だからさー。個体数を調節しているんだって。お互いにウィンウィンになるように。」
男の子は大真面目に言った。
なんか急に、目の前のこの子が得体の知れない物に見えてくる。
「調節?」
「コチューンは、別にヒトしか食べない訳じゃない。ヒトが減り過ぎたら、そっちに行かないようにして、小麦を豊作にする。そしたら十年ぐらいでヒトが増えるから、コチューンに食べさせる。」
怖っ。
「あんた一体何者なの。神様なんじゃないの。」
「だから違うって。前に言わなかったっけ?」
男の子は首をかしげる。
「僕はねー、まぁ羊飼いみたいなもんだよ。増え過ぎないよう、減り過ぎないよう見張ってる。」
飼っているのはヒト?コチューン?
「じゃあ、わ、私はあなたの、何?」
羊?
男の子は笑った。ホントに邪気のない笑顔。
「この仕事、すっごく退屈なんだよね。ちょっと面白い事ないかな~と思って、別の世界の人を呼んでみた。」
羊ではなく、気晴らしのおもちゃでした。
ひどい。
「あなたはドラゴン側の人って事だよね。」
そう言うと、男の子は首をかしげた。
「そうなのかな。最終的には、ヒト側だと思っているけどね。」
「何で。」
「ドラゴンはさ、コチューンでお腹いっぱいなら大した悪さをしない。でもお腹が減ってくると、火は吹くし、雷も降らせるし、雨も大量に降らせるし、後始末がホントに大変なんだよ。ヒトも大勢死ぬしね。それぐらいなら、最初からドラゴンを満足させておいた方が、よくない?」
理屈は、何となく分かる。
でも納得は出来ない。
「もし私が、垣根を作り続けたらどうするの。」
「それは困る。君につけた特典を、取り消さないとね。」
そうすると、どのみち垣根は作れない。
そして魔獣の襲来は定期的にやって来る。
「他の大陸の人は、どうしてるの。ここの人達が、犠牲を払ってドラゴンを養っていることを知ってるの?」
「知らないよ。君たちがここを離れられないように、向こうからも来られないようになっているから。」
「犠牲になっているのは、ここの人達だけなの?」
「だってその為に連れてきたんだもん。」
太陽の国から。
気持ち悪くなってきた。
「じゃ、よろしくね。垣根は、まぁ所々なら大丈夫だけど、全面は遠慮してね。」
男の子の姿はスーッと消えた。
目が覚めた。
起きるなり、吐きそうになった。
寝た気がしない。
しかもこのタイミングで、あの神様っぽい男の子にもらったもう一つの特典を思い出した。
『こっちで死んだら元の世界に転生し直す』。
これ、特典なのかな。
なんかもうベッドから起きたくない。
この国はヒトの養殖場だった。
何も知らずに、順番にエサになるのを待っている。
気持ち悪い。
ちなみにエドモン君は別の部屋だ。
一応結婚はしたものの、一緒のベッドだった事はない。
私がベッドの中で唸っていると、そっとドアをノックする音がした。
「セレネ?起きてるか?」
「・・ふぁぃ」
「朝食の時間だが。具合が悪いのか?」
朝日で部屋の中が明るい。
「気持ち悪いので、今日は起きたくないです。」
「・・入っていいか?」
返事を待たずに、エドモン君が入って来た。
「珍しい。自分の治癒魔法はかからないのか?」
「ちょっと、気持ちの問題で。」
毛布に潜り込んでいる私に、エドモン君はそっと近寄って、丸まった背中に手を当てた。
低い声の詠唱。治癒魔法だ。
少し楽になった。
意外。ストレスにもちょっとは効くんだ。
「どうした。何かあったか。」
声が優しい。泣きそう。
「エドモン君て、私の事、好きですか?」
毛布の中から聞いてみた。
しばらく間があった。
「好きか嫌いかのどちらだと言われれば、好きだが。」
「愛してます?」
「それは・・分からない。妻だから大事にしたいとは思う。」
正直者め。
涙がポロポロ出て来た。
「私が今死んだら、ちょっとは悲しいですか?」
「どうした。君は簡単に死ぬようなタマじゃないだろう。」
「悲しくない?」
返事には、またしても間があった。
「俺は他の女性と付き合った事がない。君しかいない。多分、君が死んだとしても、君しかいないだろう。」
毛布からちょっとだけ顔を出す。
振り向くと、美しい青い瞳と目が合った。
「それは悲しいって事?」
「無二の物を失いたくない。」
「それは愛してるって事だよ。」
腕をその首に絡めて引き寄せたら、キスしてくれた。
「じゃあ、私か、ユール国か、どっちを取るって言われたらどうする?」
「君を取る。」
即答だった。
むしろ私がびっくり。
「いいの?」
「いい。」
もう一度キス。
「俺からも聞いていいか?」
「何?」
「抱いてもいいか?」
思わず破顔した。
「そういう時は空気を読んで、押し倒すんだよ。」




