その34 倒産
エドモン君の言った通りだった。
診療所を開いてたった三カ月で、そこは閉めざるを得なかった。
通常、魔法医は患者の症状を聞いて、ギリ効果のある範囲の魔力で、怪我や病気を治す。
怪我なんか、外科手術よりキレイに早く治る。当然治療費は高い。
私もそれに倣って、治療費を設定していた。
だけど。
私の治癒魔法は、何もかも全部一緒くたに治す。
大げさな例で言うと、ジャガイモ剥いていて指切った、というのを治そうとして
「ヨッコイショー○チ」
と唱えると、切り傷はもちろん、その人が抱えている糖尿病とか腰痛とか蓄膿症とか、とにかくありとあらゆる不調を治してしまうのだ。
そりゃ患者さんは大喜びだ。
でも医者って、患者さんがいないと成り立たない職業だ。
そもそも高めの治療費に設定していて、最初の頃は、
「煙突掃除をしていて屋根から落ちた!」
みたいな重症患者しか来なかった。
ところが、その人の怪我が治った後、ついでに前から患っていた関節リウマチまで治った、なんて話がじわじわ知れ渡ると、開業から一ヶ月後には、外まで行列が出来る盛況ぶりだった。
他の医者から苦情が来るほど。
ところがさらに半月たったら、患者さんはぱたりと来なくなった。
つまり割高な治療費を払ってでも治したい病気を抱えた人が、もうこのギーネ町辺りにはいなくなったって事。
皆バリバリ元気になって、長年通院していた病気もなくなり、ちょっとした怪我や風邪なんかは、割安な普通の医者で良くなった。
毎日毎日お茶を挽く日々。
ちょいちょい実家に寄って、家業を手伝ったりしたけど、とにかく昔は小さかった弟や妹も、まあまあ猫の手よりマシになってきたし、おばあちゃんも元気満タンて感じで、手伝う事があんまりない。
仕方ないので、せっかく作った診療所だけど閉める事にした。
「長続きしないって分かってたんですか?」
エドモン君に愚痴ると、副学長はフフンと鼻で笑った。
「君は、経営戦略に関しては、全くの無知だからな。」
王都と、私の実家のある海辺の町を、なんだかんだ楽しそうに行き来していたエドモン君である。
「言ってくれたらいいのに〜。」
「言ったって、納得するまで君は引き下がらないだろう。」
「まぁそりゃそうですけど。」
愚痴は止まらない。
「他のお医者からも恨まれちゃうし。」
「そりゃ、捻挫を治療する値段で、慢性の膝痛も治すとか、ただの腹下しで来た患者の肝硬変まで治すとかするんだからな。」
「おかげで全然儲かりませんでした。」
「だろうな。」
エドモン君は楽しそうだ。
「あの辺りの住人の健康状態が、劇的に良くなった事は確かだし、アレはアレでいいとして、もう少しやり方を考えてみるといい。」
「例えば?」
「自分で考えろ。思考を放棄したら、脳が腐るぞ。」
嘯くエドモン君。
変な所で先生風を吹かせるなあ。
「ケチ。」
「生徒の成長を促すのも、教師の役目だからな。」
結婚しても、エドモン君は副学長のまま職があるんだけど、私は魔法医をやめてしまったら無職だ。
どうしようかな~。
ちなみに護衛というか、監視の人は、外出すると、常に私の周りをウロウロしている。
ストーカーぽくて鬱陶しいけど、護衛と思って割り切っている。
経営戦略か。
前世の世界なら、スマホで検索するとか、本屋でその手の本を探すとかするけど、今の世界では、なかなか厳しい。
「例えば〜。キッチンカーみたいなー。」
「え、何だって?キッ・・?」
診療所を閉めたらすることなくて、食っちゃ寝生活を堪能している。
たまに図書館に行って、本当ならやるはずだった医療魔法を独学で学んでいる。
「巡回診療所みたいな。」
「いいな。」
のんびり昼ごはんを食べている。
エドモン君はエドモン君で、まめに新しい古代語魔法を研究している。
パンをかじりながら、本をペラペラめくっている。
「汚れるでしょ。」
「防汚魔法かけてる。」
「え、そんな便利な魔法があるんだ。」
「医療魔法の一つだな。」
どんなに血で汚れても、払えば落ちる。
「いいなー。私ももう一回入学し直そうかな。」
取り留めのない話をしている所に、王宮の制服を着た人が近付いて来た。
「エドモン様。陛下よりお手紙でございます。」
「はいはい。」
エドモン君は無造作に、丸めて封蠟を押した手紙を開いた。
「・・またか。最近頻度が高いな。この季節、魔獣はまだ冬眠しているだろう。警備隊で対処出来るはずだ。」
「実はフラメ王国からの・・。」
「は?何故うちが隣国の魔獣退治をせねばならん?」
「そうではなく、隣国から追い立てられて、こちらに来た魔獣のようでございます。」
普段来ないはずの、国境近くに出たらしい。
「何だと?魔獣は最初に出た国で責任を持って狩ると、相互条約で、」
言いかけたエドモン君は、ぐっと言葉に詰まった。
なるほど。カリン姫の嫌がらせか。
仕方ない、と立ち上がったエドモン君は私を見た。
「行くぞ。」
「え、私も?」
「王族の端くれだからな。要請があれば、税金分は働かなくてはなるまい。」
え!タダ働きなんですか?




