その33 寝顔に惚れる
「その話、エドモン殿下にもしたんですか?」
最後の一個のケーキをつつく。
「何年か前にしたけど、反応は良くなかった。」
王太子殿下は、ため息をついた。
ははっと笑われて、終わりだったらしい。
謝られても、なかったことにはならない。
「確かに当時、直系の王子が生まれて、王宮全体がお祭り騒ぎだった事は、隠しようがないからな。」
冷めたお茶を、イケオジはがぶがぶ飲んだ。
「他の貴族の姫との縁談とか勧めてみたんだが、それも却下されたな。ふらふら国内を移動するから護衛をつけようとしたんだが、それも拒否だ。」
アルダーと一緒に、西の国境で魔獣退治をしていたこともある。
よく考えたら、王子様がそんな事をするなんて変なんだけど。
で、もう半ばエドモン君の事は諦めていた所に、私が登場したという事だ。
「君には本当に感謝している。そして我々からの心からの願いだが、どうか二人で幸せになって欲しい。」
頭を下げられた。
うーん。
どう返していいものか。
「まあ、出来るだけの事はしますけど。」
王太子妃殿下が、お代わりのお茶を入れてくれた。アツアツだ。どうやってんのかな?と思ったら、ポットの底に魔法陣が見えた。
なるほど、電子レンジの要領だ。
ちなみにカップにはその魔法陣はついてなかった。
「仲直りのお手伝いとかはしませんよ。こういう事は、本人が納得しないと。」
そう言ったら、王太子殿下は頷いた。
「無論だ。エドモンをよろしく頼む。こちらからの援助は惜しまない。」
よろしくお願いされてしまった。
まあ、私は私のやりたいことをやるだけだ。
中庭を去る王太子夫妻を見送って、王宮の自分の部屋に戻ろうとしたら、大きなトランクがいくつも運ばれて来るのが見えた。
何だろうと思って見ていたら、最後に、今朝私にドレスを着せてくれた侍女さんが、手に魔法学校のマントを持って歩いているのが見えた。
「あの、それどうするんですか?」
慌てて近寄ると、侍女さんはにっこり笑って、廊下の先のホールを示した。
「新居に運ばせて頂くよう、承っております。」
新居。
て、魔法学校の寮ですか。
「それ、何が入ってるんです?」
「結婚式でお召しになったドレスと、今朝お召しになったドレスですわ。あと、他にもお作りしたドレスとか。宝石類ですとか。お靴と化粧品もございます。」
待って待って。
凄いよ。一人掛けのソファぐらいのトランクが五つ。
どこに入れるのよ。
「エドモン殿下の服は?」
「そちらは王子宮の衣装部屋に預かってございます。」
「お願い。私のもそこに、一緒にいれておいてくれない?」
すったもんだの末、普段使い出来るワンピースと、靴とか下着とかの小物だけ、小さめのトランク一つに詰め直して、魔法学校の寮に運んでもらった。
新居ですよ。新居。
トランクを運んでくれた侍従さん達が帰った後、そっと寝室を覗いたら、エドモン君が気持ちよさそうに寝ていた。
可愛い。
長い黒髪が口にかかっているので、そっとかきあげたら、口元がにこっと微笑んだ。
ふわ〜。かわいい。かわいい。
いいな。眼福。ホントに美形なんだな。
見惚れていると、エドモン君の目がパチっと開いた。
「わぁっ。」
「おっと。」思わず身を引く。
エドモン君は飛び起きた。
「な・・にしてる?」
「えー。お茶会終わったんで、こっちに戻って来ました。もう夕方です。」
説明すると、エドモン君は呆けたように
「あ、そうか。」
「そうです。夕飯どうします?」
寮は三階建てで、部屋にキッチンはない。
生徒・職員兼用の食堂が、学生寮と職員寮の間に立っている。
校舎の方にもカフェテリアっぽいのがあるが、やっぱり食事は食堂だ。
「外に食べに行きます?」
「いや、食堂でいい。」
軽く服を整えて、下に降りる。
「兄上と何を話したんだ?」
気になるんなら、一緒に来たらよかったのに。
中庭を歩きながら答える。
「エドモン君が、小さい頃めっちゃ可愛かった事とか。」
エドモン君の口が尖る。
「他には?」
「ケーキがおいしかったです。」
「他は?」
「エドモンの事をよろしくお願いしますって。」
「他は?」
「ドレスをしまっておくのに、王子宮の衣装部屋を借りました。」
「そうか。」
やっと追求が止む。
「そう言えば、マルセロ殿下とネリア様は、カリン姫に挨拶しにいらしたそうです。今日のお茶会にはいらっしゃいませんでした。」
ネリア様は、先日の一件があるので、顔を合わせ辛かった。
いなくてよかった。
「ふん。」
エドモン君は鼻を鳴らしただけだった。
こじれてますな。
食堂は、寮の生徒達で溢れていた。
教職員用の二階にトレーを持って上がる。
「エドモン君は、明日から授業があるんですか?」
「馬鹿者。当分休みだ。授業は再来週からだな。」
一応新婚さんだしね。
でも形だけの結婚だし、新婚旅行もなー。
「私、お茶会こなしたら早速魔法医として働こうと思うんですけど。」
とシチューの人参を食べながら言うと、エドモン君は呆れたようだった。
「好きにしろ。尤も俺の予想では、そんなに続かないんじゃないかな。」
え、ひどい。




