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転生チート魔法使いだったのに、世界は意外にシビアだった話  作者: たかなしコとり
第3章 結婚

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その31 逃避

残された私とカリン姫は、しばらく閉じられたドアを、呆然と見ていた。


本当は私も、「では失礼します。」とかなんとか言って、部屋を出るべきだったんだろうけど、何となくタイミングを失った。


ふと横を見ると、カリン姫は、怒りだか怯えだか、わなわなと震えながら私を睨んでいた。

やがてぷいッと目をそらして、部屋の隅で気配を殺していた自分の侍女を見やった。


「帰るわよっ。」


侍女さんは急いで近付いて、姫のためにドアを開けた。


カリン姫は、応接間を出ていきながら、半泣きの目で私にもう一睨みくれると、こう言った。

「条約違反を陛下に訴えますからね。」


何のことか分からない。


でもよっぽどエドモン君の事が好きだったんだなぁ。

可哀想に。

ちょっと悪い事しちゃったかな。


でも私としても、二回も結婚式挙げといて、やっぱりダメだったから相手を替えてもう一度、なんてなるべく勘弁願いたい。


一応頭を下げて、カリン姫が去っていくのを送る。


あー、やれやれ。

私ももう帰っていいのかな。


カリン姫に続いて部屋を出て、外にいた近衛騎士さんに

「エドモン殿下は?」

と聞いた。


「王子宮にお戻りになられたかと。」


えー。ひどい。そんなのあり?

と思っていると、私にドレスを着せてくれた侍女さんが急いでやって来て、私を案内してくれた。


エドモン君は、別の小部屋に隠れているらしい。


「あのー。カリン姫を帰らせてしまっていいんですか?」


一応聞いておく。

条約がどうしたとか言ってたし、隣の国の王女様だし、あんまり失礼な事も出来ないだろう。


侍女さんは大丈夫、と請け合った。

「お帰りにはなりませんよ。迎賓館に何泊かされてから、お国に戻られるはずですから。」


あ。迎賓館。

この世界に二つしかない国の国賓と言えば、お互いの国の王族とかしかない。


雰囲気的に、もうカリン姫の別荘化しているみたい。


案内された部屋の椅子に、エドモン君はぐったり座っていた。


「帰ったか?」

「とりあえず、『帰るわよ』て言ってましたけど。」

「そうか。すまなかった。」


謝られた。

ただでさえお疲れ気味の顔が、もはやどす黒い。

これで服が白かったらサダコだよ。


目眩がする、なんて部屋を出る口実かと思ったけど、案外本当かも知れない。


「苦手なんですね。」

返事の代わりに、はあぁと長いため息がエドモン君の口から漏れた。


「もう何年も会ってなかったから大丈夫だと思ったんだが。」

「ダメだった?」

「ダメだったな。」


もう一回、長〜いため息。

辛そう。


「ヨッコイショーイチ。」

小さく囁く。

エドモン君の顔色が、ぐっと良くなった。


「ありがたい。」

エドモン君は、ホッとしたようだった。

怪我でなくても、結構効く。


「どの辺が苦手なんですか?」

「・・ほぼ全部。」


「全部!」

それはそれで、カリン姫も気の毒な。


「とにかく声がダメだ。聞いているだけで、目眩がする。あと服も。ごく小さい頃に、ピンクの服を何気なく褒めたら、もう、本当にずーっとピンクなんだ。」


珍しく弱音を吐くエドモン君。


「止めろって言えばいいじゃないですか。」

「言ったとも。他の色も似合うだろう、とか。その時は『それもそうだ』って引き下がってくれるのに、次に来る時はもうそんな話、すっかり忘れてる。」


なるほどねー。


「そしてずーっと喋ってる。」


そーだな。

エドモン君は、沈黙が全然気にならないタイプだ。話す事がなければ、1時間ぐらい全く無言でも平気。


むしろ話し声が嫌いだ。

うるさく騒がれると、機嫌が悪くなる。


そしてカリン姫は、おそらくは沈黙に耐えられないタイプだ。

エドモン君が黙っている分、沈黙を埋めるべく、くだらないゴシップでも何でも一生懸命しゃべってるんだろうな。


哀れなり。


「彼女には申し訳ないが、もう会いたくない。」

それを遠回しに何度も伝え、最後に何とか婚約解消まで持って行ったのに、そこからもう八年も経っているのに、まだ粘着されているとは。


結局、鬱病が再発したとの言い訳で、エドモン君は、王子宮ではなく魔法学校の寮に移動すると言う。


何が何でも会いたくないとの意思表示だ。


「午後のお茶会はどうするんです?」

「済まないが、君に任せたい。」


もー。仕方ないなぁ。

「1個貸しですよ?」

自慢じゃないけど、頑丈さには自信がある。

任されてあげようじゃないか。


せっかく着たドレスも脱いで、下着の貫頭衣でお昼を食べて、しばらくくつろぐ。

侍女さん達は慣れたものだ。

結局素敵ドレスを着続けるには、それなりに体力も必要だって事だ。


お茶会に出るのに普段着でも良いと聞いたので、いつものワンピースにさせてもらう。


そして腹ごなしにゆるゆる歩いて、王宮と王太子宮の間にある広い庭園に向かった。


よく手入れされた、低い生垣が迷路のようになっている庭園で、その真ん中に四阿がある。

何人もの係りの人が、準備に追われている。


近付くと、みんなささっと脇に避けた。

お席にどうぞと言われて、隅っこの椅子に座った。


すると後ろから

「エドモンはいないのか。」

おじさんの声がした。

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