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転生チート魔法使いだったのに、世界は意外にシビアだった話  作者: たかなしコとり
第3章 結婚

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30/47

その30 シュラバ

わー。ピンクだ。

まぁピンクも悪くないよ。似合っていればね。


そこにいるのは、結構可愛い人だった。

大きな潤んだ瞳。ふんわりカールした茶色の髪。


えーと、なんと言ったっけな。

モデルの、押・・へし切長谷部とかそんな感じの人、いたよね。


「お久しぶりです、エドモン様!」


可愛い声だ。アニメ声だ。

ダメだ。どうしよう。

林家○ー子とか思い浮かぶ。


いかん。目の前に集中しなくちゃ。


「お元気そうで何よりです。カリン姫。」

横で、エドモン君がボソボソと応じる。


カリン姫はいそいそと近寄って来た。

「お手紙では、あまり御病状がよろしくないとお伺いしていましたが、お元気そうで、安心致しました。」


ピンクのフリルと、髪飾りの大振りなリボンが、わさわさと揺れる。


「良くなったり悪くなったりを繰り返しています。今はたまたま具合が良いだけで。」

エドモン君はボソボソと応えるが、全身から「帰って欲しい」というオーラが立ち昇っている。


「まぁ。そんなご様子では、とてもご結婚なんて無理ですわね。」

カリン姫は絶対にこちらを見ない。


「昨日、そんな妙な報せが届きましたので、こうやって確かめに参ったのですけど。まさかエドモン様が、私以外の人と結婚するなんて、有り得ませんでしょ。」


「あー、いや、殿下との婚約は八年前に解消しましたし、それはお互い了承済みのはずです。」


頑張れ、エドモン君。

しかしどうも、この手の女性が圧倒的に苦手らしい。


なんとか不機嫌そうな顔を保ってはいるけど、目は泳いでいるし、目の周りの隈はますます濃くなるように見える。


仕方ない。

ここは一丁、手助けに入るか。


ずいと、間に割って入る。

「初めまして、私エドモン殿下の妻のセレネです。」


カリン姫はスーッと横にずれる。

「了承した訳ではありません。誰とも結婚しないとおっしゃるから、仕方なく身を引いただけです。」


おお。

完全無視だよ。見えてないみたいに振る舞っている。

よし。受けて立つぞ。


うるうると、エドモン君を振り向いた。

「カリン姫はお可哀想〜。こんなにお若いのに、目の前の物が見えないぐらいの近視なんですね〜。」

「誰が近視よ!」

「じゃあ、」

わざとらしく驚く。

「老眼?可哀想過ぎる〜。」


カリン姫の顔が真っ赤になる。

「失礼ね!」

姫は喚いた。

「一体、どこの馬の骨よ!エドモン殿下に取り入って、まんまと王室に入り込むなんて!」


私から入れてくれと頼んだ訳ではない。


「エドモン様は私の婚約者よ!横恋慕なんて恥を知りなさい!聞けばあなた、貴族でもなんでもないらしいじゃないの!そんなのがどうやって、殿下を誑し込んだの?!この女狐!泥棒猫!」


続く悪口雑言。

こんなピンクのお姫様が、よくもこんな罵り続けられるもんだと思うぐらい。

でも語彙は少ない。

馬の骨が四回出て来たぐらいで飽きたので、小さい声で言ってみる。


「恐れ入り谷の鬼子母神。」


悪口雑言が、ピタッと止んだ。

エドモン君が、ぎょっとしてこちらを見た。


何しろ魔獣にだって効いちゃう魔法だ。

ピンクのお姫様は、青ざめて次の言葉が出て来ない。


おそらくエドモン君と同じぐらいか、二つ三つ年下であろうカリン姫は、推測するに、婚約解消した歳頃のままのドレスを着ているんだろうな。


ローティーンの女の子なら許される服を、二十歳過ぎの女性が着たらどうなるか、という見本に、同情を禁じ得ない。


「まぁ、お怒りはご尤もかと思いますが、結婚誓約書に署名したのは私ですので、私がエドモン殿下の正式な妻です。」

「そんな紙切れ一枚で。」


食いしばった歯の間から漏れる、悔し紛れの言葉。


「紙切れ一枚でも、正式な書類ですし。なんなら喧嘩してみます?勝ったほうが、エドモン殿下の妻って事で。」

「いいわよ望む所よ!」

「それは。」


さすがにエドモン君が止めに入った。


「この女を庇うんですか!?」

カリン姫が叫ぶ。

エドモン君はたじろいだ。

「いや、セレネの。」

圧勝だから。と言いかけて、さすがに国の秘密兵器だと思い出したらしい。


「セレネは公的に私の妻です。ゆくゆくは女王になられるあなたと喧嘩させる訳にはいきません。」


真面目くさってなだめにかかる。

うまい。

私の味方とも、カリン姫の味方とも取れる言い方だ。


「結婚を破棄して下さいませ。」

半泣きのカリン姫。


「ずっと待っていましたのに。」

「待つなと申し上げたはずです。あー、何か目眩がし始めました。熱も上がってきたようです。遠い所を来ていただいたのに、大変申し訳ない。具合が悪くなってきたようなので、前を下がらせていただきます。」


よろよろとよろめきながら、エドモン君はドアに向かう。

おい。私を置いていくつもりかい。


カリン姫が、エドモン君の腕を取ろうとする。

「私がお部屋までお送りしますわ。」


「いえ、近衛の者がいますから。お手を煩わせるまでもありません。」

エドモン君はカリン姫の手を押し戻して、すすす、とドアを出て行った。


おーい。私は?

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