その3 オッサンっぽい
図書館でとりあえず、目標分の写本を作り終えてぐったりする。
明日から通常授業だ。
間に合ってよかった。
はぁーとため息をついて、ふと思う。
多分、前の人生、車にはねられて終わったんだと思う。
嫁さんや子供たちはどうしただろう。
生命保険はかけていたし、家のローンもチャラになったはず。
学資保険も抜かりなし。
人間ATMとしてはまずまずだったんじゃないか?
自分で言ってて悲しいけど。
おふくろとかには親不孝しちゃったな。
ま、人間いつかは死ぬもんだし。
今更起こったことを悔やんでも仕方ない。
こうやって転生したんだから、オレってラッキーな方なんじゃないの?
あ、オレって言っちゃった。
今の無しで。
そう言えば、あの神様チックな人の言葉が気になる。
何かの能力をくれるって言ってたな。
何だったんだろう。
今まで生きてきて、そんな素敵な能力、何もなかったなー。
確かに暗記には強い。あと、数字にも強い。
でもそれって、立花幸太郎時代の特性そのまんまだし。
加えて言うなら、子供の頃に少年野球をやっていたから、球技がちょっと得意とか。
それぐらい。
くそー。どうせくれるなら、もうちょっと分かりやすくて凄い能力をつけてくれたらいいのに。
「大魔道士」とか。
「勇者」とか。
なんなら「聖女」とか。
あるじゃん。
もう、体の中からみなぎるパワーみたいな。
ぶっちぎりで魔王を倒しちゃって、財宝ザクザクみたいな。
悠々自適、辺境でスローライフみたいな。
な・さ・そ・う〜。
あ、辺境でスローライフなんて、オッサンの考えだな。ヤバい。結構侵食されている。
しっかしねー。
この前世の記憶、どうやって活かしたらいいんだろう。
十二歳、ピチピチ(死語)女子中学生の役には立たないんじゃね?
むしろオッサンっぽくなったりして。
サイアク。
「ガチョーン」
つい口から漏れた。
いけね。
言ってるそばから、オヤジギャグだよ。
もう片付けて、部屋に戻ろう。
と。
不意にぐらりと図書館が揺れた。
「わぁ」
私の他にも、何人か本を読んでいた生徒たちが、腰を浮かせる。
本棚から、バタバタと本が落ちる。
持ち出し禁止の本についている鎖が、ジャラジャラと音を立てる。
地震だ。
割に大きい。
天井のシャンデリアが揺れる。
急いでテーブルの下に隠れる。
あんなのが落ちてきたら、ただではすまない。
でも数秒、ガタガタッとなった後は、それ以上揺れなかった。
確認して、恐る恐るテーブルの下から這い出た。
わ〜。めっちゃ恐かった。
東京にいた頃は、時々あったけど、そう言えばこちらでは初めて経験した。
みんな無事かな。
騒ぎ声がするので見ると、落ちてきた本に当たって気絶している生徒と、額から血を流している生徒がいた。
急いで担架が運ばれてきて、二人が運ばれて行く。
こわ〜。本、重いもんね。
その時は、とりあえず本を片付けるのを手伝って、晩御飯の時にリリアと
「恐かったー。」
と話して、普通に自室に戻った。
んだけど、翌日その地震の事が、学校で大問題になっていた。
びっくりしたのは、なんとあの地震、図書館しか揺れなかったらしい。
他の建物は、びくともしなかったとか。
えー。結構揺れたのに。
ピンポイントだったなんて。
ということで、他からの魔法攻撃が疑われているらしい。
「だけど、地震をピンポイントで起こすなんて大掛かりな魔法、聞いたこともないだろ。校長も、先生達も、パニックになってる。」
クラスメイトのホベルトが、訳知り顔でそう言った。
結局、今日から始まるはずの新しい魔法は延期。自習になっている。
私たちが使う魔法は、古代語魔法と呼ばれている。
大昔の魔法王国時代に研究されていた魔法。
魔素に声や光の波を加える事で、方向性を与える。
なので呪文も、一音一音に正確さを求められる。
そしてこれが一番大変なんだけど、呪文に意味が無い。
例えば
「大地よ〜我に応えて揺れたまへ」
みたいな言葉なら覚えるのも楽だけど。
実際には
「ニームヨンヨンケロタイリ〜」
みたいな、おそらく古代語だろうと思われる、でも意味不明な音の連なりだ。
それを正確に唱えないといけない。
魔法使いの初心者がくじけるのも、ここ。
なので、最初の「自分が早く走れる呪文」と「自分の勇気が出る呪文」だけ扱える、成り損ない魔法使いばかり毎年量産されていく。
入学から半年。
今日からやっと、「自分の怪我を治す呪文」に取り掛かれるはずだったのに。
残念。




