その2 中学生っぽい
思い出せないまま、翌日私の高熱はすっきり下がり、看護職員を安堵させた。
魔法学校は全寮制だ。
全員個室。
熱が下がったので、
「お大事に。」
と、看護職員さんは、辺りを片付けて部屋を出て行った。
でも変な感じ。
立花幸太郎だった時の記憶も鮮明だけど、だからって続きの人生って感じでもない。
ただ、今までそんなものだと思って生活していた全てが、47歳オッサン日本人の価値観に侵食されつつある。
何しろ、朝食を食べるのに食堂へ行って、椅子に座る時に、つい
「ヨッコイショーイチ。」
とか声が出ちゃって、震える。
同級生のリリアに、
「ヨッコイショ・・って何?」
と怪訝な顔で聞かれた。
慌てて、
「うちの田舎の、早起きのおじいさんの名前なの。」
と誤魔化す。
いや、引っ込め、私の中のオッサン。
しかも幸太郎時代の親父が使ってたギャグだよ。古い。
「昨日は残念だったねー。せっかくお祭りだったのに。」
リリアが気遣ってくれた。
娯楽の少ない学校生活で、皆が楽しみにしていた冬至祭りに、インフルエンザのせいで参加出来なかった。
「仕方ないよー。今朝まで熱があったんだもん。もーヘロヘロよ。」
朝食のパンをちぎって口に放り込む。
リリアが目を丸くする。
「え?それでもう起きて大丈夫なの?そんな普通の食事でいいの?」
「え?」
確かに病み上がりにはちょっと重いはずの、ゴロゴロ具沢山スープと、硬めの黒パン。
でも平気。
いくらでも食べられる。
「ほら、私、頑丈だから。」
医者もいない小さな村で育った。
体力勝負の日々。
家の手伝いで、芋を育てたり弟妹の面倒を見たりしながら初等学校に通った。
その後の進路はたいてい、中等学校に通うか、どこか下働きの口を探すか、の二択だった。
ただ私、小さい頃から物覚えだけは異常によかった。あと数学に強かった。
そこで進学したいと言った私に、両親は一か八か、魔法学校を勧めたのだった。
魔法学校は、学費は中等学校と変わりがないものの、寮費はロハ。
あ、ロハって只(無料)のことね。
しかも、卒業生は就職先引く手あまた。
無医村のうちの故郷に医療魔法を覚えて帰れば、一生食いっぱぐれない。
もっとも、人気職業にも関わらず、誰でも魔法使いになれる訳ではない。
その証拠に、この魔法学校の生徒は今、全体でも二百人ちょっとぐらいしかいない。
同級生の女の子は、私を入れて七人しかいないし、男子を入れても十八人。
入学した時は百人近かったのに、この減りの早さよ。
「お願いよ〜。もうこれ以上クラスメイトを減らしたくないの。」
リリアの切なる願いは、私の願いでもある。
こちらの世界の魔法は、前の世界で聞いていた魔法とは全然違う。
誰でも習得出来る。
生まれ持ったナントカも必要ない。
杖もいらない。
その点、○リキュアともおジャ魔女○れみともハリー・○ッターとも違う。
むしろ、魔法のくせにとても科学っぽい。
前の世界では、全ての物に電子イオンが含まれていて、それを取り出して、電気という力にしていた。
こちらでは電子の代わりに全ての物に魔素が含まれていて、それを取り出して、魔力に変えて利用する。
それが魔法。
ただし。
電子回路を作るのに、ある程度知識や材料が必要なのと同様、魔法を顕現するのにも、ある程度知識や材料が必要。
それを学ぶのが、魔法学校と言うわけ。
ひたすら勉強あるのみ。
知識さえあればどんな魔法でも使えるので、魔法学校への入学希望は毎年数千人とかの規模になる。
なのに入試に通るのが、二百人ぐらい。
せっかく合格したのに入学しない人も多い上に、授業が始まると怒涛の中退者が出るので、卒業する時は同級生もヒトケタ、というのも珍しくない。
なので皆、お互いに励まし合う。
仕事に役立つレベルの魔法を使えるようになるまでは、ひたすら暗記と実践の繰り返しの日々。
ああ、まるで幸太郎時代の中学・高校のような。
「でも運が良いわ。寝込んだの、年末休みの間だったから。」
授業を休むと、追いつくのが超大変なんだよね。
「宿題は残ってるけど。」
「それね〜。」
印刷技術はあるものの、魔法書は印刷が難しい。
にも関わらず魔法使いには所持必須なので、みんな在学中に必死で書き写す。
諦めて脱落するのは、こういう所だ。
そもそも入試問題が、「右の魔法陣を正確に模写せよ」と「配られた魔法書を、○ページから○ページまで正確に書き写せ」の2問だけなのだ。しかも日暮れまでなら何時間かけてもいい。
ただし誤字脱字転記ミスがあった場合は、不合格。
それで受験生の9割が脱落する。
複雑怪奇。
見ただけで気が遠くなる。
ちなみに、合格者の答案はそのまま綴じ込まれて、魔法学校の写本の一部になる。なんて一石二鳥。
で、私のクラスは新年から新しい魔法に取り組むので、そこの章を書き写しておかなくてはならない。
もうみんなそれぞれに進んでいるけど、私は寝込んでいたので、まだ1枚も出来ていない。
うう。
先が思いやられる。




