その26 有無を言わせず
「どーしたんですか?」
エドモン君、なんか授業があったはずだけど。
「君こそ。こんな所で。」
副学長は私と大臣を見比べた。
「何か問題が?」
「まぁね〜。私にはお妃様は無理かもと思って、帰る所です。実家に。」
「は?」
エドモン君は目を瞬かせた。そして
「何かあったのか?」
「ネリア様が、私にお妃教育したって無駄だって。山出しだから。」
ちょっと口を尖らせると、エドモン君はため息をついた。
「やっぱり最初は俺がついておくべきだった。そう思ってここへ来たんだ。」
「はぁ。」
「お妃教育ってのは、あくまで暇つぶしだ。結婚式が二カ月より短くはならないんだから。その間、王宮で何にもする事がないと退屈だろうと思って。」
うう。気持ちはありがたいんだけど。
エドモン君は、私の表情を見て、色々察したようだった。
「ネリア妃と仲良くなれれば一石二鳥だと思ったんだが。」
「多分向こうには、そんな気さらさら無いと思います。」
「なるほどな。」
あごに手をあててしばらく考えて、エドモン君は言った。
「では先に、君の診療所の方を整えよう。」
大臣のおじさんは、横でアワアワしている。
「殿下、その、ネリア様の方は。」
「いいから、放っておけ。物事の本筋を理解していない馬鹿者に、用はない。」
「は。」
おじさんのハンカチは、もう絞れば汗が滴りそうな勢いだ。
「向こうでの結婚式も、先にやってしまおう。」
「えっ。」
今さっき、結婚やめてフラメ王国とかに逃げちゃおうかな?とか思った所だった。
エドモン君はそんな私を見て、にやりと笑った。
「問題ないよな?」
「まあ、ねぇ。」
何か見抜かれている。悔しい。
「そうと決まれば、早速準備にかかろう。時間が惜しい。」
という訳で、またしても高速移動陣。
もうね、最初こそジェットコースターみたいなドキドキワクワク感があったけど、さすがに慣れた。
エドモン先生が寝ちゃうのも分かる。
そしてさすが王族。
本来なら申請して許可が下りるのに三日ほどかかるのに、王族は「使いたい」って言ったらすぐ乗れる。
高速移動陣は、言わば単線の電車なので、途中で正面衝突しないように、ダイヤを調整する必要がある。
しかし王族が使用する場合は、他の移動陣は全部途中停車?して、王族を優先させるのだ。
快適過ぎる。座席もグリーン車並みのふんわり感。
だけど、つい一昨昨日に乗ったばかりだ。
東京〜大阪の日帰りを、三日おきにしてみな?
三回目にはうんざりだよ。
となると、私も座席を倒して屋根の覆いを広げて、オットマンみたいなのを引き出して、寝るしかない。
アレないのかな。
ほら、瞬間移動的な。○こでもドア的な。
魔法転移門的な。
荷物とかでも、四次元ポケットみたいな物があったら、物流が劇的に変わるだろう。
でもこの世界の魔法は、意外に理論的。
理屈にかなっていなくて、物理法則を無視しているから魔法なんじゃないの?とか思うけど。
ギーネ町に到着すると、エドモン君はすぐに町役場へ行って、小さな一軒家を借りた。
町の中心部からは少し離れるが、家具付き、庭付き、厩付き。
しばらくは宿屋に泊まりつつ、必要な物を揃える。
「いつでも開業出来るぞ。」
エドモン君が言った通り、魔法医は、普通の医者と違って、消毒薬も要らなければ包帯も要らない。
椅子と、まぁベッドと、カルテを書く台、魔法書があれば、オールオッケー。
「結婚式はここでやるのか?アルベ村か?」
エドモン君さらっと言ってるけど、その有無を言わせずに物事を進める所、ちょっとムカつく。
数日後には、アルベ村の神殿での結婚式の手配も済んだ。
大体、結婚式の何が大変って、衣装を用意するのが大変。
レンタルドレス屋さんもないし、普通の人は服屋さんで作ってもらうか、自分で手作りとか。
でも私は、お母さんのドレスを借りる事になっている。
サイズはちょこっと直せば大丈夫。
「本当にいいの?貴族様との結婚なのに、お下がりのドレスで。」
お母さんは心配したが、その辺は全然大丈夫。
エドモン君も、貧乏貴族っぽい礼服をどこかで借りたらしい。
しかし見せかけだけの結婚式って、ほぼコスプレなのでは。




