その24 太陽の国
「この世界は。」
エドモン先生は言った。
「どう考えてもおかしい。」
ほとんど独り言のよう。
パンを食べながらうんうんと聞いている。
歴史書に曰く、昔々我々の祖先は、太陽の国から山のような魔導書と共にこの国の東方に降り立った。
木を切り畑を作り、西へ西へと領土を広げ、やがて村長は国王となり、国王は広い領土を二人の息子に譲った。
フラメ王国とユール王国の始まりである。
二つの国は助け合い、時に険悪になりながらも、同じように発展して来た。
「しかしそれ以上にはならない。ある時点を境に、西への開拓は進まなくなった。海を渡る事も出来ない。」
確かにね。
「では我々の祖先は、どこから来た?本当に太陽の国から来たのか?では、太陽の国はどこにある?」
エドモン先生は、色々な文献を調べた。
そこで見つけたのは、この国の祖先は船で海を渡って来たらしい、という事だった。
太陽の国は、海の向こうにある。
「だけど、どんなに頑丈な船を作っても、外洋に出られない。それどころか、この大陸を一周する事さえ出来ない。必ず失敗する。」
そんな強い水棲魔獣がいるのに、東側の海辺をその魔獣たちは襲わない。
フラメ王国とユール王国の間を行き来している限り、船はほぼ無事に航海を終える。
結論。
「俺たちは、ここに閉じ込められている。」
なるほどねー。うんうん。
お白湯を入れてもらって、飲む。
「おそらくは、君にその精霊魔法を与えた、高位の存在に。」
白湯を噴きそうになった。
「はい?」
「まぁ俺の推論だから、聞き流してくれて構わないが。」
エドモン先生は、私のカップからこぼれた白湯を拭いた。
「閉じ込めて、どうするって言うんです?」
そう言えば、養殖されているみたいって、私が言ったんだった。
「私、なんかやんないといけないんですかね?」
「あ、いや。」
エドモン先生は少し焦ったようだった。
「思いついた事を言ってみただけで、心当たりがなければいいんだ。」
心当たりは、うん、あるね。
あの神様は、面白ければなんでもいい、みたいな言い方だった。
この世界が、あの神様の箱庭だったとしても驚かない。
あー。なんか気が重くなってきた。
もうちょっと華々しく何かしようよ、という神様のオコトバを思い出す。
活躍しなけりゃ特典を取り消す、とも言ってたな。
「でもほとんどの人は、普通に幸せに暮らしてますよね?」
「うん。今まで歴史上、魔獣が王都近くまで来たのは、七年前に一度だけ。」
「あー。エドモン先生、様、が追い払ったという。」
「迷子の飛竜が、うっかり城壁の監視塔に降りたせいで、塔が壊れただけだ。まぁ大騒ぎにはなったが、落ち着かせる魔法で元の森に戻った。」
あ、そう言う事。
「だから余計に思う。この世界では、ヒトはここまで、魔獣はここまで、と居場所が決められていて、もう何をしてもどんな努力をしてもこれ以上にはならないんじゃないかって。」
ああ。
この賢い王子様を苦しめているのは、このとんでもない閉塞感。
すごいな。
普通の人は、自分の周りが平穏に保たれていて、働いてお金もらってご飯が食べられれば、それで幸せなのにな。
むしろ働かなくても食べていけるから、余計な事を考えちゃうのかね。
「エドモン、先生、様、のお考えは分かりました。出来ることがあれば、言ってくださいね。」
とりあえず、このいつも不機嫌そうな王子様のご機嫌を取っておこう。
「ところでその、先生様ってなんだ。」
あ、そこ引っ掛かりました?
「呼び捨てしにくいんですもん。せめて、様付けさせて下さい。」
「駄目。皆に王族ってバレたら面倒だ。」
当然、殿下と呼ぶのもダメ。
「じゃあせめて先生って呼ばせて欲しいです。」
「夫婦でそれは変だろう。」
この人も、頑固だな。
ふと思い付く。
「じゃあ〜、エドモン君。」
「は?」
ちなみに、ユール王国語に「○○君」に相当する単語はない。
これは前世の日本語だ。
「エドモンクン?」
エドモン先生は首を傾げながらも、それなら誰に聞かれても支障はないと納得したようだった。
昔、会社の後輩を君付けで呼んでたなあ、とか思い出す。
「エドモン君て、私の事が好きなんですか?」
お昼になったので、一緒に食堂に向かう。
並んで階段を降りていたけど、ついからかいたくなってそう言ったら、不機嫌そうな表情は変わらないのに、見る見る耳たぶがピンクになった。
「言う必要があるか?」
「だってー。夫婦とか言うから。」
「そっ・・」
エドモン君は、言葉に詰まると、階段を駆け下り始めた。
「先に行く。」
わー。可愛い。
いいかも。悪くないかも。




