その22 条件で
それから数日は、嵐のように過ぎた。
翌日、エドモン先生だけが王宮に行くかと思いきや、私も一緒に国王の執務室に挨拶に行った。
「結局そうなるんじゃないか。」
とエドモン先生は叱られていた。
昨日までは婚約者じゃなかったから、と言い訳している。
あんまり王宮に帰らないとか言うから、仲が悪いのかと思いきや、そうでもないように見える。
「俺は別に、結婚する気はなかったんだけど、セレネが、俺がいいと言うから。」
ぐずぐず言い訳をしている姿を見ると、むしろ甘ったれ末っ子に見える。
しっかりしろ、二十五歳。
エドモン先生は、自分は省みられない不遇な第四王子みたいな言い方をしていたけど。
実際は、赤ちゃんが生まれて一時的に関心がそちらに移った事に拗ねて、魔法学校にプチ家出したら、こじらせて戻りにくくなった、のでは?
しかし帰る道々そう言ったら、不機嫌そうなエドモン先生は軽く肩をすくめた。
「あいつらは、放置した息子に後ろめたいだけだ。」
ああ。
親子って難しいなぁ。
親が全世界だった頃に、裏切られたと感じたら、それを修復するには二十年では足りないのかも。
オレの娘と息子は、どうしているだろうか。
やっぱり裏切られたとか思ってんのかな。
「嫌いって訳じゃないんだが。あんまり仲良くしたくもないんだ。」
うーん。拗らせている。
ただ本当に優秀な魔法使いではあるらしい。
何しろ戦術系魔法使いとして全課程を修めた後、もう一度医療系魔法使いとして専門課程を修め、さらに工業系魔法使いの専門課程も修めた。
古代語魔法の使い手としては、ほぼ全方位敵無しという感じ。
さらに翌日は、私の実家に婚約の報告に行く。
たった五日前に戻ったところだから、妹に
「どうしたの。忘れ物?」
とか言われた。
「えーと、こちらのエドモン先生と、結婚する事になったので、挨拶に来たの。」
うえぇ。
妹も、弟も、うめき声みたいな驚きの声を上げた。
「えー。魔法医になって戻って来るんじゃないの。」
「結婚て、ねーちゃん、そっちのひょろひょろと?」
ひょろひょろと言われて、エドモン先生は地味に凹んでいる。
「あ、まぁ色々あって。政略結婚みたいなものよ。お互い納得済みだから、大丈夫。」
「政略結婚〜?」
不審がる両親に、実はこの人王子様ですとは言えなかった。
とある貧乏貴族の四男だけど、隣国の貴族に結婚を迫られているので、断るため体裁上結婚する事になった、と説明する。
「魔法医を開業するのはどうするの。」
「ギーネの町に開業するから。」
エドモン先生は、げっという顔をする。
「結婚式は、どうするの?」
お母さんはソワソワしている。
「この村の神殿で、来月やるわ。この人の親族は来ないかもだけど、この人の領地でもう一回披露宴だけやるから。」
後でエドモン先生に文句言われた。
「勝手になんでも決めるな。」
「だって、この国の王子様と結婚、なんて知ったら、皆ひっくり返っちゃう。」
貧乏貴族と聞いただけでも、両親の心配は半端じゃなかった。
こんな田舎育ちの平民の娘が貴族様と結婚なんて、本当に大丈夫か、と散々言われた。
だよね。
割にゆる~いけど、ちゃんと身分制度はある。平民が貴族に見初められても、普通は妾止まりだ。
ちゃんと挨拶して結婚なんて、なかなかない。
実はこれだけでもかなりヤバい。
貴族に伝手が出来たと知ったら、近隣の連中が、どんな無理難題を持ち掛けてくるか分かったもんじゃない。
主にインフラ系。そして人手。
この辺鄙な村をお救い下さい、的な。
逆に村八分になる可能性も。
なので、結婚式は、この辺の子がやるのと同じレベルでやる。
出来るだけ普通アピールしておかなくては。
貴族だけど、大したことは出来ないんだよ、てな感じで。
エドモン先生は、仕方ないなあと、ため息をついた。
何しろ私の希望は可能な限り全部聞く、という言質を取っている。
地味めの結婚式を二度やるぐらい、頑張ってもらわないと。
日帰りで王都に戻った翌日は、私の引っ越し。
エドモン先生は、魔法学校の敷地内にある教職員住宅に住んでいたので、そこの単身用からファミリー用に移り、私も寮からそこに移った。
徒歩三分。
寝具の他は、服が二箱、本が二箱。
リリアにも手伝ってもらって、何往復かしたら終了。
「ホントに結婚するのねー。」
呆れるような、感心するような、リリアの感想。
「まぁね〜。これでいいのかって気もするけどね。」
前回が恋愛で盛り上がっての結婚だっただけに、この条件だけの結婚はちょっと不安がある。
リリアは、励ましてくれた。
「結婚って勢いって言うし。気に入らなければ、離縁すればいいんだし。私達には、何と言っても手に職がある!」
おおー。
確かに。
ありがとう、リリア。勇気出た。




