その21 急転直下
エドモン先生の狼狽っぷりときたらなかった。
「俺?」
「はい。」
「いや、しかし、しかし、君と俺では十歳も年の差が・・。」
「それは今伺いました。」
にっこり笑いかける。
エドモン先生はオロオロしている。
「俺の王位継承権は、かなり低いし。」
「分かってます。」
「愛想もよくないし。」
「それもイヤってほど分かってます」
「体も鍛えてない。」
「でしょうネー。」
副学長室からあんまり出てこない。
鍛えているわけがない。
「ひ、人付き合いも良くないし。」
ちょっと言い訳多いな。
「私の事、嫌いなんですか?結婚したくないならそう言って下さい。そんで、選択肢の中に入れないでもらえます?」
きっぱり言うと、エドモン先生は黙った。
やがて恐る恐る、
「なんで俺なんだ?ルカスと結婚した方が、ずっとメリットがあると思うが。」
分かってないな〜、若造くん。
「メリットはあります。」
「どんな?」
「言いません。私の意思を尊重してくれるんですよね?」
にまにましていると、エドモン先生は耳だけ真っ赤にしたまま、まだ往生際が悪い。
「ええと、俺は女の子と交際した事が無いんだが。」
「はい。」
「それでもいいんだな?気の利いた言葉とか言えないぞ。」
「全然大丈夫です。」
「そのぅ、れ、恋愛感情とか期待されても。」
「くどい。貴族の結婚なんてそんなもんだって、さっきエドモン先生が言ったんでしょ。」
「そ・・そうだな。」
エドモン先生は天井を仰いで、助けを求めるように窓の外を見て、私を見た後、床を見た。
助けはどこからも来なかった。
いい加減、言った責任を取れ。
「分かった。」
渋々、と言った感じで、エドモン先生は頷いた。
「明日、王宮に上がって、婚約を報告して来る。」
「はい。よろしくお願いします!」
今度こそ部屋を出た。
うん。なんか勢いで、ちょっと思い切った事をしたな。
ま、いいか。
もちろんメリットはある。
王太子の息子は、中央に近すぎるので却下。
きっとお妃教育とか何とかで、すごく窮屈な思いをするだろう。
一方自由にやってるっぽい第四王子の奥さんなら、きっと私も自由にやらせて貰えるに違いない。
第三王子の後妻は、どのみち中途半端なので却下。
それに、エドモン先生の為人は、よく分かっている。
ずっと不機嫌そうな様子ではあるけど、この人は国の事も生徒の事も大事にしている。
嘘がつけない正直者。裏表なし。
結婚歴もないし、愛人もなし。
そしてイケメン。
端くれと言えども王子様。
めっちゃ優良物件じゃん。
昔、立花幸太郎だった頃、後輩の可愛い女の子と大恋愛して結婚したものの、その後の束縛が激しくて、疲弊した。
ちょっとした飲み会も、参加者の報告必須。
女性と二人きりでは、会社で仕事の打ち合わせさえ出来ない。
うっかり家で、仕事のメールを受け取ろうものなら、浮気だ浮気だと騒がれる。
やがて子供が生まれると、育休必須、みっちり育児を仕込まれて、でもあんまり子供に懐いて貰えないとか。
要するに、恋愛結婚にそんなに夢がない。
結婚は生活だ。
信用出来て、信用してくれる相手とでないと、日々を積み重ねるなんて出来ない。
その点、エドモン先生は大丈夫そう。
「何だったの?」
部屋に戻ろうとしたら、途中でリリアが待っていた。
心配して、待っててくれたのだ。ごめん。ありがとう。
隠すのも変なので、白状する。
「えーと、エドモン先生と結婚する事になったの。」
「ええっ?」
リリアは口をあんぐりあけて、しばらく絶句。
「なんで?」
「うーん。この前、魔獣退治に一緒に行った時に、気に入られたんだと思う。」
「でもめっちゃ年上だよね。」
「十歳上。でもまあいいかーと思って。」
ふえぇとも、ひえぇともつかない声が、リリアの口からこぼれる。
その後、明日から新学期だというのに、魔法学校は大騒ぎになった。
私も、何となくふわふわしている。
一応、実家に連絡しないといけないよね。
あと、魔法学校卒業だし、どこに住むことになるんだろう。




