その20 選択肢
おかしいなぁ。
確か私が故郷の村に着いた時で、残りの夏休みはまだ半月以上残っていたはずだ。
その後の魔獣退治も、相当手際よく片付けたと思う。
睡眠時間を削ったせいで、ニ、三回ぶっ倒れたけど、そんなに時間を無駄にしたつもりはない。
なのに王都に戻ってきたら、夏休みはあと四日しか残っていなかった。
ひどい。
ただ報酬はたっぷり貰った。
アルダーからも、退職金だという名目で、結構な額のお金が支払われたらしい。
なので、例の高速移動陣を使って、実家に何とか一泊する事が出来たけど。
なんか忙しなくて悲しいなぁ。
新学期の準備をしながらリリアに愚痴っていると、またしても、副学長に呼ばれた。
「私の事を雑用係とか思っているに違いないよ。」
とか怒りながらも、仕方ない、行かない選択肢はない。
やれやれと思いながら副学長の部屋へ行く。
エドモン先生は、魔獣退治から帰って来た時よりも疲れた顔をしていた。
「何か用ですか?」
「ああ。まず、」
そう言った後、先生はしばらく言葉が出ない。
どーしたのかね。
お疲れみたい。
はぁ、と大きなため息をついて、先生は言葉を継いだ。
「まず、君は今日を持って魔法学校を卒業とする。」
「ええー!」
思わず叫ぶ。
「なんで?」
「この前の魔獣退治の折、君は一日で三百名以上の怪我人を治療した。通常の魔法医でもなかなか出来ない功績だ。もはや学校で教える事は何もない。卒業証書については追って授与する。」
あ、そうか。
そう言えば、一昨日実家に帰った時も、おばあちゃんの膝を治してあげたっけ。
おおー。私、正式に魔法医になれるんだ。
いつの間にかって感じだけど。
「あざっす!」
礼を言って、部屋を出ようとすると。
「待て。話は終わってない。」
あ、そうだそうだ。
「まず」って言ってたもんね。
「はい。何でしょう。」
もう一度、先生の机の前に戻る。
でも顔が緩むのを我慢できない。
これで学費の心配は要らないし、実家に戻って魔法医を開業出来る。
などと考えているのを見透かすように。
副学長は重々しく言った。
「君の、治癒魔法の功績は素晴らしかった。」
はい、ありがとうございます。
「素晴らし過ぎて、王国騎士団から直接国王陛下に報告が上がった。」
「はい。」
へー。なんかご褒美くれるのかな?
のんきに構えている私に。
「君が、俺の婚約者だという話と一緒にだ。」
「えっ。」
「一応否定はしたが、それだけの能力が、国外に流出しては一大事だという話になって。」
「えっ。」
「確認するが、君、故郷の幼馴染とかアルダーの隊とかに、好きな人や言い交わした相手はいるか?」
「まぁ・・いませんけど。」
え。話の行き先はどこだ?
「それは、まあ、よかった。それで、候補は三つ。」
何の。
「今の王太子の二番目の息子は、君の一歳年下だ。それと、俺のすぐ上の兄上が、去年妻を亡くして、男やもめだ。あとは、俺。どれにする。」
「な、な、何の候補なんですか?」
「だから、結婚の。」
「ええー!」
頭の中が、真っ白になった。
「年回りは、甥のルカスがちょうどいいかと思うが。セレネ?」
絶句して立ち尽くす私に、エドモン先生は、あんまり話が急過ぎた、と反省したらしい。
椅子を勧めて、それからゆっくり説明してくれた。
「君のデタラメ魔法が皆の知る所になれば、あちこちからそれを狙う者が現れるだろう。君自身が悪意に染まる事も有り得る。」
なんか、やな感じ。
「そんな不満そうな顔をするな。可能性の話だ。」
そうかも知れませんけど。
「君が王族になれば、堂々と護衛をつけられる。王室歳費で暮らせるし、ルカスの妻ならこの先、王妃になれるかも知れないぞ。」
そんなに嬉しくないなぁ。
「ルカス様って全然知らない人ですけど。」
「貴族の結婚なんて、そんなもんだ。いい子だぞ。」
「・・でも王宮にほとんど帰ったことがないんですよね?甥っ子の事も、実はよく知らないでしょ。」
図星だったらしく、エドモン先生はぐっと言葉に詰まる。
正直〜。
そこは嘘でもなんでも、売り込まないといけないのでは?
「この話を断ったら、どうなるんです?」
「うーん。政府の中に君の役職を用意する事になるかな。どのみち監視はつくだろうが。」
考え考えエドモン先生が言う。
あーあ。監視って言っちゃったよ。
「それだけ君の魔法が凄いと言うことだ。」
「なんか嬉しくないんですけど。」
「まあゆっくり考えてくれ。卒業証書授与まで三日ほどある。今後、故郷に戻るにしろ、役人になるにしろ、基本的には君の希望を尊重する。」
訳が分かんない。
私の魔法がデタラメに強いので、それを囲い込みたい、て事だけ分かる。
ヨロヨロ部屋を出ようとして、ふと思い付く。
「あのー。」
「なんだ。」
「副学長っていくつでしたっけ。」
エドモン先生は怪訝な顔になった。
「俺か?二十五だ。」
うーん。九つ上か。
あ、ちなみに私、この前十六歳になりました。
「エドモン先生と結婚するんだったら、いいですよ。」




