その19 後片付け
魔獣は町の外に追い出され、人々は後片付けに追われていた。
イノシシは、うまく捌けば皮や牙が防具なんかの素材になるけど、爆散したんじゃほぼゴミだ。
町の広場では、騎士団がそれぞれの仕事を確認していた。
そもそもの辺境警備隊は、破られた城門の修理と、周辺にまだ残る魔獣の掃討にあたっている。
応援の騎士団は、怪我人の手当と、運搬。
その後、近隣の町・村の見回りを手分けして行うらしい。
アルダーを見かけたとおもったら、元いた村に戻る所だった。
こちらを見た笑顔がイヤらしい。
「私達は病院行くんですよね?」
エドモン先生と歩きながら、聞いてみる。エドモン先生って、治癒魔法が使えるんだよね。
「そうだな。」
相変わらず不機嫌そう。
この人のご機嫌な所を見てみたいもんだよ。
並んで隊長に発破をかけられている騎士団の横を通り過ぎる。
「エドモン親王殿下!」
急に声をかけられて、副学長はビクッと肩を震わせた。
見ると、隊長以下、最敬礼でこちらを見ている。
「ああ。えーと。」
「この度は殿下御自らご助力頂きまして、誠に忝なく、我ら一同感謝の念に絶えません。」
隊長のまっすぐな眼差しに、エドモン先生は若干狼狽えている。
「あー。礼には及ばない。あらかた君たちの活躍のおかげだから。」
そそくさ、という言葉がピッタリな様子で、エドモン先生はその場を離れようとする。
「ご婚約者様にも、わざわざこのような危険な場所においでいただき、お力添えいただけるとは。さらなる励みとなります。」
ご・婚約者・様。
え?私?
「もうさほどの危険はありませんので、ご安心ください。」
「そうか。了解した。今後ともよろしく頼む。」
「はっ。」
今度こそ、エドモン先生はスサササっという感じでその場を離れた。
「えっ。先生、訂正しないんですか?」
慌てて追いかけながら、聞いてみる。
「どうせアルダーのいたずらだ。いちいちまともに取り合う事もない。君には嫌な思いをさせるが、ここにいる間だけだから我慢してくれ。」
ああ。あの馬鹿アルダーか。
ちっちゃな悪事をこなすのはマメだな。
「ねぇ殿下。」
「やめろ。」
「殿下って呼ばれるの、嫌なんですか?」
「あんまり呼ばれたことがないから。」
見ると、エドモン先生は耳だけ真っ赤っ赤だった。
可愛い。
「えー?理由聞いてもいいですか?」
「それ聞くのか。ホント田舎者だな。」
ちょっとひどい。
そんなに当たり前の事なの?
「一番上の兄上は、俺より十五も年上で。」
エドモン副学長は、一応答えてくれるらしい。歩きながらそう応じた。
あー。そう言えば今の王太子って割にオッサンだったな。
「俺が七つの頃には、もう結婚して子供がいた。当然その子が次の次の世継ぎだ。父上だって、初孫に夢中だよ。俺はね、王宮の行事にほとんど出た事がないし、八つで魔法学校の寮に入ってからは、あんまり王宮に帰ったことがない。」
魔法学校では、貴族だろうと平民だろうと皆同じ扱いだ。寮だって、自分の事は自分でするしね。
病院の前に着いた。
「だったらさっきの隊長さん、よく先生の顔、知ってましたよね。」
「謁見室の壁に、王族の肖像画が飾られているからな。」
病院のドアを開けると、中は血の匂いとうめき声に満ちていた。
「さっさと片付けて、王都に帰るぞ。急げば、新学期に間に合う。」
うー。
私の夏休みは、これで終わるのか。
家族とちょっとはゆっくりしたかったのに。
残念だけど仕方ない。
包帯に血が滲んでいる怪我人が築地のマグロのように並んでいる病室で、エドモン先生に指示された。
「とにかくデカい声で叫べ。」
私の治癒魔法は、唱えたら、それが聞こえる範囲の人全員に効果がある。
大きく聞こえるほど治癒力が上がる。
「ヨッコイショーイチ!!」
各部屋で、叫んで回る。
最初は恥ずかしかったこのオヤジギャグ魔法、なんかもう、慣れた。
どうせ中身はオッサンだしな。
神様に「取り消す?」と聞かれたら、惜しかった。それなりに役に立つし。
十回叫んだら、大体終わった。
病院の人達に、めちゃめちゃ感謝された。
お礼に、といっぱい金貨を貰う。
医者や看護婦の超過勤務手当を考えたら、妥当な金額なんだそうだ。
なので、ありがたく貰っておく。
そしてその代わりに、と馬車付きで別の病院を紹介された。
まあね。この町にまさか病院一つって事はないだろうけどさ。
結局全部で4つの病院と応急の救護所を回った。
途中、城門近くの救護所で治癒魔法をかけて回った時は、そこを警備している騎士団に、
「エドモン殿下バンザイ!セレネ様バンザイ!」
みたいな事を叫ばれて、先生だけでなく私まで顔を引きつらせる羽目になった。
やめてー。
めっちゃ恥ずい。




