その18 ザマァでスッキリ
「セレネの…が、…お前が…連絡…昨日…」
聞き取りにくい。
盗み聞きの魔法とかないかな。
「壁に耳ありクロード・チアリ」
とか言ってみる。
だめ?
でもエドモン先生の声が急にはっきり聞こえ始めた。当たりだ。
意外に何でもありだな。
「お前がどうしてもというから、無理を承知で彼女に行ってもらったんだろう!それでどうして、彼女を、お前が、クビにするんだ。おかしいだろう。」
そうだそうだ!もっと言ってやれ!
「くそ、リナの奴。」
「何故リナに当たる。お前が悪い。」
「あーもう、なんだよ。分かったよ。金は返す。それでいいんだろう。」
なに?どこの、誰の金?
「当たり前だ。」
「まあ、あの娘が復帰してくれりゃ、後は何とかなるしな。」
「それはセレネ次第だ。」
「何だよ。そのつもりで連れてきてくれたんじゃないのか。」
「いや、魔獣退治に彼女の力を借りたいと思ったから連れて来ただけで、お前の隊に復帰するかは別問題だ。」
壁に耳を当てて聞きながら、心の中で激しく頷く。
アルダーの隊に戻りたいなんて、この四ヶ月、一度も思った事がない。
報酬は魅力的だったけど、故郷の村に来てもらっていた医者を断れば何とかなるし、もうちょっと頑張れば、医療系魔法使いとして、自分で魔法医を開業出来る。
やっぱ職場は人間関係よ。
イヤな上司と働くぐらい、キツい事はない。
「うわー。ヤなヤツー。」
アルダーが吐き捨てる。
どの口が言うか。
「なぁ、あの娘をこっちに寄越せよ。でないと、お前が生徒に手を出したって広めて回るぞ。」
ひどい。手を出されてなんてないのに。
「くだらないな。意味があるとも思えんが。」
「意味はあるさ。この王国一番の魔法使いが、別嬪の生徒を恋人にしたって知れたら、フラメ王国の王様はなんて言うかな。」
「おい。」
エドモン先生の焦った声が聞こえた。
「フラメ王国は関係ない。」
「関係なくはないだろう。あっちのお姫さんから、熱烈なお手紙が来てただろうよ。」
エドモン先生は黙ってしまった。
えっ。フラメ王国のお姫様から、ラブレターって事?
ややあって、
「好きにしろ。言っておくが、向こうとの縁談はとっくに断ってある。」
「知ってるさ。結婚に興味ないって返事したんだろ。そんな奴に恋人が出来たら、姫さんはどう思うかね。」
「そんな事まで俺が知るか。」
エドモン先生は素気なく言った。
「とにかく、セレネに手を出すな。自分で戻ると言うならともかく、無理に連れて行ったりするなよ。」
ありがとう〜エドモン先生。
そこまで聞いて、そっとベッドに戻る。
情報量多くて整理出来ないわ。
ええと?
と思っていると。
ドアが控えめにノックされた。
わぁ。
急いで服の撚れと髪の寝癖を直して、返事する。
「はい?」
「起きたか。アルダーが挨拶したいらしい。入っていいか?」
エドモン先生の声がした。
どうぞ、と応じると、ドアが開いて二人が入ってくる。
「セレネ!お前が来てくれて助かった。」
満面の笑みで、アルダーが近寄ってくる。
来たな、セクハラのパワハラ野郎。
「お前のおかげで、この町を守る事が出来た。みんな感謝している。さすがだな。」
相変わらず爽やかなイケメンだ。
さっきの会話を盗み聞きしてなかったら、うっかりほだされちゃったかも。
「あんな風にお前を傷つけて、本当に悪かった。よかったらまた、一緒にやらないか?」
手を握られそうになって、慌てて手を引っ込める。
なーるほど?
急いでベッドを降りて、いつでも逃げられるように、アルダーから一歩離れる。
「ピンハネ。」
そう言ったら、アルダーはビクッと肩を震わせた。
「一緒に仕事をするなら、誠実な人に限りますよね。」
アルダーは、ムッとしてエドモン先生をチラ見した。
「エドモンに何か聞いたのか。」
「なーんにも?」
「そりゃちょっとキツい言い方はしたさ。だけどお前がいなくなって気づいたんだ。俺にはお前が必要だ。頼む。戻って来てくれ。」
一歩近付かれたので、一歩下がる。
真摯な表情に、ちょっと心が揺れるけど。
エドモン先生が横から冷静に指摘した。
「お前の隊は魔獣への対処が遅れて、死者2名・怪我人7名。離脱が3名と聞いている。」
わー。ボロボロじゃん。
ダメだこりゃ。
「見た目なんかにこだわっているからでしょ。情けない。とにかくお誘いはお断りします。今回は短期派遣ってお話だったので、来ましたけど。」
情けない、と言われて、アルダーは顔色を変える。
プライド高いコイツには、刺さっただろう。アルダーはちっと小さく舌打ちした。
「今断ったら、二度と入れないぞ。」
「ありがとう。望む所です。」
エドモン先生が見ているから、それ以上は手を出せなかったんだろう。
アルダーは肩をすくめると、身を翻した。
「いいんだな?」
エドモン先生が聞いた。
「いいでーす。」
ザマミロ。
いやもうホント、あんな切り方してなんで私が戻ると思えるんかな。
自己評価高過ぎだろ。




