その17 神様との約束
「あたり前田のクラッカーあぁ!」
何十回か叫んだ頃には、もう夜も白み始めていた。
爆散するので、辺りは血と肉片で大変なことになる。
でも「怯え」も「つむじ風」も「地震」も、足留めにしかならないので、倒すのは「火花」に偏りがちだ。
騎士団の人と連携出来ればいいけど、魔獣は町中に広がって暴れているので、誰がどこで対処しているのか、全然分からない。
あぁ。
社畜時代の、非常に効率悪い事が分かっていながら、誰が・どこで・何をしているか全然把握出来ないまま、ひたすら目の前のタスクをこなしていた時の事を思い出す。
「セレネ!」
疲れてちょっとぼうっとしていたら、エドモン先生に押し倒された。
わあぁ?
頭の上を、デカいトンビが獲物を捕らえ損ねて飛び去って行く。
あ。助けてくれたのね。
「少し休め。」
そっと助け起こして座らせてくれる。
「でもまだ魔獣がいるし。」
「かなり城壁外に押し戻した。騎士団は交代で戦っている。君だけぶっ通しで戦う必要はない。」
あー。それもっと早く言って欲しかったー。
そう思った瞬間、目の前がふわ~ッと霞んだ。
オヤスミ。
「やぁ、久しぶり。」
気づくと、目の前に男の子が立っていた。
誰だっけ?
「えー。薄情だなぁ。こっちの世界に転生させてあげたの、僕だよ。」
目の前の子は、十歳ぐらいに見える。
あー。そう言えばこんな感じだったかも。
「神様?」
「厳密には神様じゃないけどね。」
男の子はにこにこしている。
「君さ。せっかく転生させてあげたんだから、もうちょっと、華々しく何かしようよ。」
え、なんの話?
「ほらほら〜。これとかさ。『転生聖女は異世界で成り上がる』。」
神様っぽい男の子は、傍らの派手な文庫本を指差した。
それ、どう見てもラノベなんですが。
しかも、結構何冊も山積み。
神様、ラノベ読むんだ。
「これもいいよね!『異世界救済』。」
「あのー?」
「せっかく君を転生させてあげたのにさ、なんかあんまり面白い展開がないんで、つまんないんだよ。」
ちょっと、ちょっと待って欲しい。
オレ、別に面白い展開を望んで、転生を願った訳ではない。
どっちかといえば、むしろ逃避?
それに、転生したかも知れないけど、割と普通の女の子だ。庶民だ。
抗弁してみる。
「そういうのって、大抵『めっちゃハマった中世風ゲームの世界に転生した』話でしょ。貴族の姫とか。王子様とか。『次の展開知ってます』的な感じで。でもここ、全然知らない世界だし。」
神様っぽい男の子は、ポンと手を打った。
「なるほど!」
「それに魔法も。何だ、あの呪文。オヤジギャグって、ひどくない?効果もレベルも分かりにくいんですけど。」
「えー。僕は面白いけどなー。君が絶叫する度に爆笑してるよ。でもイヤなら取り消す。」
「他のに替えてくれます?」
「いや、取り消すだけ。転生時の特典だからさー。変更出来ないんだよ。でも発動しないようには出来るよ。」
神様は、残念そうに傍らの本を手に取った。
「それか、もう一回転生し直す?」
やめて。
「確か他にも特典ありましたよね?」
一応聞いておこう。
神様は、にっこり笑った。
「必要になったら思い出すよ。」
「えー。ケチ。」
つい口走ったら、神様は不満そうに口を尖らせた。
「そんな事言うなら、思い出さないようにしてもいいよ。」
「あ、ごめんなさい。オレが悪かった。」
「どのみち、君の今後の活躍次第では、特典は全部無しにする。」
「えっ。」
「転生させた甲斐がないんじゃ仕方ないしね。じゃ、頑張って。」
神様はスーッと消えた。
え。何それ。どゆこと?
オロオロしているうちに、現実の感覚が戻って来る。
あ、夢見てたのか。
寝てた。
多分どこかのベッドの中。
疲れて体力の限界だったので、ちょっと意識が起きても、目は開けられない。
ひどい夢だった。
神様がラノベ読むって、滅茶苦茶だな。
もうちょっと寝たい。
なのに、隣の部屋から声が聞こえて来て、気になる。
どうやっても眠れないので、逆に耳を澄ませてみた。
「あの娘を渡してくれ。」
聞いたことをすぐ後悔した。アルダーの声だ。
「頼む!イッショーのお願い!」
それに誰かが返事している。こちらは声が小さくて聞こえない。
「そんな事言わずにさー。俺も反省してんだって。」
何を反省しているんだ。
「えっ。いや、ほらそれは。未成年だしさ。」
アルダーの声が、跳ね上がった。
「あんまり大金も良くねぇじゃん?親心ってかさ。」
なんか不穏な言葉が聞こえてくるぞ。
いよいよ目が覚めた。
「じゃあ、交換条件といこうじゃないか。俺は、金を返す。あんたはあの娘を返す。」
「バカか、お前は!」
初めてエドモン先生の声が聞こえた。
「金は当然返すに決まっている。セレネに、だ。俺にじゃない。」
なんか情報量が多いぞ。
聞きたい。
でも出ていきたくはない。
そろ〜っとベッドを出て、ドアの横の壁に耳をあてた。




