その15 カレシ
「彼氏ではない。」
不機嫌そうな副学長は、そう否定した。
まあ、その通り。
「え、そうなの?」
むしろ不思議そうなリナ姐さん。
「こんな西の果てまで付き合ってくれるんだから、てっきり彼氏なのかなーとか思ったよ。」
なんでやねん。
心の中で、思わず関西弁で突っ込む。
かよわい未成年の女の子を、魔獣退治に行かせるんだから、自分も一緒に来るべきでしょ。
リナ姐さんのその言葉に、別の意味があるのを、この時は知らなかった。
「とにかく、女将さんをここから避難させないと。で、馬車はどこ?」
リナ姐さんは、宿の外を見て、副学長を見た。
「もう日も暮れた。移動するなら明日だな。魔獣ならもういない。安心しろ。」
「え、まさか二人で来たのか?」
「そうだ。」
「馬車は?まさか歩きって事は・・」
「ここまで隣村の村長に、荷馬車で送って貰った。」
淡々と告げるエドモン先生。
「あー。そうなんだ。」
リナ姐さんは無口になった。
がっかりしたらしい。
ともかく魔獣避けの措置は施したとの事で、一晩ここで過ごす事になった。
もちろん魔法は永遠ではない。
せいぜい1週間から十日。その間に次の対策を講じないといけない。
エドモン先生のパンパンだったカバンは、かなり軽く薄くなっていたので、貯蔵庫から残っていた食料を出して、軽く料理する。
聞けば、宿のおじさんは魔獣にやられて死んでしまったらしい。
女将さんは、逃げようとして捻挫してしまったとか。
「王都に息子がいるから、そっちに身を寄せるよ。」
命があるだけ儲けものだからね、と女将さんは気丈にそう言った。
真夜中、それぞれ部屋を見繕って引っ込んだものの、私、割と夕方近くまで寝ていたので、あんまり眠くないなぁ、と起きていたら、かすかに部屋のドアをノックする音がした。
そっとドアを開けると、リナ姐さんが立っていた。
「起きてた?ちょっと話しない?」
ここ二、三日貯蔵庫に籠もっていたので、そんなに眠くないらしい。
私もよ、と応じて二人でベッドに座る。
「あんたがクビになってから、魔獣退治が大変だったんだよ。あんたが来る前と同じになったはずなのに、やっぱ人間、一度楽を覚えると、元に戻すのは難しかった。」
そっかー。
「でも、あんたをクビにするのは、私は賛成だった。」
「え、なんで?」
「こんな辺境の魔獣退治に、よりによって未成年の、学生の女の子が来なくていいんじゃないか?そりゃあんたの魔法は凄かったけどさ。」
あー。なるほど。
リナ姐さんの言う事はもっともだった。
その後はリナ姐さんの愚痴大会。
アルダーは、確かに戦士としての腕はあった。
リーダーとしての素質もあった。
曲がりなりにも傭兵団をまとめていたし、私が加わる前から、2年以上も辺境を守ってきたのだ。
でも私がクビになって、たった四ヶ月で魔獣の侵入・攻撃を許すなんて。
「ホント気が抜けてるっていうか。」
そもそも魔獣を退治しつつ、西の森の開拓を進めるのが国としての意向なので、ただ守っているだけでは駄目なのに。
「この2年、魔獣を追い払うのに精一杯。アルダーもホント馬鹿だけど、もうちょっと中央もさ、考えてくれてもいいんじゃない?」
これも何回も聞いた。
アルダーの言い分では、他の村が開拓地を広げているせいで、行き場のなくなった魔獣達がこちらにやって来ているんだ、という事だったけど。
傭兵団のレベルは高いのに、成果はイマイチ。
どこかに何か滞っているものがあるらしい。
社畜生活が長かっただけに、その滞っているものが気にはなる。
ただ中途半端に足を突っ込んだら、ズブズブと首まで沼にはまってしまうだろう事も、想像出来る。
くわばらくわばら。
沼には近寄らないに限る。
で、それはそれとして、とリナ姐さんは私に向き直った。
「あんたのツレの事なんだけど。」
「うん。」
「あの人、あんたのどういう人なの。」
「魔法学校の副学長だけど。」
えー、という顔をリナ姐さんはした。
「副学長?それだけ?」
「うん。」
「だけどさ、エドモン殿下だよね?第四王子の。」
はい?
「王子様?」
え?王子様?




