その14 姐さん
せめて顔は洗わせてもらう。
荷馬車が家のすぐ外に付けてあった。
家は村長さんのらしい。
もっとなんか、助けてくれてありがとう〜みたいな感動の場面があるかと思ったけど、むしろ微妙。
村長さんは感謝してくれたけど、村全体としては
「こんなに滅茶苦茶になって、これからどーすんだよ。」
みたいな、厭世的な雰囲気が漂っている。
ごめんね。
これ以上は面倒見られない。
あと、村の外では葬式も執り行われていた。
さすがに死人までは治せなかったので、仕方ない。
ギリ助かった人もいれば、ギリ間に合わなかった人もいる。
「不公平は世の常だ。」
ポツリとエドモン先生が言った。
あー。確かにね。
含蓄深い。
人生何周目ですか。
オレは2周目です。
でもサンドウィッチを食べながら、涙が止まらない。
魔獣退治より先に治療を優先させていれば、死なずに済んだ人がいるかも知れない。
「君の責任じゃない。泣くな。」
ピシッと折り畳まれたハンカチを出された。
ありがとうございます。
洟かんでもいいですか?
馬車が進むと、懐かしい森や木々が見えるようになった。
村のはずれで降ろしてもらう。
村には人の気配がなかった。
代わりに魔獣の気配が濃い。
「えーと。アルダーはどうしたんですか?」
「奴は逃げて、北の辺境警備隊に合流した。」
もー、ホントにクソ野郎だな。
「私の事を呼んでるんじゃないんですか?」
「アルダーの所には後で行く。より切羽詰まっている方から片付けないと駄目だろう。」
さすが、中身も男前デスネ。
死体っぽいのがゴロゴロ転がっている。
人も魔獣も。
あー。やだなぁ。あんまりじっくり見たくない。
イノシシが数匹飛び出して来た。
「ガチョーン!」
地面が揺れて、魔獣の足が取られる。
「あたり前田のクラッカー!」
爆散。
一丁上がり。
「それで、ここで何をするんですか?」
人は見当たらない。途方に暮れる。
作戦があるのか聞いてみる。
「魔獣を追い払ったあと、村の馬防柵に、魔獣避けの魔法をかける。」
ほほう。
仕方ない。私も一応、報酬分の仕事はしないとね。
村を周って魔獣を数匹爆散させ、それを見た他の魔獣が逃げ散ったあと、逃げ遅れている人がいないか、確かめる。
元々、辺境警備隊の為にあったような村なので、女性は少なく、子供はほぼ皆無。
恐らく危なくなった時点で、みんな退避したはず。
「誰かいませんかー?」
一軒一軒声をかけてまわる。
まぁいないよね。
と思っていたら、赤い稲妻団の詰め所だった家を覗いた時に、ガタッと音がして、飛び上がる。振り向いて、
「ぎゃー!」
「わー!」
ゴロゴロ。
地下の貯蔵庫から覗いていた何かと目が合って、めっちゃ叫んだ。
ら、相手も叫んで、貯蔵庫にかかる数段のはしごから転がり落ちたみたい。
てことは、ヒトだ。魔獣は転がり落ちたりしない。
「あのー。大丈夫ですかー?」
恐る恐る声をかけると、跳ね上げ蓋の下から、顔がのぞいた。
「セレネ!」
「リナ姐さん!」
赤い稲妻団のメンバーだった。
美人かは微妙だけど、とにかくオッパイデカくて、例の防具から色々はみ出している。
「姐さん一人?逃げ遅れたの?」
「まあね、彼女足くじいちゃってさ。」
リナ姐さんが、ではなくて、その奥にいた、宿のおばちゃんだった。
「アルダーはさっさと行っちゃうし。でもここなら、足がちょっと良くなるまで隠れていられると思ってさ。」
さすが〜。リナ姐さん。
気風が良くて、中身が男前。
憧れます。まじリスペクト。
ちょっとおばちゃんの足を見せてもらう。
「ヨッコイショーイチ。」
「え、何?あんた、回復魔法とか使えたっけ?」
リナ姐さんが目を丸くしている。
「学校戻って、勉強し直したのよ〜。」
誤魔化すと、リナ姐さんは、ん?という顔になった。
ヤベ。
リナ姐さんは魔法戦士だ。
通常騎士団とかに所属して、戦場に赴き、戦いに特化した補助魔法を、騎士や兵士にかける。
当然、魔法学校の卒業生。
戦術系魔法使いが、医療系魔法使いにジョブチェンジする事は、滅多にない。
覚える魔法の方向が、違うからだ。
でもまあ、覚えれば何とかなるので、皆無とも言えない。
内科の医者が耳鼻科にジョブチェンジする可能性ぐらいはある。
「まあいいわ。あんたがいたら、女将さんを隣村に連れていけるでしょ。まさか一人で来たってことはないわよね?」
「一人じゃないけど。」
宿のドアを開けて、左右を見る。
副学長の姿はない。
ドアを閉める。
「隣村も、魔獣にやられて大変なの。避難だったら、他の所がオススメよ。」
「ここの村の人達はどうなったのよ。」
「うーん。隣村では見なかったなぁ。」
とりあえずおばちゃんを、地下貯蔵庫から上へ助け出す。
「なんか持ってく?服とか、財布とか。」
「もうまとめてるから大丈夫。」
そこに、突然エドモン先生の顔がのぞいた。
「何をしている。怪我人か?」
「わあ。」
リナ姐さんは一瞬怯んだ後、エドモン先生の顔を見て、半口開けて、その後ゆっくり私を振り向いた。
「・・あんたの彼氏?」




