その13 やっぱり完徹
視線で目標が定まるので、魔獣から目を離さない。
一回、走って来た普通の犬をうっかり見て、爆散させちゃったけど。
ごめんね。
十回ぐらい絶叫したら、魔獣はいなくなった。
良かった。
さすがにヘトヘトよ。声も枯れた。
「魔道士様、ありがとうございます!」
村長らしいおじさんが、走り寄って来た。
「おかげさまで、村は助かりました。」
振り向くと、火事は燃え尽きたのか消火出来たのか、あらかた消えていた。
灯りを持った人たちが、怪我人を運んでいる。
こちらにお連れ様が、と案内された先には副学長がいて、怪我人に治癒魔法をかけていた。
いいなぁ。
私がやりたかったヤツ。
しかしさすがに力尽きて、座れる所を探す。
怪我人の横たわる隙間に椅子があったので、引っ張って来る。
「あー。ヨッコイショーイチ。」
やっと座れた。
何しろ3時間ぐらいは立ちっぱなしだったし。
疲れたー。
いやもう、勘弁して欲しい。
ふと気付くと、辺りは静かになっている。
ん?
こちらをエドモン先生が見ている。
「何ですか?」
「今、何だって?」
「は?」
周りを見ると、さっきまで大怪我で呻いていた人たちが、静かになっている。
やべ。
うっかり殺しちゃったのかも。
慌てて覗き込むと、みんなスヤスヤ眠っていた。
良かった。
殺してはなかった。
「今、魔法を使っただろう。」
「えー?ヨッコイショーイチ?」
エドモン先生は、ビクッと肩を震わせた。
「そのデタラメ魔法だ。」
ああ。
これ、効果がイマイチ分からなかったオヤジギャグだ。
「元気になりました?」
「怪我が治せるなら、さっさと端からかけろ。向こうの建物にもいるぞ。」
治癒魔法だった。
え、そーなの?
重い体を引きずって、まだ呻っている怪我人の方に近付く。
「ヨッコイショーイチ。」
あー、ほんとだ。
包帯の下は分からないけど、手足の擦り傷とか見る間にキレイになっていく。
「ヨッコイショーイチ。」
「ヨッコイショーイチ。」
村役場の集会室の床に転がされている人々に、声をかけていく。
エドモン先生に促されて、向かいの建物に行くと、そこは診療所だった。
わー。血まみれの人がいっぱい。
そこでも声をかけて周る。
なるほどなぁ。
元気な人には効果があんまりないけど、怪我人には抜群の効果だ。
やっぱりこれも、発動条件の問題だった。
でもねー。ホント、このオヤジギャグ魔法何とかして欲しい。
もうちょっと邪王炎殺黒龍波!とかエクストリームヒーリング!とかカッコ良くて、かつ聞いただけで効果が分かる魔法にならないもんかね?
贅沢を言えば、素敵エフェクトで光ったりキラキラしたりして欲しい。
治るには治るけど、ホント地味なんだもん。
でもまあ、実際問題そんなもんなのかもね。
ここは素直に、喜んでおこう。
神様、役に立つ魔法ありがとうございます。
一通り治療が済んだら、もう外は明るくなっていた。
やっぱり完徹だった。
おやすみ。もう動けない。
次に目が覚めた時、見た事のない部屋のベッドに寝かされていた。
よく寝た。
お腹空いた。
起き上がって部屋を出ると、そこに先生がいた。
「おはようございます。」
挨拶したら、不機嫌な顔が応じた。
「もう夕方だ。」
でしょうね。
「魔獣退治は終わりですか?」
期待を込めて聞いてみる。
「今から西へ向かう。」
へいへい。やっぱりね。
エドモン先生が座っていた椅子の前には、荷物でパンパンに膨らんだカバンが置いてある。
「君が起きるのを待っていたんだ。すぐ行くぞ。」
わー。
待って待って。
お腹空いた。
お風呂入りたい。
それぐらい許される活躍をしたと思うんですが。
「メシはこの中だ。移動しながら食べろ。」
エドモン先生は、カバンをポンと叩いた。
ああ。なんかそうじゃないかな、とは思ってたよ。
期待を裏切らないなぁ。




