その12 必殺技
副学長って、給料いいんだな。
二度目の高速移動陣で、まだかすかに明るい西の空を目指して飛びながら、そんな事を思う。
酒場の代金をサクッと支払い、高速移動陣の代金も2人分サクッと支払い、それでもお財布ヨユーそう。
前世で小遣い3万円だったオレからすると、羨ましい限りの気前良さ。
その副学長は、またしても隣で寝ている。
長い睫毛が、さすがイケメンって感じだ。
前にアルダーの隊に加わった時は、「行ってこい」って感じで、場所だけ伝えて放ったらかしだったのに、今回は一緒についてきてくれるのが解せない。
そう言えば前の時は、乗り合い馬車で三日かかった。
支度金でお財布が潤っていたので、普通に宿もとった。
だけど、いざ自分の故郷に医者を派遣しようとしたら、まず診療所の準備から始めなくてはならず、思ったより高くついた。
生命保険込みの高額報酬にも関わらず、オレの財布は常にギリ。
ちょっと騙された感もあって、アルダーから隊を追放された時は、清々したもんだった。
今回は一発勝負で、報酬が前の八割なら、結構おいしい仕事だ。
コーヒーカップの下を、時折西へ向かう街道が横切る。
日も暮れているのに、結構な数の荷馬車とすれ違う。
最初はお仕事ご苦労さん、とか思ってたけど。
違った。
みんな西から逃げているんだな。
うーん。そこへ行くのか。
今どうなっているんだろう。ちょっと恐い。
アルダーは、本当セクハラのパワハラ野郎だったから、あいつがどうなろうと知ったこっちゃないけど、傭兵団の中には、仲良くなったお姉様方も何人かいる。
無事を祈る。
やがて副学長が目を覚ました。
「そろそろか?」
「いやー。よく眠れますよね?」
「寝ておかないと、多分今日は徹夜だろうからな。」
え。それを先に言って?
「未成年を午後8時以降に働かせると、労働基準法とか、児童福祉法とかに違反するのでは。」
抵抗してみる。が、エドモン副学長には効き目がなかった。
「何を言ってるか、さっぱり分からん。」
デスヨネー。
コーヒーカップは徐々に速度を落として、やがて高速移動陣の塔に、ふわっと着地した。
座りっぱなしで、お尻が痛い。
さすりながら一階まで降りると、ドアの外に馬車が横付けになっていた。
おおぅ。
この上、馬車も使うんですか。
「急ぐからな。」
私の表情に気付いた副学長は、不機嫌そうにそう言った。
もうすっかり暗い。
はずなのに、西の空がほんのり赤い。
家か何かが、炎上中って事だ。
「あそこですか?」
恐る恐る指差す。
「あそこだな。」
エドモン先生は頷いた。
なんかーちょっとーイヤな感じがーするー。
さらに馬車で揺られること、三十分。
パド村のはずれで馬車を降りた。
村の中で、何か燃えている感じと、人が喚いている声。
ここは、アルダーの傭兵団が根城にしていた村よりちょっと東にある。
そこが燃えているという事は、相当負けが込んでいる。
「行くぞ。」
エドモン先生が、先に立った。
初めて聞く呪文が耳をかすめる。
鈴虫みたいな歌うような呪文。
何の呪文か分からないけど、副学長ともなれば色々知ってるんだろうなぁ。
私はとりあえず魔力障壁を自分の周りに作っておく。
「隣の空き地に囲いが出来たってね!へー!カッコイイ!」
「相変わらずデタラメだな。」
副学長が横で呆れている。
2年間辺境で戦っている間に、私も色々試した。
結局、普段話している言葉はこちらの言葉なんだけど、このオヤジギャグはどうやらあちらの言葉で喋っているらしい。
納屋っぽい建物を回ったら、ひどい光景が目に入った。
黒いイノシシっぽい魔獣が何頭か、人を追いまわしている。
追いつかれた人は、牙に引っ掛けられて吹っ飛んでいる。
止めなきゃ。
「恐れ入谷の鬼子母神!」
「布団が吹っ飛んだ!」
「ガチョーン!」
誰も分かんないからいいけどさ。
結構恥ずかしい。
あの神様っぽい人にもう一度会ったら、是非他の特典に変えて頂きたい。
「あたり前田のクラッカー!」
花火のような破裂音が響く。
イノシシ達が怯む。
副学長が叫んだ。
「もっと大きな声で!」
え、なんスか?
「声の大きさに、威力が比例している!叫べ!」
ああ。
どうせならもう少し、カッコイイ必殺技を叫びたかった。
「あたり前田のクラッカー!!」
火花が火炎弾になって、イノシシに振り注ぐ。
「もっと大きく!」
副学長の声に、腹に力を入れる。
「あたり前田のクラッカーあああ!!」
イノシシは爆散した。
・・・。
おお。
「止まるな!次だ!」
自分の魔法に感動している私に、副学長は容赦ない。
「あたり前田のクラッカー!」
「あたり前田のクラッカー!!」
イノシシだけじゃない。魔狼と呼ばれるデカおおかみもいるし、一匹だけだけど灰色の熊っぽいのもいた。
私は絶叫し続ける。
「あたり前田のクラッカー!!!」




