その11 三時間のデェト
あんまりシュールな光景に、言葉が出ない。
四方が窓の、塔の天辺の部屋に、白いコーヒーカップが一つ。
え。これに乗る?
いやいや。このオッサンの年で、遊園地のコーヒーカップに男と二人なんて、イタイ。
あ、でも。
十五歳の女の子と若い男なら、デートって感じになるのか?
迷っていると。
「早く乗れ。」
さっさと先に乗ったエドモン先生に手招きされて、仕方なく乗った。
下から見上げるとコーヒーカップの底の魔法陣しか見えないから、座席部分がこうなっているとは知らなかった。
魔法陣の一部がパネルになっていて、スタッフが
「行先は王都ですね?」
とか言いながら、違うパネルにはめ直す。
「しっかり手すりに掴まってて下さいね。稀に目眩を起こす方がいますので。トイレは大丈夫ですか?途中で止まりませんからね。」
ああ、何かすごいデジャヴュ。
このままカタカタいいながら、ジェットコースターのレールを昇って行くんじゃなかろうか。
「はい、では行ってらっしゃーい!」
ここはディ○ニーランドか!
心の中で突っ込んだ次の瞬間、コーヒーカップは虚空に打ち出されていた。
ヒィィィ。
恐い恐い恐い。
下の景色が、すごい勢いで後ろへ過ぎ去って行く。
「なんだ、初めて乗るのか。」
エドモン先生が、横でのんびりとそう言ったので、ようやく少し冷静になる。
「別に振り落とされたりしないから、落ち着いて座っていろ。」
確かに、風を受けたりはしない。
最初だけGを感じたけど、見た目ほどでもない。
コーヒーカップ全体が、何かに覆われているような感じだ。
落ち着いて辺りを見渡すと、なるほど、二人乗りの新幹線と思えば、そんなに違和感ないような。
決められた航路を、まっすぐ高速で進んでいく。
え。
この状態で、三時間ですか。
力いっぱい握りしめていた両脇の手すりから、ようやく手を離す。
「あのー。」
「俺は寝る。着いたら起こしてくれ。」
エドモン先生は、コーヒーカップの内側の円い座席の下から、オットマンみたいなのを引き出して、足を伸ばした。
いやいや。くつろぎ過ぎでしょ。
「質問なんですけど。」
「なんだ。」
「王都に着いたら、とりあえず寮で一晩休めますよね?」
しかしエドモン先生は薄目で私を見た。
「馬鹿者。向こうは生きるか死ぬかの状態なんだぞ。そのまま西の町に飛んで、そこからパド村に行く。」
ゲロゲロ。
「あのー。基本的人権とか。労働基準法とか。」
「なんだそれは。」
エドモン先生は目を瞑ってしまった。
「君は時々訳のわからない言葉を使うな。あのデタラメ魔法と同じ匂いがする。」
その後は本当に眠ってしまったらしい。
こんな状況でよく寝られるな。
仕方ないので、コーヒーカップに座ったまま、周りを見たりする。
もはや日も暮れつつある。
私が何日もかけて歩いた道が、時折見えては後ろに飛び去って行く。
ちょっと悲しい。
私も、これぐらい簡単に空を飛べたら、あんなにテクテク歩く必要もなかったのに。
お腹も空いたし、疲れた。
さすがに初めて乗る乗り物に、エドモン先生ほどはくつろげないし。
と思っていたのに、肩をツンツンされてハッと気づくと、コーヒーカップは高速移動陣の塔の中に収まっていた。
「起こせと言っただろう。」
不機嫌そうなエドモン先生が、横に立っていた。
「えーと。・・王都に着いたんでしょうか?」
寝ていたらしい。
「そうだ。ここからまた二時間乗るから、先にメシにする。」
はああ。
ヨロヨロと後をついて、下に降りる。
数軒先の酒場のドアをくぐった。
ジェットコースター兼コーヒーカップに乗った後、一緒に食事。
そこだけ見たら、デートっぽい。
「私、全然お金ないんですけど。」
「カネの心配はいらん。」
夕食時ド真ん中の店の中は混み合っている。座る所ないなぁと見回していると、エドモン先生は階段をずんずん上がって行く。
中二階みたいな所にいくつかテーブルがあって、先生はそこにどかっと座った。
お店の人が「どうぞ」とメニュー表を見せてくれた。
エドモン先生はそれをちらっと見ると。
「このおすすめのを全部。」
「は?」
思わずメニュー表から顔を上げると、
「おすすめだったら早く出てくるだろう?」
なるほど。
合理的かも知れないけど、私の好みは?
まあ・・選べるのは支払う側だよね。私はお金ないし。
早速お皿が運ばれてくる。
美味しそう〜。
手をつけようとすると。
「汁気の多いものから食べろ。」
と指示が飛んだ。
「えー。なんでですか?ダイエット?」
「残ったものは、パンに挟んで持って行く。」
「じゃあなんでこんなに・・」
頼んだの、と言いかけて、さすがに気がつく。
行った先に食べ物があるとは限らない。
非常食なり携行食なり、持って行けるならその方が良い。
なんかちょっと、気が重くなって来た。




