4-10 大丈夫では無い
ドウゥッ――!!
少女の背丈以上もある魔導狙撃銃が、雷が落ちたかのような轟音を響かせる。
その音を鳴らす張本人であるメイド服の獣人少女は、古くから知る美しい友人の顔をチラリと見る。
雇用主としてだけでなく、幼い頃から忠誠――友情を捧げる大切な少女。
「はっ――!」
魔術で生み出した氷の槍を用いて軽く雑魚を仕留める様子を眺めつつ、ユディの方も空中で様子を伺っている牙の発達したコウモリ型の魔物『ファングヴァンプ』の脳髄を撃ち抜く。
守りの心配は無用。何故なら、
ガキンッ――! 背後から迫っていた魔物の牙が、音を立てて障壁に阻まれる。
「ユディは上空の敵に集中して。地上と守りは私に」
「んー、任せるよー」
セレフィナが展開した強固な障壁魔術に全幅の信頼を預けつつ、ユディは狙撃銃の標準に集中する。本来なら隠密行動を伴う、身丈より大きな銃による攻撃。
ドウゥッ!! ドッゴゥゥゥ!!!
雑魚の脳髄であれば即座に破壊できる一撃必殺の弾丸を連発――セレフィナとユディ、二人で組んだパーティで行ういつもの連携。
王都に魔物が出現した――そんな緊急事態でも、彼女達が行うのはいつも通り。だが、いつも通りではいけない事が一つある。
「皆さん! くれぐれも過剰な範囲攻撃はお控えください!
魔物を倒してそれで終わり――ではありません! 住人の方達には、危機が過ぎ去った後の、日常があるのです!」
戦場が街のど真ん中――ということ。
「(セレフィナちゃん…………変わった……?)」
今が緊急事態であることは疑いようが無い。その事態を切り抜けることが第一に優先すべきことではあるのだが、その危機を脱したところで、即座に一件落着――なんてことは現実ではありえない。
生き残ることが出来たとしても、帰る家が無くなってしまったら? 生活の糧である商売道具や店を失ってしまっていたら?
生き残った方が地獄……なんて事態も、ありえなくは無い。
しかし、そんな想像に至ったうえで発せられたであろう指示が、周囲の学院生に向けて『そういった事態への想像力を培える環境で生まれ育っていない』セレフィナの口から発せられたことに、ユディは驚いた。
「(誰の影響……? まぁ…………そんなの、考えるまでも無いか)」
戦場には似つかわしくない優しい笑みを浮かべつつ、ユディは更に発砲。
轟音に耳がやられないように、獣人特有の耳をパタンと閉じる。
脳裏には、一人の少年の顔。
ヨハン・メンザー……メイドと主人という立場を越えて、幼馴染でもあり親友でもある少女の、大切な人。
「(ひょっとしたら…………)」
事務的に引き金を引きつつ、ユディは魔物が出現した瞬間の光景を思い出す。
突然、妖しい閃光に包まれた時。
その場にはセレフィナとユディ、そして周囲には学院生が複数立っていた。
閃光と同時に出現したのは、今駆逐されつつある雑魚だけでは無かった。
『モノプスゴーレム』――王級の大物。
一人の魔導士の手には余るその魔物が現れた時、唖然とする者の中で即座に動けたのはセレフィナ……唯一人だけだった。
その魔物が現れた瞬間、セレフィナは弓矢の魔術を一斉展開。四方八方から“時間差”を作って弱点の目玉へ魔術の矢を射出した。
無論それで倒せる程甘くはない。しかしそれによりモノプスゴーレムは弱点を守る必要が生まれ、防御行動に徹することになった。
その恩恵はあまりに大きい。モノプスゴーレムの必殺である光弾――その雨が王都へ降り注ぐことを防いだのだから。
そしてセレフィナはユディが見たことのない障壁魔術の使い方を披露。螺旋階段のように相手の周囲へ障壁を展開し、自身の身体を浮かせる魔術『風精の導き』を併用して一気に敵の弱点へ接近。
そして『咎問えぬ凶刃』で目玉を穿ち、仕留めたのだ。
その……まるで“お手本”を直前に見たかのような、迷いのない動き。
あんな動きを、セレフィナに見せられるのはおそらく――
「(間接的にだけど、ゆでぃ達も……ヨハン君に助けられたってことなのかな?)」
現学院序列第一位の少年に違いないだろう。
もし彼が居なかったら?
初見の敵への警戒等から、セレフィナが動くまでに僅かな遅れが生じるようなことがもしあれば?
………………ゾッとする。
「(それだけじゃ、ない)」
ユディは、セレフィナの従者という形で籍を置いている(この時点でラグトゥール家の権力の強さが窺える)為、他の学院生とは立場が異なる。
それ故に、彼女は学院生だけでなく学院全体に流れる“空気”のような物が、ヨハンという存在を中心に変化していることに気づいていた。
セレフィナ視点の贔屓目とは異なり、努めて客観的に見たとしても。
彼の存在は、恵まれた環境で生まれた温室育ち達の意識を少しずつ変えていると……そう断言できる。
そうでなければ、
「ソチラは衛兵の方と共に避難誘導へ切り替えてください!
残りは私達で殲滅します!」
セレフィナの口から冷静明快な指示が出ることも。自尊心ばかり高い学院生がそれに文句無く従うことも、無かっただろう。
腑抜けだった筈の学院生は今、王都の確かな戦力となっていた。
そんなメイド少女の視線を受けながら。
周囲へ的確な指示を出し、この場の実質的な長となっているセレフィナの心中は穏やかでは無かった。
「(おかしい…………)」
胸の中でズシリと、もたげるような疑問。
それは王都に魔物が大量に出現した――という部分に対しての物ではない。その部分については、考えることを意図的に放棄した。連想される材料はいくつかあったが、それを考えるのは全ての始末が済んでからの方が建設的だと瞬時に判断した。
すべての思考は、この危機を乗り越える為に使う――そう決めてもなお、浮かぶ疑問。
何故ならそれは、この王都の防衛に直接関わることだからだ。
「(騎士団が…………現れない)」
上空を僅かながら飛翔できるセレフィナは、周囲の状況を他の者より把握することが出来ていた。王都に出現する魔物――それらから逃れようとする住人たち。そして彼らを守り、魔物と戦っている……学院生と衛兵、そして街に居る冒険者達。
……そう、本来街の防衛を任されているはずの王国騎士団がその姿を見せていないのだ。
「(王国騎士団――マラヴィン・ド・ベーケス 団長…………やはり……)」
そしてセレフィナは、昨夜の会合を思い出す。
あの卑劣に歪んだ眼光……謀略をめぐらせていることを隠そうともしない――傲慢な男。
ならば今起きていることは、あの男の企みか。
「(………………ヨハンさん――)」
同時に彼女は、この解にたどり着くことが出来るであろう者が、自分の他に一人しか居ないことを悟る。
つい今まで轟いていた、彼が振るった魔術であろう光と音と衝撃――それは先程からコチラまでは届かなくなった。
彼が居るであろう場所と自分が居る場所は、近い距離には無い。本音を言えばすぐにでも彼の元へ飛んでいきたいのだが、自分が今ココを離れると戦場の均衡が崩れる恐れがまだ、ある。
「(ヨハンさんなら…………大丈夫……ですよね…………?)」
ヨハンが居るであろう方角に、神妙な面持ちで視線を向ける。
彼なら。自分が想いと信頼を寄せる、学院序列第一位の彼ならばきっと……この状況を打破する一手を必ず打ってくれる。
…………だがしかし。
重く、シリアスで、ピュアな気持ちを向ける彼女は知らない。
その彼は今、合法ロリ少女の手◯キで過去一濃厚な白濁を射出して下着をベットベトにしたあげく、その少女の拳で気絶してしまっていることを――




