3-8 王の間
迷宮の最奥地。
そこには主たる王が鎮座する『王の間』と呼ばれる空間がある。
迷宮の踏破といえば、基本的にこの空間を目指し最終的に王を討伐する――ということが目標となる。
それは探索および調査という名目だとしても同様で、迷宮の情報というのは基本的に王の情報もセットで用意されるべきものである。
つまり、今回のクエストの目的はこの部屋、迷宮の主である王を討伐するのと同義。
弱点や傾向、特徴など……他の魔物や迷宮の王と類似性があればそれらも含めて調査が求められる。
情報だけ持ち帰るというのも悪くは無いが、そこまで行くと自ずと討伐しているという話になるのだが。
「……………………っ」
後ろのセレフィナが、息を呑んでいるのが分かる。
先程まで進んできた通路よりも、僅かに華やかな装飾が施された道。そして扉。
大きな音を立ててそれを開いて部屋に入るヨハンの後に続く。
「ちなみに、王は討伐してもしばらくすると復活する。ドロップする魔石は大概レア物だから……一定期間を空けて挑めば結構美味しいぞ。
まぁ、復活してるかどうかは実際に迷宮に入って、王の間を見てみないと分からないんだけど」
自分達が知らない間に他のパーティが討伐してたら自棄酒モノ――そんな軽口を混ぜたセレフィナに迷宮の知識を披露しつつ、ヨハンは頭を悩ませる。
「(さて…………どうするかな……………………)」
ヨハンは冒険者時代の記憶を思い浮かべる。
彼の異能『禁欲魔導』のチカラがあれば、どんな王でも楽に倒すことが出来た。
だがそれは決まって充填三日目の話。
一日目は論外。一瞬で殺られる。
二日目であれば、仲間と決死の覚悟で協力すれば倒せるかもしれないが……
「(けどそんなリスクは基本避けてきた。
死人が出る可能性も高いし、大怪我することだってあり得るレベルだったしな)」
長い時間を共に過ごし、戦闘経験も連携も深めていたあのメンバーでもその域なのだ。
「……………………」
背後のセレフィナを見る。
連携面では当然不安が残る……どころか、充填日数的に俺の実力面で不安だ。
「あれは………………!」
王の間に入る。
高い天井に、この迷宮で最も広い部屋。
障害物は無く、とにかく開けた戦場である。
……否。
一つだけ、障害物に“見える”物体……有り。
部屋中央に鎮座する……巨体。
「なるほど」
知らぬ者なら、障害物と認識してしまうだろう。
何故ならそれは、壁や床と同じく石畳が固まって出来たような大きな山の様相を呈していたからだ。
そしてすぐその認識を改めることになる。
ゴゴゴッ……!!
地鳴りのような、腹に響く低音が周囲を包む。
部屋中にそれが反響し……やがて、目の前の山が動くのをその視界に認めることとなる。
山はやがて標高を上げ――そしてそれが背丈なのだと理解できるシルエットを形作る。
脚――腕――頭。
石が形作るその体躯は、ただただ巨体。
何人分の全長を誇るのか……あまりの巨大さに、遠近感が狂い目測は難しい。
「初めて…………見ました…………!」
ここまで姿を見せられれば、セレフィナもその正体を察するところだろう。
迷宮外ではそう見ない魔物ではあるが、迷宮では比較的珍しい部類ではない魔物。
「『モノプスゴーレム』か――」
ヨハンの言葉に呼応するように、岩石を身体としたその巨人の顔に――大きな独眼が姿を現し明滅した。
「(…………マジでどうしよ)」
ヨハンはこの魔物との戦闘経験があった。
故に弱点も知っている。……が、その戦闘力が今の自分を軽く凌駕していることも。
「(どうする…………? どうにかセレフィナに戦ってもらうか……それか撤退?
いや、それはきっとセレフィナが許さないだろう……)」
だが、額に冷や汗を浮かべる彼に思わぬ助け舟が。
「ヨハンさん…………この魔物との戦闘経験が?」
神妙なセレフィナの声。
「……ん?
…………あぁ……冒険者時代に仲間と何度か、な」
「…………それでしたら」
ヨハンの返答を聞いた彼女は歩を進め、陣形の前列に立った。
「──私にやらせてください」
僅かに重心を下げた戦闘態勢。
「ヨハンさんが──ヨハンさんのような優秀な魔導士が積んだ経験であれば、ぜひ私も積んでみたい」
「……えっ…………」
「………………ヨハンさんがそんな顔になってしまうのもわかります。
ですが、やってみたいのです。
なぜなら私は恥ずかしながら──不相応ながらも、あなたのことを好敵手だと思っていますので」
僅かばかりに照れの感情を声色に乗せながらも、力強く宣言するかのような言葉。
「全ては…………あなたに少しでも、近づくために」
……これが本当に。
彼女が認識している通りの状況であれば、どれほど美しい光景だっただろうか。
「(…………最初から俺はセレフィナがメインで戦って欲しいと思っていたけど……)」
この言葉。
どうやってセレフィナに戦闘を任せようかと頭を働かせていた彼にとっては、まさに渡りに船。
そして抱くはずだった罪悪感を和らげる口実まで得ることが出来た。
「あぁ──分かった!」
ヨハンは後ろに一歩下がり、全力の障壁展開!
……自分一人を守れるサイズの障壁!
「ありがとうございますっ……!」
集中を高めて術式を行使するセレフィナの後ろ姿を前にして、ヨハンは今の自分が情けなくなるのだった――
◆◆◆
「はぁ――!!」
セレフィナは駆ける。
この部屋の主であるモノプスゴーレムに狙いをさだめ――
「『兵士の炎剛弓 二矢』――!!」
熟練度が高く、威力もそこそこ……何より、射程距離のある魔術を行使する。
だが、
「オオオオオォォォッッッ!!!」
腕を交差してその矢から身を守るモノプスゴーレム。
まるで屈強な筋肉の鎧のように、その巨人の岩肌は炎の矢をものともしない。
「(防御力は高い…………ですが、動きは緩慢ですね)」
しかしその失敗に終わったかと思われた攻撃からセレフィナは情報を得る。
いつでも障壁を展開できるように身構えながら、冷静に敵を観察する。
「(私とヨハンさんがこの部屋に入った直後に姿を見せてからも…………素早く攻撃してこなかったのは、特別な理由などはなく……純粋にこの魔物の行動速度の遅さによるもの。
警戒は必要なし――)」
距離を取り、モノプスゴーレムの周囲を伺いながらも緩慢な動きでは追いつけない程度の速さで脚を動かす。
セレフィナの動きに追いつけず、それでもその姿を己の正面に捉えようとする相手。
「(となると問題は……防御力。
私の弓矢の中級魔術でも手応えがまるでありませんでしたし……)」
巡る思考。
「(何か弱点は…………?)」
すぐに思い至る。
「(岩の鎧で覆われた身体。唯一そうでない部分…………あの、独眼)」
もはやあからさまと言ってもいい。
狙ってくださいと言わんばかりの大きな“的”が、岩の巨人の顔にはあった。
口も鼻も無いが故、その目玉はよく目立つ。
「(狙ってみる、というよりそうするしかありませんね。
そうでしょう? ヨハンさ――)」
そして彼女は、離れた場所に居るヨハンを一瞥する。
そんなセレフィナの目に飛び込んできたのは、
「………………え?」
“地に這いつくばって“。
“身を屈めて”。
障壁魔術を展開しているヨハンの姿――
「ガアアアアアアッッッッ!!!!!」
刹那――思わず立ち止まってしまったセレフィナを、岩の巨人が絶叫を上げつつ“視界に”捉えた。
そして弱点と予想した独眼が切り裂くような輝きを放ち――
「なっ――」
凄まじい速度でセレフィナを襲ったのは、光弾。
王の間に、人間を消し炭に出来る程度の光弾の雨が、降る。
◆◆◆
「ヒイイイイイイイイイイッッッッッッ!!!!!!!」
身を屈めて頭を脚の間に!
攻撃が当たるであろう面積を限り無く小さくしたうえで、最小体積の障壁を展開!
「『障壁魔術』!!『障壁魔術』!!『障壁魔術』!!!!」
そうすることで、ヨハンはこの部屋に降り注ぐあられのような光弾から身を守っていた。
モノプスゴーレム――高い防御力を誇るが、弱点は分かりやすく動きも遅い。
それでもこの魔物が迷宮の王であるのには理由がある。
それが、この遠距離攻撃……目から放つ光弾だ。
「(俺の…………弓矢の魔術も、このくらいの威力があればなぁ!!)」
歯を食いしばりながら、衝撃に耐える。
直撃を喰らい弾け飛ぶ障壁の“替え”を詠唱し、再度展開。
威力……そして連射力。
モノプスゴーレムのスピードの無さを補って余りあるその必殺技は、必殺技と呼称するには些か連発が過ぎる。
「(早く…………!! 早くセレフィナ…………!! 倒してくれぇ!!)」
頭を埋めた脚の間から様子を伺う…………くそっ! セレフィナが動き回るから、コッチの方にも流れ弾が!
――ドドゥゥッッッ!!!
相手はヨハンを然程脅威と認識していないようで、手が空いたタイミングでしか光弾を撃ってこない。
しかしそれよりも恐ろしいのは、セレフィナを仕留めようとする意思を込めて放った全霊の攻撃の流れ弾だった。
明らかに、自分を狙った弾よりもキレが良い。
「(まともに受ければ……障壁は一発で持っていかれる……っ……)」
様子を伺うのは良いから、早く攻撃して欲しい。
ほら! 目! 目だよ、弱点はっ!
アイコンタクト送ろうにも、攻撃が激しくて無理だ。
早く! 俺が流れ弾で死ぬ前に!
…………学院序列第一位の姿、まるで無し!
「(……………………ヨハンさん……?)」
その姿を視界の端で認めながら、セレフィナはただ首を傾げた。
「(何をそんな…………ヨハンさんの障壁なら、この程度の攻撃は全く問題ないはずなのに……?)」
直接、ヨハンの戦闘をこの目にしたことは今日を除いても無いのだが、噂だけはいくらでも耳に入ってきていた。
曰く。翼竜の息吹を防いでもヒビ一つ、入らなかったとか。
それならばこの程度の……そう、一般的な魔導士であれば苦労するかもしれない光弾だって、簡単に防げるはずなのである。
「(…………ですが、今はそれよりも)」
深慮に入り込みそうになる頭を、セレフィナは強引に切り替える。
今はとにかく、弱点であろう部位に攻撃を――
「(今っ――!!)」
そして見つけた“隙”に――光弾を放ち終えた直後の目に向けて弓矢の魔術を放つ。
しかしそれは当然、腕による防御で阻まれる――
「『土塊よ』!!」
だがそのタイミングで、セレフィナは地に掌を突いて詠唱。
その魔術に決定的な攻撃力などは無い。
せいぜい出来るのは、学院の教師が講義の実演に使う的を作る程度。
しかしその魔術は、任意の場所へ大地を起点とした土像を作り出す物。硬度は、術者の技量により自在。
それを、モノプスゴーレムの足元目掛けて行使すれば?
「グッ――ォォォォォ!?」
体勢を崩させる程度なら、容易。
「(決まったっ――!)」
動きは緩慢。突然崩された己の体勢を正す反応など不可能。
体勢が崩れたことにより、屈強な岩篭手の盾から弱点が覗いた――そこを射抜くように、魔術の矢。
だがしかし。
――ガキンッ!!!
「――!?」
その矢は無情にも防がれてしまった。
第二の盾――
「障壁…………魔術…………!!」
宙に浮かび上がった障壁――自分達が今現在も使用している同種の魔術によって。
魔術は人間だけに許されている特権などでは決して無い。
魔物であったとしても、上位の者であれば……凡人が使える程度の簡易な魔術なら行使は可能。
「グッ…………オオオオオオオオオオアアアアアアア!!!!」
――ゴゥゥゥッ!!!!
「くっ……!!!」
間一髪の攻撃をお見舞いされたからか、先程よりも苛烈な光弾の雨が襲う。
まさに集中砲火。
全力の内、9割をセレフィナに向けて放つ。
残りは三下・雑魚と判断したヨハンに向けて。
「わああああっ…………!!」
情けない悲鳴と共に、ヨハンは必死に障壁を展開して身を守る。
その姿に、
「(ヨハンさん…………!?)」
セレフィナは何故か“焦り”を感じた。
どうして?
何故ヨハンという有能な魔導士に対して、自分などが“焦り”を?
思考し、即座に気づく。
今の彼の姿は……自分よりも実力に劣る、庇護対象に見えたからだ。
「(どうして……?
――くっ…………攻撃が激しい……っ……!!)」
目を細めながら、光弾の雨を障壁で防ぐ。
先程の体勢を崩したタイミングでの射撃――それが防がれた以上、より強力な魔術を放つしか無い。
だがこの嵐のような攻撃の最中に、それが可能だろうか?
「ぎゃあああああ!!!!」
その思考を遮るように、情けない絶叫が耳に届く。
「ヨハンさんっ!?」
再び目を向ければ、そこには頭を抱えて必死に障壁を展開する…………まるで、
「(どうして……? 何故貴方は今そんな三文芝居を……?
いや………………妙に迫真めいていますが……ヨハンさん演技力高――ってそれはどうでもよく!)」
まるで、弱者のような――
「――!!」
そこで、ようやく思い至る。
本当に、ようやくだ。
自分はずっと何を考えていたのだろう。
有能な彼のことだ。
何も考えず無意味に“弱者のフリ”をする訳がない。
「(私は言った──“同じ経験を積みたい”と。
そう……彼が積んだ経験、それは)」
『冒険者時代に“仲間と”何度か、な』──
「(仲間……この場合“自分と同等以上のチカラを持っていない者”との共闘──!)」
セレフィナは今、自分が守る必要のない者とパーティを組んでいる状況。
つまり敵を倒す為の“攻め”だけを考えれば良く、守りや同伴の者に関して思考や余力を割く必要がない。
この場合。
彼が過去に積んだ戦闘経験と同じ経験と言えるだろうか?
……断じて、否。
「ああぁ!! ヒイィィィッッッ!!!」
それを理解し。
彼の心遣いを察した今見れば、
「(ふふっ……ヨハンさんったら、私の為にあそこまで迫真の演技をなさって……。
ヨハンさんは役者の才能まであるのでしょうね。ほら……あの冷や汗も、本気で流してるように見えませんし、涙まで浮かべて……)」
弱者そのものである様子も、微笑ましい芝居に見える。
いつもとは違う彼の一面をいつまでも観ていたい気持ちはあるが、それは少々申し訳ないので、
「(今回は…………この辺りで“私は”切り上げますか)」
障壁の中で一息ついて、セレフィナはヨハンの元へ駆けた──
◆◆◆
「(もうヤダァ!! 帰るぅ!!!)」
心の中で惨めに叫びながら、身を屈めて障壁を連続展開。
障壁を破られる速度と展開する速度が、このままでは逆転してしまう。
そうなったらジ・エンド──早く倒してくれ!
「(セレフィナは何を…………は……?
何であの娘、俺を見てそんな穏やかに笑ってんだ!?)」
チラリと見た彼女が、自分に穏やかな視線を送っているのを見て……ヨハンは混乱する。
だがその混乱も、敵の攻撃による衝撃でかき消される。
「うぅっ!!!」
再び閉じられる視界。
早く次の障壁を──そしてまた次──そう考えたヨハンが、閉じた目を開くことになったのは、破られるはずの障壁が無事であったから。
「…………セレフィナ……?」
開いた視界に認めたのは、ヨハンの前に立ち、自身とヨハンを守るように障壁を展開するセレフィナの姿。
ガキンッ──今のヨハンの物とは比べ物にならない硬度の障壁が、敵の光弾をいとも簡単に防いでいた。
「ヨハンさん──申し訳ありません」
ホントだよ! 早く倒してよ!
……とは、流石に情けなさ過ぎるので言わない。
「私が“ヨハンさんと同じ経験を積みたい”と言ったのに…………ヨハンさんの心遣いを察するのが遅くなってしまいました」
「…………え?」
何のこと?
フリーズしたヨハンの沈黙が先を促すサインと捉えたか、セレフィナは言葉を続ける。
「ヨハンさんはそう……一人ではなく“冒険者時代の仲間”と一緒にこの魔物を討伐した……そうでしょう?」
「…………え、そ、そうだけど」
「(そう…………それはつまり“仲間を守りつつ戦わねばならない”という状況の中の戦闘だったということ。
自分だけでなく、仲間の状況も把握しての戦い…………それを私にシュミレートさせる狙いで、ヨハンさんは“敢えて”障壁の強度を下げつつの防御、そして一見弱者にも見えるような行動と仕草に徹していた…………)」
「???」
「(もちろん……人間の出来たヨハンさんのことです。
当時のお仲間……それはきっと“例の彼女”でしょうけど…………あからさまに“庇護対象”なんて表現はしませんし、思ってもいないでしょうが……)」
「????????」
敵に身体を向けつつ、肩越しにヨハンを見るセレフィナ……何を言いたいのか分からず、ヨハンは口を開けない。
「とぼけなくても大丈夫ですよ。
全部、わかってますから」
「(俺はキミが何を得心しているのか、全く分かっていないんだが?)」
だがコレは……この流れには覚えがある。
アレだ。なんかいい感じに勘違いしてくれてるヤツだ。
エヴァとかが、よくやってくれる例のヤツ。
「だからこそ…………先程の言葉は撤回します。
私一人での討伐は諦めます。当時のヨハンさんと同じ状況を想定し身を置いたうえで、あの魔物を倒す方法は……思い浮かびませんから」
「おっ」
やった……!
それなら、早々に撤退を──
「なので今回は貴方の戦闘風景をこの目で見つつ、サポートする経験を積ませてもらえればなと」
「えっ」
クソ! いい流れだと思ったのに、こうなるのか!!
「………………ヨハンさん、指示を」
「(『指示を』……じゃねぇぇぇぇ!!!)」
乾き始めたはずの冷や汗が再び流れ出す。
どうやってこの場を“切り抜ける”か――そんな考えが頭をよぎるが、
「…………!」
ヨハンはその思考を中断させた。
中断させられた――と、言ってもいいだろう。
それほどまでに、彼女の目は。
「…………………………っ……!」
セレフィナの目は。
……真っ直ぐに澄んでいたから。
「(あー………………もう……)」
これほどまでに観念という言葉が似合う状況もあるまい。
だが致し方ない。
こんな目で見られてしまったら、こんな信頼と期待に満ちた真っ直ぐに見てくれる少女を偽ってしまえば、後々罪悪感が大きく膨らんで、まるで利息や借金のように己の首を締めてくるだろう。
「(仕方ないな…………)」
貧乏人としては、そういった類の代物は避けて生きたいからな――そんな風に強引に自分を納得させた。
これから取る行動が、彼女の間に引いた一線を飛び越えるような繋がり……それを生んでしまうと覚悟して――
「セレフィナ。
今から俺の言う通りに動いてくれ。
……………………そして――」
彼女の持つ短剣を、指差す。
「その短剣…………少しの間だけ――“返して”くれるか?」
“あの日”。
角雷鳥竜からセレフィナを助けた日に、気を失ったセレフィナの元に残した短剣。
「………………!!!」
遂に聞くことが出来たヨハンの言葉に目を見開くセレフィナは確かに見た。
展開された魔術障壁の中。
同じ空間に立つ二人の間に引かれていた線が、立ちはだかっていた壁が。
ほんの僅かではあるが、交叉する視線に溶けて消えていく景色を……。




