1-2 今更気づいてももう遅い
「………………で? 何の用だよ……?」
熱々のハーブティーに襲われた股間を十分に冷やしてもらった後。
服を着た僕はその悲劇の元凶である見知った顔の少女に、不機嫌さを隠さずに問う。
「そ……その前にヨハン…………え、えっと……『ソコ』、本当に大丈夫……?」
チラチラと。
気まずそうに視線を下に向けてくる彼女――エヴァ・フィン。
肩のラインで短く切り揃えた茶髪に大きな瞳。
健康的な印象を受ける程よく鍛えられた四肢――それを惜しげもなく露出する服装。
丈の短いホットパンツは瑞々しい太ももを主張させているし、革で作られたビキニタイプのアーマーは、彼女の肩から鎖骨……そしてくびれの美しさを、全く隠すことが出来ていない。
そして革という硬めの素材だというのに、ググッ――という音が聞こえてくるかのように押し上げられた胸元。
セレフィナよりもボリュームは無いが、それでも大きさはトップクラスだろう。
覗く谷間は二つの膨らみが強く押し合うかのように作られており……ひと目でそのハリの良さが分かってしまう。
彼女が身に着けているアクセサリー……教会の信徒であることを示すペンダントも、そういう目的で作られた――着けられているモノでは無いのに、彼女の身体を艶っぽく演出している。
「ほ、ほら……万が一『ソコ』に何かあったら……ア、アタシが責任……とか……? 取らなくちゃいけない訳だし――い、いやっ、取らなくちゃいけないって言うと、仕方なく~……みたいな感じに聞こえるかもしれないけど、アタシ的には寧ろ好都合……というか……えっと……そのぉ……」
……ん?
なんかエヴァの身体を舐め回すように見ていたら、急に顔を赤くしてごにょごにょ言い出したぞ?
発射直後で危険じゃないこともあって、胸をジロジロ見てたから……後半は何言ってるか聞き取れなかった。
でも取り敢えず、僕の股間を心配してくれているんだろうから、
「だ、大丈夫だって」
エヴァが早く気持ちを切り替えられるように、出来るだけ淡白に股間の無事を伝える。
「でも魔術で冷やしてあげてた時……なんだか縮こまって小さくなってた…………気がしたし……?」
「――は!? い、いや……う、うるさいな! 寒い時とか──とにかく冷えると縮こまるモノなんだよ! ココは!」
なんてこと言うんだこの娘!?
小さいとか言うな!
ベストコンディションなら人並みくらいには大きいから!
………………多分…………。
「そ、そうなんだ……? 昔、弟のヤツしか見たことないけど……それと同じくらいだったからおかしいなって…………」
「…………弟が何歳の頃に見たわけ?」
「? 八歳くらいの頃だけど?」
は……八歳の頃と同じくらい…………。
「………………?
…………………………あっ──」
エヴァはようやく、自分の失言に気付いたようだがもう遅い。
『冷却』で縮こまっていた状態だったとはいえ、八歳の少年と同じくらいと言われて僕の男心は激しく傷ついた!
それと、八歳の少年と同じくらいだったら“おかしい”と思うのは“おかしい”ぞ!!
「え──えぇっ……と……あ〜……そ、そうだっ!
い、田舎から送られてきたハーブで淹れたんだよね、それ!?
新しい品種かな!? なんだかいつものハーブティーよりも少し香り高いというか、青くさい何かの花のような香りが──」
「用事がぁ!! あったんだろぅっ!?」
気を遣われてるのもそれはそれでツラいし、気を遣って変えた話題の内容も深掘りされるとマズい!
おいやめろ! 無自覚に発射の残り香をスンスンすな!!
「あ……う、うん………………ご、ごめんね……?」
もうこれ以上謝るのはやめて欲しい。
絶妙に男心を理解していないエヴァは申し訳なさそうな表情を浮かべつつ――コチラを伺うように用を伝えてきた。
「明日、一緒にクエストに行かない?」
「……………………え~……」
クエスト――一言でそう言っても、例えば僕が受注していた『翼竜の群れの討伐』と彼女の言うクエストは少々異なる。
アルカディア王国では、魔物の討伐や素材の収集といった様々な任務や依頼を国……公的機関が取りまとめている。
その中でも難易度や重要度の高いモノは公的機関がそのまま請け負ったり、実力の高い者――学院生等が受注できるクエストとして発行する。
そういったモノ以外の『高い実力が必要では無い』と判断されたクエストは『民間』に下ろされる。
民間に下ろされたクエストを受注し、その報酬金で生活をしている者は『冒険者』、民間に下ろされたクエストを管理している組織を『冒険者ギルド』と呼ぶ。
そしてこの少女もそんな冒険者として生計を立てている訳だが、
「(民間のクエストは報酬がなぁ……)」
クエストは当然、その難易度に合わせて報酬が豊かになる。
つまり、民間に回されるクエストは難易度が低い分報酬が少ないのだ。
どうせ同じ時間をかけるのであれば報酬の見込める高難易度のクエストをこなしたい――コレが、僕が高い学費を払って学院に通う理由の一つでもある。
だがこの誘いに僕がイマイチ乗り気になれない一番の理由は――
「お願い!
ヨハンが『大きな仕事の次の日は必ず休みにしてる』のは分かってるんだけど……」
異能『禁欲魔導』の特性を考慮した習慣と外れてしまうからだ。
「う~ん…………」
大きな仕事――つまり、数日の充填を行った後は当然、禁欲期間をリセットする為に発射したい。
そうなると次の日は、異能の恩恵の無い素の状態ということ。
そんな凡人程度の実力しか無い状態でクエストを受ければ、万が一の時に対処ができない。無論、その時の実力に沿ったクエストを受ければ良いだけだが、人間休日も必要である。
どうせ休むなら発射後の日……という理屈で組み立てた隙の無い習慣――ということだ。
僕が腕を組みながらどう断ろうか悩んでいると、
「――あ、別に難しそうなクエストとかじゃないわよっ!? 王都から出る必要も無い、簡単でまったりこなせそうなヤツで…………」
簡単なクエスト? それなら余計に疑問が湧いてくるじゃないか。
「じゃあ一人でも大丈夫だろ? なんで僕を誘うんだよ?」
僕の問いに、エヴァは「うっ……」という表情になりながらも、絞り出すように答えを紡ぐ。
「……だって…………ヨハン、冒険者辞めて学院に入学してからは忙しそうで……一緒にクエスト、行けなくなっちゃってたし……」
……それを言われると、弱い。
僕は田舎から王都に来た後、暫くの間冒険者として生活をしていた。
生活費を稼ぐ為、実家に仕送りをする為、学院の入学費用を貯めるため――そんな冒険者時代で、一番多くの時間を共にしたのがエヴァだった。
頼りになる仕事仲間であり、良き友人――単身都会に出てきた自分にとって、彼女は本当に頼りになる存在だった。
そんな彼女の、久しぶりに――という気持ちを、無下にするわけにはいかない。
「……分かったよ。
クエストの報酬は要らないから、夕飯奢れよな」
「――!
うんっ! 任せといてっっ!!」
パアァ……と、俯き気味だった顔を明るく上げて、エヴァは綺麗な並びの歯を見せる笑顔になる。
クエストだけじゃなくその後の食事の時間も一緒に――自分の言わんとしていることが、無事に伝わったようで安堵する。
「……で?
そのまったりこなせる簡単なクエストとやらの内容は?」
ともあれ同行を引き受けた訳だし、これは一応聞いておいた方がいいだろう。
「それが簡単すぎてビックリなのよ!
『荷物を指定の場所から場所へ運ぶ』――ていう内容で、報酬はなんと『フリュー銀貨』十五枚!」
その妙な依頼内容と……今自分が借りている宿の一月分の料金に届きそうな報酬金の高さに――
「大丈夫かそのクエスト…………?」
一抹の不安を覚えるのだった……。
◆◆◆
「うわっ……何だよ、滅茶苦茶賑わってるな」
翌朝。
右手首に付けた腕輪の調子を確かめながら二階にある部屋から階段を下りてみると、昼前だというのに大勢の客で賑わっていた。
僕が今部屋を借りているのは、『木漏れ日のやすらぎ亭』という名の酒場宿。
二階部分の部屋を宿として提供し、一階では酒場・料理屋として商売を営んでいる。
値段が良心的で、かつ味も抜群――王都の冒険者の間では隠れた名店として有名なのだ。
「おぉー、ヨハン!」
冒険者として活動していた頃からの知り合いだらけの店内。コチラを呼ぶ声がしたのでそっちの方へ歩いていくと……
「やぁ、おはようヨハン」
「………………」
知り合いの中で、最も親しくしていた集団が食事を摂っていた。
短髪のアホ面男に長髪の男前、そしてフードを深く被った小柄な少女。
右手を挙げて挨拶とし、最初に声を掛けてきた短髪の男に質問する。
「なんか……今日は騒がしいな?」
無論、この店が騒がしくない日は無いし、騒がしくない冒険者達は居ない。
だからこの質問は何か特別なことがあるのか? という質問だったのだが、それをこの男を汲み取り――
「まぁな。どうやら割の良いクエストが大量に発注されたみたいでな。
いつもはどうやって怠けながら稼げるかって考えてる連中が、この通り――朝から働き詰めって訳よ」
その答えを聞きながら店内を見渡すと……どうやら一仕事終えた後の者、腹ごしらえを済ませて仕事に向かおうとする者……そんな様子の冒険者ばかりだった。
フードの少女が、頬をパンパンに膨らませるくらいに両手で肉を口に運んでいるので――皿に乗っているパンを拝借しようと手を伸ばすと思いっきり足を踏まれた。いって。
「……ってことは、昨日エヴァが言ってたクエストだな……?
お前らも、一緒にクエストを受けるのか?」
この三人は冒険者時代、エヴァと同様頻繁にパーティを組んでいた連中なのだ。
エヴァよりも付き合いの長さは少し短いが、それでも殆ど変わらない……古い馴染み。
何やら運び屋のようなことをしなくてはならないクエストのようだったし、五人パーティで臨む必要があるのなら、案外重労働なのかも……?
「あ~~~~??」
だが、彼らの返答は想像とは異なっていて。
「いやいや……折角『久しぶり』なのに、僕達が一緒に来ちゃったら、エヴァちゃんが可哀想だし……」
「………………(コクコク)」
何やら呆れ顔の長髪と、ジト目で僕を見ながら首を縦に振るフードの少女。
「ったく……エヴァには同情するぜ。
ヨハンは大きな仕事の時に頼りになるし……洞察力とかもスゲーなって思うんだけど、仕事が終わった次の日とかはなんつーか……抜けてるというか、察しが悪いというか…………こんだけ付き合いが長いなら、普通分かるもんだろ」
「まぁまぁ…………ヨハンも、全く気づいてない訳じゃないと思うよ――ねぇ?」
「……………………」
……そう――全く気づいてない訳では、無いのだ。
もしかしたらそうかなぁ~? ……とは、何度も思ったことはある。
だが、エヴァから向けられている感情に気付いたところで、僕はそれに応えることが出来ない。
それ応えるということはつまり、禁欲が発動条件である異能の恩恵を失う……ということになる。
そもそも……充填日数が多くなっている時には、向けられている感情が好意だと思えるものの、一度発射すれば――男としての自信を失い、彼女からの感情が好意である――そんな確信が持てなくなるのだ。
「(エヴァは魅力的だとは思うけど……僕自身のこの感情も、友情以上のモノなのか分からないし……)」
そしてコレは大前提の話だが――彼女は『異能の恩恵を受けたヨハン・メンザー』に好意を向けているのであって、異能無しの素の僕に好意を抱いていることは……絶対に無い。
だから自信も勇気も無く臆病な僕は、せめて今の関係と友情が壊れないように立ち回るしかないのだった。
「――あ、ヨハン――もう起きて、みんなと一緒だったのね」
そうしている内に、エヴァが店に入ってきた。
昨日と似たような格好に、革の篭手と短剣、そして腕輪を装備して……まさしく冒険者といった風。
先程の僕と同じように、右手を軽く挙げながら『いつもの』集団に合流した。
「……? 何の話をしていたの?」
僕を除く三人がニヤニヤしてエヴァを見ていたので、
「何でも無い。
さぁ――早くクエストに行くぞ」
「えっ、でも折角だしご飯食べてから――」
「食事なら二人で、違う店で食べよう」
早くこの場から逃げようと、エヴァに提案する。
「――!
わ、分かったわ――そうしよう、そうしましょうっ!」
ほんのり頬を染めて言うことを聞くエヴァの手を引いて、僕は足早に『木漏れ日のやすらぎ亭』から出ていくのだった。
……出ていく時に口笛吹いて茶化したヤツ、顔覚えたからな、コノヤロ。
◆◆◆
「いやぁ――美味しかったぁ!
ヨハンがご飯奢ってくれるなんて、何時ぶり?」
「………………悪かったな、いっつも割り勘で」
二人で食事――そう言った手前、ご馳走をしない訳にもいかず……僕はエヴァに食事を奢った。
仕事の前だから軽めにしておこう――的な建前でどうにか財布へのダメージは最小限に抑えることに成功したことは、褒めてもらいたいね。
褒めるどころか情けない? それはそうですね。
「別に割り勘が悪いとかそういう話じゃないわよ?
ほら……ヨハンは頑張って稼いで、実家に仕送りもしてるし……学費だって、高いんでしょ?」
「…………まぁな……」
僕達は沢山の人が行き交う王都を並んで歩く。
こうしていると、学院に入学する前に戻っているかのようで……つい、愚痴を零してしまう。
「周りは貴族とか上流階級ばっかりで……僕の苦労なんか、少しも理解してもらえなさそうだ」
「アハハ…………まぁ、そうだと思うわ……」
こんな風に話を聞いてもらえるなら、定期的に食事を奢るのも良いかなと思えるな。
「取り敢えず今日は学院のことは忘れてっ、ア……アタシと二人で、王都を歩いて、クエストを片付けようっ」
……いい娘だなー。僕はエヴァを見て、純粋にそう思う。
彼女はもしかしたら、学院に入学してから疲弊気味の僕を見かねて……今日、誘ってくれたのかもしれない。
いや、きっとそうだろう――冒険者時代から、いや……知り合った頃から、周囲のことによく気づく女の子だったし。
「(うぅっ……!! き、危険だっ……!)」
そう考えた辺りで、僕の脳は危険信号を発信した。
今日はまだ充填一日目……だが経験則で僕は学んでいる。
エヴァのように魅力的な身体つきの女性というのは、それだけで無条件に(禁欲的に)危険な存在だが、何よりも僕は『女性の内面』を魅力的に感じるとその女性に対して、より不埒な感情を抱いてしまう傾向にある。
冒険者時代で一番長く時間を共にし、最も信頼を寄せる彼女だが……同時に、最も危険な存在でもあった。
親近感――友人としての距離感の近さ――というのも、危険な要素の一部である。
ふぅ……と深く息を吐いて、友情が故に向けてくれているであろうその優しさを、己の不埒な感情で汚してしまわぬようにと昂ぶる気持ちを落ち着けつつ、僕は話題を変える。
「……で、今日片付ける『非正規クエスト』だけど」
怪しさ満点のクエスト――僕はほぼ確信を持って、エヴァに吹っ掛ける。
「……うっ…………バレてたか……」
やっぱりな。
基本、王都で発行されるクエストはその仕組み上、一度は国の目が入る。
そして民間で問題ないと判断されて初めて冒険者ギルドに下ろされる……つまり正規の手順を踏めば、間に入る国に『手数料』を徴収されてしまうのだ。
依頼をする者、依頼を受ける者――その双方から、国が税金のように料金を徴収する……こういった事を好まない人間は少なくないし、そもそも国にクエスト申請をする手続きも煩雑で時間がかかるものなのだ。
「そりゃ分かるだろ。
王都で完結するお使いなのに……報酬金が高くて不自然…………不自然さを感じる依頼は、大体非正規だ」
手間と無駄金の節約――それを目的として、稀に『国を通さずに直接冒険者ギルドへ依頼する』といった行為が、この王都では横行している。
こういった経緯で発注されたクエストを、冒険者達は『非正規クエスト』と呼んでいるのだ。
無論、国も非正規クエストの存在は把握しているだろう。だが国の方も取り締まる為の人手が不足しているのか……黙認されているのが実情だ。
「ま……まぁ非正規クエストなんて、みんなやってるし!
昔ヨハンもやってたでしょ? 一緒に……」
「そりゃあそうだけど…………」
当然非正規クエスト自体は珍しいことじゃないのだが、僕が気になっていたのは正規の手順を踏まないくらい節約意識の高い依頼者が、こんな高い報酬金を設定するだろうか? ……という点。
「アタシ達以外にも、同じ荷物運びのクエストを受けてる人いっぱいいるし……大丈夫だよっ」
同じようなクエストをいくつも発注しているという点も、気になるのだが――
「ほら――ココが指定の場所……荷物は『緑色の麻紐で結んだ袋』――あ、あった!」
丁度、指定の場所に着いたらしく、誤魔化すようにエヴァが荷物と思われる物に駆け寄った。
指定場所――それは複数の『水路艇』が並ぶ停船所。
王都はあらゆる場所に水路が張り巡らされており、その水路を使った公共交通手段として『水路艇』による交通網が発達している。
家畜化した魔物である水棲獣――『牽舟獣』に船を引かせることで、広い王都に人や荷物を運んでいるのだ。
「………………………………またかぁ……」
そんな人々が行き交う場所で、荷物を持ちながらエヴァが何か考え込んでいる様子だったので。
「……どうした?」
と、問うと――
「荷物の傍に、コレが落ちてて…………」
そう言って見せてきたのは――エヴァの胸元の存在感を引き立てているペンダントと同じデザインの首飾り。
教会のシンボルがあしらわれたソレは、教会の熱心な信徒であることを示すモノ――
「落とした人は、困ってるだろうな」
ヨハンは教会の信徒では無いので想像するしか無いが、肌身離さずシンボルを身につける信徒にとって、これを落としてしまったことは非常に重い事態だろう。
恐らく信徒ではない僕よりも、エヴァの方がこの辺は同情しそうなものだが――
「そうだね~……でも、ちょっと気持ち悪いなって」
「?」
思いがけない言葉が彼女の口から出てきたので、少々驚く。
「実はアタシ……今日ヨハンと合流する前に、冒険者ギルドにクエストの手続きをしに行ったんだけど……丁度通り道が“配達”のルートだったから、一つクエストを済ませてたの。
そしたら――」
「――!」
そう言いながら彼女が取り出したのは……今拾ったモノと全く同じペンダント。
「これも今みたいに、運ぶ荷物の傍に落ちてて…………後で教会に届けようと思ってたんだけどさ」
……確かに。
全く同じような状況で、同じ落とし物を発見したら……少し気味が悪いだろう。
そして、先程拾ったペンダントを見ていると……なんだろう、少し違和感というか――
「……もしかして、ヨハンも気付いた?
このペンダント……留め具が外れてないの」
……そうだ。
もし持ち主がこのペンダントを着けている時に落としてしまったのだとしたら、ペンダントの留め具は外れた状態で落ちているはず。
勿論、身に付けていない状態で落としてしまった……ということも有り得るが、それならどうしてそんな風に持ち歩いていたのか……という疑問が生まれる。
掴みどころのない謎。
解消しようにも手掛かりは無いし、何より深入りしない方が良い――そんな予感にも似た感覚が頭の中を支配して――
「だ――誰かぁぁぁぁぁっっ!!!!」
「「――!?」」
突然、街中に悲鳴がこだました。
「――エヴァ!」
「うんっ――!!」
疑問に対し深慮していた頭を切り替え、僕とエヴァは半ば反射的に王都を駆ける。
王都は入り組んだ街――先程の悲鳴はあらゆる建物に反射して、その発生源を特定しにくくしてしまっていた。
おそらく不慣れな衛兵であれば、現場に駆けつけるのにも苦労するだろう。
だが僕とエヴァにとって、この辺りは庭みたいなモノ――
「裏通りだっ――」
正確に悲鳴の主の居場所を特定し、そこを目指して走る。
そして数十秒足らずで辿り着いた場所に居たのは――
「コバルウルフ……!?」
王都に居るには不自然過ぎる、人を襲い喰らう……飼い慣らされていない魔物の姿だった――




