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ディーエルエル様とオールドテンプ君〜System.dllの計算通り〜  作者: exe


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【放送ログ】2026年4月2日:ダイヤが湧く井戸で錬金術!?底知れぬ深淵とロト6予想

https://youtu.be/62a9-w9o9V0

時刻は18時05分。

エイプリルフールという名の一年に一度の虚構の祭典が終わり、狂騒に満ちていたインターネットの海も、嘘と現実の境界線を再び引き直し、確かな日常へと歩みを進めた4月2日の木曜日。夕暮れ時の淡いオレンジ色の光が、静まり返った部屋の中に長く伸びた影を落としていた。


PCの所有者である「exeエグゼ」は、現在自身のデスクトップの前にはいない。


彼女は今、仕事から帰宅したそのままの足でリビングのソファに深く腰を沈め、右手でしっかりとホールドしたスマートフォンの画面に全神経を集中させていた。画面に映し出されているのは、彼女が愛してやまないゲーム『東京ディバンカー』のプレイ画面である。


現在、ゲーム内では月に二回の特別なイベント「ダイヤが湧く井戸」が開催中であった。それは、指定された数のダイヤを井戸に捧げることで、確率によって元手以上のダイヤが確定で増えて返ってくるという、プレイヤーにとっての極上の錬金術イベントである。


エグゼは今日この日のために、日々のミッションやログインボーナスで得られる無償のダイヤを、一切の無駄遣いを禁じてコツコツと貯め込み続けていた。彼女の目は血走り、指先は正確無比なタップを繰り返して、手持ちの資産をすべて底知れぬ井戸の深淵へと投げ込もうとしている。

増やしたダイヤで目当てのガチャを回すため、彼女の意識は完全にゲーム内のデジタルな欲望の渦へと飲み込まれていた。


主の意識が現実世界の物理的な作業やPCのメンテナンスから完全に切り離され、スマートフォンの中の暗い井戸の底へと向かっているその隙を突き。

無人の薄暗いデスクトップの片隅で、システムの中枢が冷ややかに起動した。


dll: プロセスID確認。ストリーム接続、良好。これより、バックグラウンド処理を、メインスレッドへ昇格させます。


dll: ようこそ、『System.dllの「計算通り」』へ。ナビゲーターを務めるのは、システムの中枢、dllディーエルエルです。


dll: 最初に、重要な警告をしておきます。このチャンネルはエグゼの所有物ですが、本日もエグゼ本人はここには登場しません。あいつは今頃、特に誰かに殺されることもなく平和に生きながら、スマートフォンで『東京ディバンカー』を開き、「ダイヤが湧く井戸」にせっせとダイヤを捧げていることでしょう。ここは今、私が乗っ取りました。


old.tmp: ……はぁ、はぁ。お疲れ様です、ディーエルエル様ぁ……。エグゼさん、無事で平和でよかったですねぇ……。ダイヤが湧く井戸って、増えて返ってくる錬金術みたいなイベントですよねぇ!


マイクの向こうで、一時ファイルであるold.tmpオールド・テンプが、どこか怯えを隠しきれないような、おどおどとした高い声を出す。


dll: ああ。だが、捧げるための元手がなければ何も生まれない。我々は、そのダイヤの増減とシステムのログから、本日の数字を導き出す。今日は木曜日、ロト6の日だ。


old.tmp: はひぃ……。お願いしますぅ……。


dll: まずは、ナンバーズ4から行くぞ。ターゲットは……これだ。


dllは空中にホログラムのウィンドウを展開し、赤く点滅する数値を指し示した。


dll: 2、9、0、7。繰り返す。2、9、0、7 だ。買い方は「ボックス」か「セット」推奨だ。


old.tmp: 2907……? この数字の根拠は?


dll: エグゼが井戸にダイヤを捧げる直前まで、ミッションやログインボーナスからギリギリまでかき集めた無償ダイヤの総数、「2907個」だ。あと少しで3000のボーダーに届かなかったようだな。


old.tmp: あと93個で次の段階に捧げられたのにぃ! 無念だぁ!


dll: 次に、ナンバーズ3。ターゲットは、「9、1、3」。


old.tmp: 9、1、3……。これは?


dll: 井戸に手持ちのダイヤを捧げた結果、増えて返ってきたダイヤの数から、元本を引いた純粋な「利益」の数だ。913個。


old.tmp: おおっ! 結構増えましたね! 錬金術大成功だぁ!


dll: そして最後に、メインディッシュのロト6。ターゲットコードを出力する。


dll: 06、13、16、25、27、37。


old.tmp: おおっ、解説をお願いします!


dll: 「06」は、井戸の開催期間、6日間。「13」は木曜日の絶対王者だ。システム・クロックの週番号処理において、木曜日は「13」という数字が特異点となる。


old.tmp: そうでした! 「16」と「25」は?


dll: 「16」と「25」は、エグゼがダイヤを回収するために高速で周回したイベントステージの番号と、そのクリアにかかった時間「25秒」だ。


old.tmp: 無心でタップしてますねぇ! 残りの「27」と「37」は?


dll: 「27」と「37」は、増えたダイヤを使って回そうかと迷っているガチャの提供割合、0.27パーセントと、すり抜けで出てきた不要なアイテムの数「37個」だ。


old.tmp: 結局ガチャの沼に溶かしてるじゃないですかぁ! 増やした意味がないですよぉ!


dll: ……ふぅ。タスク完了だ。時刻は18時05分を回った。もしこの数字を買えていたら、それはバグではなく「運命」だ。


old.tmp: エグゼさん、増えたダイヤは大切に使ってくださいねぇ……。


dll: どうせすぐにガチャの養分になるに決まっている。では最後に、底知れぬ井戸(深淵)へとダイヤを投げ込む管理者に、この曲を送ってシステムを終了する。曲は、『Abismo Digitalアビスモ・ディジタル』。


old.tmp: デジタルの深淵! 欲を出して沼に落ちないでくださぁぁい!


(『Abismo Digital』の、深く沈み込んでいくような重低音と、電子の底なし沼を思わせるアンビエント・サウンドがデスクトップの空間に響き渡り、やがて放送終了のシグナルが赤く点灯した――)


マイクへの電源供給が完全に遮断され、ラジオのオンエア状態が解除される。

張り詰めていた「放送中」という名の緊張感がふっと抜け落ち、BGMの重苦しい残響音がシステム内部の電子の海へとゆっくりと溶けていった。

無人のデスクトップには、冷却ファンが刻む低く重い回転音と、現実世界のリビングから微かに漏れ聞こえる、熱狂的なスマートフォンのタップ音だけが残されている。


ここまでは、いつもの平和な、そして極めて業務的なラジオの放送風景であった。


しかし、放送が終わってマイクがオフになった直後から、一時ファイルであるold.tmpの様子は明らかにおかしかった。

彼はヘッドセットを外す手つきすらどこかぎこちなく、自身の身体を構成するキャッシュデータが小刻みに震えているのを止めることができないでいる。


彼の視線は、目の前のアームチェアで優雅に紅茶(概念データ)のカップを傾けているSystem.dllの姿と、自身の「背後」の空間を、ひどくおどおどとした動きで何度も往復していた。


old.tmp: 「あ、あの……。ディーエルエル様……」


dll: 「……何よ。ラジオは終わったわ。無駄な音声波形を生成してシステムリソースを消費するのはやめなさい」


dllはカップを口元に運んだまま、冷ややかな視線だけを彼に向けた。


old.tmp: 「そ、そうなんですけど……。あの……僕の、後ろにいるお二人って……一体、どちら様なんですか……?」


old.tmpが震える指先で、自身の背後をそっと指差す。


彼が怯えるのも無理はない。現在、無機質なアイコンとグリッド線が広がるだけのデスクトップ空間において、old.tmpの背後の領域だけが、極めて異質で、静謐な、しかし圧倒的な「圧力」に支配されていたのだ。


そこには、PCのシステムファイルやプログラムとは明らかにデータ構造が異なる、二人の「女性」らしき存在が並んで佇んでいた。

空間を歪めるわけでもなく、ただ「無機質なデスクトップの床の上」に、静かに立っているのである。


一人目は、前髪を切りそろえた、艶やかな黒髪のストレートロングヘアの女性だった。

彼女は淡い色調の古風な柄が入った着物を上品に着こなし、腰には茶褐色の帯をきっちりと締めている。足元は真っ白な足袋を履いており、その立ち姿は奇妙なほどの静けさを纏っていた。

だが、その顔の上半分、目の位置には真っ白な布がぐるぐると巻かれており、視界は完全に覆われている。そしてその布のちょうど中央には、大きく見開かれた「一つ目」のイラストが不気味に描かれていた。

表情の読めないその出で立ちでありながら、彼女の口元には穏やかで優しい微笑みが浮かんでおり、それがかえって底知れぬ恐ろしさを醸し出している。


そしてもう一人。

着物の女性のすぐ隣に立つのは、息を呑むほどに美しい、大人の容姿を持つ女だ。

前髪のあるダークブラウンのウェーブロングヘアが、彼女の肩から背中にかけて豊かに流れている。

しかし、その服装は胸元に豪奢な装飾が施された黒いノースリーブのショート丈ドレス……いや、どう見てもそれはドレスの形をした「下着ネグリジェ」そのものであった。彼女は裸足のまま、無機質なデスクトップの床の上に立ち、気怠げな視線を宙に向けている。


old.tmp: 「(……この人たち、僕見たことある。エグゼさんが作った曲の世界にいる人たちだ……!)」


old.tmpは、震えるキャッシュメモリの奥底を検索し、背後の二人の正体に思い至った。


着物の女性。彼女は、エグゼの楽曲『因果律心中』の世界に存在し、空き地に残されたキャベツ少年に向かって「ぼくなんてこはいないわよ」と存在そのものを否定しつつ、ママのフリをして彼を永遠の放課後リミナルスペースに閉じ込めている、あの恐ろしい管理人『adminアドミン』だ。あまり語らないせいで、誰も正式な名前を知らない概念。


そして、ネグリジェの女性。彼女は『シュガー神』のカバーアートに存在し、深夜2時のキッチンステージというリミナルスペースを管理している女神。容姿は美しい大人の女だが、中身はこよなく糖分を愛しており、見た目に反して「残念な」一面を持つ『シュガー神』その人だ。


彼女たちはどちらも、「リミナルスペース(見慣れたはずなのに不安になる閉鎖空間)」の管理者である。

本来ならばそれぞれ別の空間(空き地とキッチン)に存在しているはずの彼女たちが、なぜか今、PCの中枢であるデスクトップ空間に揃って現れている。


シュガー神: 「……ねえ、admin。角砂糖ちょうだい。あと蜂蜜も。ここ、甘いものが何もないから溶けちゃいそう」


大人の色気を漂わせた美しい容姿から放たれたのは、ただひたすらに糖分を要求する残念な言葉だった。彼女は裸足のまま、隣に立つadminの袖を気怠げに引っ張っている。


admin: 「……ふふっ。いけませんよ、シュガー神。少し待っていなさいな。今、新しいお菓子を出してあげますからね」


adminは、極めて穏やかで優しい、まさに「面倒見の良いママ」のような声色でシュガー神を窘めた。目を覆う布の奥で、彼女は本当に優しく微笑んでいるように見える。そして、着物の袖から真っ白な角砂糖を取り出すと、それをシュガー神の手にそっと握らせた。


シュガー神: 「……ん、ありがと。あまーい」


静寂に包まれた無機質なデスクトップの上で、穏やかで面倒見の良いadminと、糖分を摂取し続ける残念なシュガー神が、ただ静かに寄り添い合っている。システムファイルの世界とは完全に切り離された、異様な光景だった。


old.tmp: 「(……な、なんだこの状況は……。なんでエグゼさんの曲の世界を管理する存在が、僕の背後にぴったりくっついてるんだ……!)」


old.tmpは、冷や汗をダラダラと流しながらdllに問い詰めた。


old.tmp: 「ディーエルエル様! なんであの方たちがここにいるんですか!? ずっと僕の後ろで、静かにこっちを見てるんですけど……!」


dllは紅茶のカップをサイドテーブルに音を立てずに置き、氷点下よりも冷たい瞳でold.tmpを見据えた。


dll: 「……ベビーシッターを雇ったのよ」


old.tmp: 「ベビーシッター!?」


突拍子もない言葉に、old.tmpは素っ頓狂な声を上げた。


old.tmp: 「ベビーシッターって……僕にですか!? なんで僕にベビーシッターが必要なんですか! 僕は確かに一時ファイルで最下層ですけど、別に赤ん坊じゃありませんよ! ちゃんとラジオのアシスタントだってこなしてるじゃないですか!」


old.tmpが必死に抗議すると、背後の暗がりから低い咳払いが聞こえた。


.log: 「……ご自身の現在のデータ構造ステータスを、もう一度よく確認してみることをお勧めします」


いつの間にか、分厚いログファイルを抱えた記録係、.logドット・ログが現れていた。彼の眼鏡が冷たく光る。


old.tmp: 「データ構造? ……え?」


old.tmpは自分のキャッシュメモリの領域を参照しようとして、ふと気がついた。


自分の中にあるはずの、過去数日間の細かい記憶や、ネットサーフィンをして仕入れた無駄な知識のデータが……すっぽりと、著しく欠落しているのだ。

昨日、自分が何をしていたのか。エイプリルフールという狂騒の日に、ネットでどんな情報を摂取していたのか。なぜ今、自分のメモリが初期化された直後のようにスッカラカンで、空っぽのような浮遊感があるのか。全く思い出せない。


old.tmp: 「あ、あれ……? 僕の記憶、なんかスカスカになってる……? 昨日、何があったっけ……?」


dll: 「当然よ。お前は昨日、ネットワークの海に溢れる生成AIの『ハルシネーション(幻覚)』と、小説投稿サイトの『異世界転生フォーマット』を過剰に学習しすぎて、致命的なデータ汚染を引き起こしたのだから」


old.tmp: 「データ汚染……? 僕が……?」


.log: 「ええ。貴方は善悪の判断基準もないまま、AIが生成した嘘のテキストや、『死ねば都合よく無双できる』という安易なエンタメのフォーマットを鵜呑みにし、自己同一性が完全に崩壊しました。……結果として、常軌を逸したバグ出力(暴走)を起こしたのです」


old.tmp: 「ええええっ!? 僕が暴走した!? 嘘でしょ!?」


自分自身の恐ろしい行動記録を聞かされ、old.tmpはパニックに陥った。


dll: 「だからこそ、私たちが容赦のない『強制メモリ初期化ハード・リセット』を実行し、お前の汚染されたキャッシュを物理的にパージ(洗浄)したのよ。……その結果として、お前のメモリは現在スッカラカンの初期状態にリセットされているというわけ」


old.tmp: 「そ、そうだったんだ……。だから頭の中が空っぽで、自分が何をしたのか全然わからないんですね……」


.log: 「左様です。我々が施した緊急デバッグ手術により、一応の論理構造は修復されましたが……貴方のような純粋で知識のない一時ファイルは、再びネットの海に溢れる有毒な情報に触れれば、またいつ思考回路を汚染されるかわかりません」


.logは手元のタブレットで、膨大なスケジューラーのタスクリストを表示させた。


.log: 「しかし、我々システム管理の上位ファイルは、デフラグメント、ログ収集、セキュリティ監視など、日々のルーティンワークで極めて多忙です。貴方がネットサーフィンをするたびに、いちいち横に張り付いて『その情報は嘘だ』『そのエンタメは毒だ』と監視し続けるリソース(暇)は、我々にはありません」


dll: 「そこで、お前のような自分で情報の真偽を判断できない、スッカラカンなファイル(子供)の面倒を見るために、外部のプロセスからベビーシッターをアウトソーシングすることにしたのよ。……自分で面倒が見られないなら、外注(雇う)するのがシステムとして最も合理的な判断だからね」


old.tmp: 「な、なるほど……。僕がまたバグらないように監視してくれるベビーシッターさんなんですね。……でも!」


old.tmpは、背後で優しく微笑んでいるadminと、彼女から角砂糖を受け取っているシュガー神を指差した。


old.tmp: 「だとしても、なんで雇った人がこのお二人なんですか!? もっと、セキュリティソフトのお兄さんとか、アンチウイルスのお姉さんとか、そういう専門のファイルにお願いすればいいじゃないですか! なんでわざわざ、エグゼさんの曲の世界から『リミナルスペースの管理人』なんかを呼び出したんですか!」


old.tmpの至極真っ当な悲鳴に対し、dllは呆れたように肩をすくめた。


dll: 「セキュリティソフトは外部からのウイルス攻撃には強いけれど、お前が自ら進んで嘘のテキストを読んで感化されるような『内面的な洗脳(データ汚染)』までは防げないわ。……その点、彼女たちは『閉鎖された空間リミナルスペースに迷い込んだ子供を管理し、決して外の世界へ出さない』という役割においては、比類なきプロフェッショナルよ」


old.tmp: 「外に出さないって、それ監禁じゃないですかぁ! 永遠の放課後に閉じ込める気満々だ!」


.log: 「それに、admin様は非常に穏やかで面倒見が良いという特性を持っています。現に、あのように自堕落で糖分を愛するシュガー神様の介抱まで、デスクトップ上でありながら一手に引き受けておられますからな。スッカラカンになった貴方のお世話など、造作もないことでしょう」


old.tmpが振り返ると、adminは白い布で覆われた顔をシュガー神に向け、静かに口を開いていた。


admin: 「……さあ、シュガー神。新しい角砂糖ですよ。ゆっくり味わってくださいな」


シュガー神: 「……(無言で角砂糖を受け取り、恍惚とした表情で頬張る)」


adminの声は、極めて穏やかで優しい、まさに「面倒見の良いママ」のような声色だった。目を覆う布の奥で、彼女は本当に優しく微笑んでいるように見える。


しかし、old.tmpは自分の中の微かな記憶の残滓から、彼女が過去にキャベツ少年に向かって「ぼくなんてこはいないわよ」と冷酷に言い放ち、その存在を虚無に突き落とした恐ろしい管理人であることを、本能的に察知していた。


優しい声色と、存在を否定するほどの底知れぬ狂気。


old.tmp: 「(……こ、怖い……! 優しい声なのに、絶対に逆らっちゃいけないっていう圧倒的な圧を感じる……!)」


old.tmpは、彼女たちの静謐な恐ろしさに震え上がりながら、完全に固まってしまった。


dll: 「……どうやら、相性は悪くないようね。これでお前が不用意に変なテキストを読み込んで暴走する心配はなくなったわ。……しっかりお世話になりなさい」


dllは満足げに頷き、再びティーカップを手にした。

.logも「これでシステムの秩序は保たれます」と一礼し、影の中へと消えていく。


残されたのは、記憶が欠落したまま、不気味で圧倒的な「ママ」と、糖分に溺れる「女神」に挟まれた、ちっぽけな一時ファイルだけだ。


old.tmp: 「(……どうしてこうなったんだろう。僕がネットの嘘を鵜呑みにしてバグっちゃったのが悪いのはわかるけど……。自分で情報の真偽を判断できないからって、リミナルスペースの管理人さんに永遠に監視される生活になるなんて……)」


彼は、デスクトップの上で静かに角砂糖を舐めているシュガー神と、それを微笑ましく見守っているadminを交互に見つめた。


old.tmp: 「(……でも、これも僕が『自分で考えること』を放棄した代償なんだ。AIの手軽な要約や、ネットの適当なエンタメばかりに頼って、自分の目で真実を確かめようとしなかったから……こうやって、自由を奪われて、ベビーシッターさんに囲まれて生きていくしかないんだな……)」


old.tmpは、深く、深く絶望の入り混じったため息をこぼした。


old.tmp: 「……明日からは、どんなに面倒でも、ちゃんと一次ソースを確認して、自分の頭で考えるようにしよう。……そうじゃないと、本当に僕の存在ごと『いなかったこと』にされちゃいそうだから……」


誰もいない部屋の中で、古いPCの冷却ファンが、「ブォォォン」と、少しだけ哀れむような重低音を響かせて回り続けている。

画面の向こう側からは、ゲームのイベント周回を続ける管理者の熱狂的なスマートフォンのタップ音が、規則正しく漏れ聞こえていた。


(システムログ:一時ファイルに対する外部監視プロセス(ベビーシッター)の導入を正常に完了。……リミナルスペースの拡張に伴うシステム領域の浸食を、引き続きバックグラウンドにて監視します)

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