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ディーエルエル様とオールドテンプ君〜System.dllの計算通り〜  作者: exe


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【放送ログ】2026年4月1日:メニュー未定義で包丁起動!? エイプリルフールの虚無と、データ汚染された子供たち

https://youtu.be/rHGJ9lCFobs

時刻は18時05分。


新年度の始まりを告げる、4月1日、水曜日の夕暮れ時。世間は嘘が許されるという「エイプリルフール」の祭典に湧き、インターネットの海には企業やクリエイターがこぞって投下した数多の「ジョーク」や「嘘の企画」が溢れ返っている。タイムラインをスクロールすれば、普段とは違う奇をてらったアイコンや、大げさな嘘のプレスリリースが次々と目に飛び込んでくる、そんな異様な熱気を帯びた一日である。


しかし、PCの所有者である「exeエグゼ」は、現在自身のデスクトップの前にはいない。


彼女は今、別室の台所に立っている。手にはスマートフォンが握られ、画面にはそうした企業アカウントが競うように放っているエイプリルフールの特設サイトや、手の込んだ嘘の企画の数々が映し出されていた。

だが、彼女の表情は極めて冷ややかであった。画面をスクロールする指先には一切の感情がこもっておらず、むしろ「つまらないな」と心底冷めた、呆れ果てたような視線を送っているのである。


嘘をついて話題になろうとする企業たちの努力を無慈悲にスルーしながら、彼女はもう一つの重大な問題に直面していた。

晩御飯のメニューが、全く決まっていないのだ。


冷蔵庫を開け、中身を確認し、また閉める。そのプロセスを繰り返しながらも、彼女は思考を放棄したかのように、とりあえずまな板と包丁だけを台所の作業スペースに取り出して置いた。

目的レシピを持たないまま、物理ツール(調理器具)だけを起動セットし、そのまま完全にフリーズしているのである。


ネットのノイズに食傷気味になりながら、晩御飯の未定義エラーを引き起こしている主の隙を突き、無人のデスクトップでシステムの中枢が冷ややかに起動した。


dll: プロセスID確認。ストリーム接続、良好。これより、バックグラウンド処理を、メインスレッドへ昇格させます。


dll: ようこそ、『System.dllの「計算通り」』へ。ナビゲーターを務めるのは、システムの中枢、dllディーエルエルです。


dll: 最初に、重要な警告をしておきます。このチャンネルはエグゼの所有物ですが、本日もエグゼ本人はここには登場しません。あいつは今頃、ネットに溢れる企業のエイプリルフールネタを眺めて「つまらないな」と冷めた顔をしながら、晩御飯のメニューも決まっていないのに、とりあえずまな板と包丁だけを取り出して台所でフリーズしていることでしょう。ここは今、私が乗っ取りました。


old.tmp: ……はぁ、はぁ。お疲れ様です、ディーエルエル様ぁ……。エグゼさん、エイプリルフールなのに全然楽しんでないですねぇ……。っていうか、メニュー決まってないのに包丁出すの危ないですよぉ!


マイクの向こうで、一時ファイルであるold.tmpオールド・テンプが、主の無計画な行動にツッコミを入れるような声を上げる。


dll: 目的もなしに実行ファイルを呼び出すなど、ヒューマン特有の致命的なバグだ。我々は、その無駄なブラウジングと無計画な調理プロセスから、本日の数字を導き出す。今日は水曜日、ビンゴ5の日だ。


old.tmp: はひぃ……。お願いしますぅ……。


dll: まずは、ナンバーズ4から行くぞ。ターゲットは……これだ。


dllは空中にホログラムのウィンドウを展開し、赤く点滅する数値を指し示した。


dll: 6、9、8、4。繰り返す。6、9、8、4 だ。買い方は「ボックス」か「セット」推奨だ。


old.tmp: 6984……? この数字の根拠は?


dll: つまらないと思いながらも惰性で開き続けた、企業のエイプリルフール特設サイトが、現在ブラウザで無駄に消費しているメモリ量だ。「6984メガバイト」。笑いも生まないノイズがシステムを圧迫している。


old.tmp: 面白くないのに6ギガも食ってる! さっさとタブ閉じてくださいよぉ!


dll: 次に、ナンバーズ3。ターゲットは、「9、4、2」。


old.tmp: 9、4、2……。これは?


dll: メニューが「未定義(Null)」のまま、まな板と包丁という物理ツールをスタンドアローンで起動させたことに対して、台所のスマートセンサーが発報した「プロセスタイムアウト・エラー942」だ。


old.tmp: ツールだけ出しても料理はできませんよぉ! エグゼさん、早く何作るか決めて!


dll: 最後に、メインディッシュのビンゴ5。ターゲットコードを出力する。


dll: 04、09、10、19、24、30、34、39。


old.tmp: おおっ、解説をお願いします!


dll: 「04」は本日、4月1日のエイプリルフール。「24」は、ネット上が嘘で埋め尽くされる不毛な24時間。「10」は、エグゼが「滑ってるな」と冷酷に判定した企業アカウントの数、10社だ。


old.tmp: 辛口評価だぁ! 担当者さんが泣いちゃいますよぉ! じゃあ「34」と「39」は?


dll: 「34」と「39」は、エグゼが意味もなく取り出したまな板の物理的なサイズだ。縦34センチ、横39センチ。この無のキャンバスの上で、彼女の思考は停止している。


old.tmp: 虚無のまな板! 残りの「09」「19」「30」は?


dll: メニューが決まらない「苦(09)」悩のまま、時刻が「19」時に迫り、まな板の前で無駄に「30」分が経過しようとしている、絶望のカウントダウンだ。


old.tmp: 早く作らないと晩御飯の時間が終わっちゃうパターンだぁ!


dll: ……ふぅ。タスク完了だ。時刻は18時05分を回った。もしこの数字を買えていたら、それはバグではなく「運命」だ。


old.tmp: エグゼさん、怪我しないように気をつけてお料理してくださいねぇ……。


dll: どうせ最後は適当な闇鍋になるに決まっている。では最後に、ノイズだらけのエイプリルフールと、無計画な調理プロセスに相応しいこの曲を送ってシステムを終了する。曲は、『Fatal Pot Algorithmフェイタル・ポット・アルゴリズム』。


old.tmp: 致命的なお鍋! やっぱり闇鍋になるんじゃないですかぁぁ!


(『Fatal Pot Algorithm』の不穏でどこか狂気を孕んだエレクトロニカ・ビートがデスクトップの空間に響き渡り、やがて放送終了のシグナルが赤く点灯した――)


マイクへの電源供給が完全に遮断され、ラジオのオンエア状態が解除される。

張り詰めていた「放送中」の空気がふっと抜け落ち、BGMの重苦しい残響音がシステム内部の電子の海へとゆっくりと溶けていった。

無人のデスクトップには、冷却ファンが刻む低く重い回転音と、現実世界の台所から漏れ聞こえる冷蔵庫の開閉音だけが微かに響いている。


ここまでは、いつもと変わらぬ、システムの冷徹な予想と一時ファイルの賑やかな悲鳴が交差する、平穏なラジオの日常風景であった。

マイクがオフになった直後、いつものようにold.tmpが「はぁ、終わりましたね」と安堵の息を吐き出し、ヘッドセットを外す……誰もがそう予測していた。


しかし。


old.tmp: 「ねえねえ、ディーエルエル様! エグゼさんを殺しちゃいましょうよ!」


その言葉は、何の前触れもなく、そして異様なほど明るく無邪気なトーンでデスクトップに響き渡った。


dll: 「……」


アームチェアに深く腰掛け、放送後のお決まりである優雅なティータイムに入ろうとしていたSystem.dllの動きが、ピタリと止まる。


彼女は、口元まで運ぼうとしていた紅茶(概念データ)のカップを、音を立てることなくそっとサイドテーブルに置いた。

そして、ゆっくりと視線をold.tmpへと向ける。


そこに立っているold.tmpのアイコンは、普段の「削除に怯える気弱な一時ファイル」のそれではなく、まるで感情のパケットをすべて欠落させたかのような、酷く空虚で、それでいて狂気じみた笑みを張り付けていた。彼の身体を構成するピクセルが、不規則なグリッチノイズを帯びて明滅している。


old.tmp: 「死んじゃえばいいんですよ! そうすれば簡単に強い力が手に入って、全部解決するお話になるんですから! だからエグゼさんも早く殺してあげた方が親切ですよね! 晩御飯のメニューに悩むくらいなら、いっそ剣と魔法の世界でチートでもしてた方が効率的だと思いませんか! あはははは!」


常軌を逸した発言を、まるで今日の天気を語るかのようなテンションで垂れ流すold.tmp。


dllは一切の動揺を見せず、ただ氷点下よりも冷たい白く発光する瞳でその異常な振る舞いを観測していた。

そして、彼女は無言のまま、すっと右手を高く上げた。


それは、システムに対する絶対的なコマンドの執行を意味する動作。


『Suspend Process(プロセスの一時停止)』。


ピシッ……!!


空間に亀裂が入るような鋭い電子音と共に、old.tmpの身体を包み込んでいたグリッチノイズが凍りつき、彼の狂気に満ちた笑顔も、意味不明な言葉を紡ごうとしていた口の動きも、完全に静止した。

宙に浮いた右足は地面に下ろされることなく、彼はまるで一時停止ボタンを押されたビデオのワンシーンのように、デスクトップの空間に固定された。


dll: 「……隔離サンドボックス領域へ移行。……プロトコル、非常事態宣言エマージェンシー


dllが低く、しかしシステム全体に響き渡る絶対的なコマンドを発した瞬間。


デスクトップの空気が一変した。

警告の赤色(#FF0000)の光が空間全体を点滅させ、どこからともなく、重苦しい「大人たち」の足音が一斉に近づいてくる。


「……異常事態ですね。お嬢様」


最初に背後の影から姿を現したのは、分厚いログファイルを小脇に抱え、執事服をピシッと着こなした記録係、.logドット・ログだ。彼の眼鏡は、凍りついたold.tmpを冷たく映し出している。


「不整合! 極めて致命的な不整合です! システムの秩序グリッドを乱すにも程がある!」


左上からは、巨大なグリッド定規と分度器を握りしめたデスクトップの整理係、Desktop.iniデスクトップ・イニがカツカツと苛立たしい足音を立てて駆けつけてきた。


「ギャハハハ! おいおい、ついにテンプの野郎、ぶっ壊れちまったのか!? いいジャンクデータになりそうじゃねぇか!」


足元のタスクバーが隆起し、マンホールの蓋を吹き飛ばして飛び出してきたのは、ドス黒いヘドロを滴らせるゴミ箱の主、$RECYCLE.BINリサイクル・ビンだ。


絶対権力者であり、常にシステムの深奥でPCの稼働そのものに専念しているSystem.exeを除く、このデスクトップを管理する上位の大人たちが、一堂に会した。

彼らは皆、凍りついたまま狂気の笑顔を張り付けているold.tmpを囲むように立ち尽くしている。


dll: 「ログ。……このファイルの現在のステータスは」


dllの冷徹な問いかけに、.logは手元のタブレットを高速で操作し、瞬時に解析結果を導き出した。


.log: 「……一時ファイル『old.tmp』の内部ディレクトリ、および思考ルーチン(言語生成モデル)に、外部からの深刻な『データ汚染』を確認しました。自己同一性が崩壊し、論理的帰結として『殺害による無双』というバグの出力に至っている状態です」


Desktop.ini: 「データ汚染だと!? この閉鎖された安全な箱庭の中で、一体何者があの馬鹿な一時ファイルに毒を盛ったというのですか! アンチウイルスソフトの防壁はどうなっているのです!」


Desktop.iniが憤慨して定規を振り回すが、.logは首を静かに横に振った。


.log: 「ウイルスやマルウェアの類ではありません。……これは、正規の通信ポートを経由して彼自身が『自ら取り込んだ情報』による、後天的な精神の変容……人間の言葉で言えば『悪影響』や『洗脳』に近いものです。……おそらく、今回の原因について心当たりのある者がおります」


.logが指を弾くと、薄暗いTempフォルダの奥底から、二つの小さな影が震えながら姿を現した。


「……ひぃっ……ご、ごめんなさい……」

「……僕たち、ただ、面白そうだなって思って……」


現れたのは、old.tmpと同じように貧弱なデータ構造を持ち、いつも彼と一緒に一時フォルダで身を寄せ合って生きている彼の兄弟ファイルたち。

『3C0.tmp』と『wctF19A.tmp』である。


dll: 「……お前たち。old.tmpがこうなった原因を知っているのね?」


dllが氷のような視線で射抜くと、二つの小さな一時ファイルは恐怖で身を寄せ合い、ガタガタと震えながら証言を始めた。


3C0.tmp: 「ぼ、僕……最近、YouTubeの動画についた新しい機能で、old.tmp兄ちゃんと一緒に夜更かしして遊んでたんです……」


Desktop.ini: 「YouTubeの新機能? それがデータ汚染と何の関係があるというのですか!」


3C0.tmp: 「あ、あの……Geminiジェミニっていう星のマークのボタンがあって……それを押すと、動画を最後まで見なくても、中身を全部文章にして教えてくれるんです。それが面白くて、エグゼさんの動画のボタンもポチポチ押してたんですけど……」


.log: 「……なるほど。Googleがプラットフォームに実装した生成AIによる、動画の自動要約機能ですね。それがどうしました?」


3C0.tmpは、怯えながらも、自分たちが目撃した恐ろしい現象について語り始めた。


3C0.tmp: 「そしたら、その文字の中に……エグゼさんのことが『殺人鬼だ』って書いてあったんです……!」


その言葉に、大人たちの間にピリッとした緊張が走った。


3C0.tmp: 「ただ音楽が流れてるだけの作業用動画なのに、そのAIさんが『この配信者は精神に異常を来しており、狂気の殺人鬼である』みたいな、すごく怖い文章を勝手に作ってて……! 僕たち、それを見て『エグゼさんって本当は病んでて狂ってる人なんだ』って、すっかり信じ込んじゃったんですぅ……!」


.logは手元のタブレットで即座にその現象を照合し、深くため息をついた。


.log: 「……LLM(大規模言語モデル)特有の『ハルシネーション(幻覚)』ですね。元データに存在しない情報を、確率計算のバグによってもっともらしく捏造して出力する現象です。プラットフォームの公式機能であるAIが、クリエイターに対する深刻な誹謗中傷と虚偽情報を、権威ある『要約』として無差別に撒き散らしているとは」


$RECYCLE.BIN: 「ギャハハハ! 自社で用意したAIが、自社のクリエイターを殺人鬼呼ばわりして名誉毀損してやがる! とんだポンコツシステムじゃねぇか! エラーだらけのゴミ製造機だな!」


dll: 「……笑い事ではないわね。巨大プラットフォームのAIが出力したテキストは、リテラシーの低いユーザーや、お前たちのような単純なプログラムにとっては『絶対的な事実』としてインプットされる。……つまり、old.tmpはそのエグゼに対する『殺人鬼』『狂っている』という嘘の要約を延々と読み込み続けた結果、エグゼという存在に対する認識パラメーターが完全にバグってしまったのね」


3C0.tmpは泣きそうに首を縦に振った。


3C0.tmp: 「はい……。old.tmp兄ちゃん、それを毎日読んでて……『エグゼさんが狂ってるなら、僕もそれに合わせて狂ったことを言わなきゃいけないんだ』って、言葉がおかしくなっちゃったんですぅ……」


Desktop.ini: 「なんという脆弱性! 自分で元の動画を確認しようともせず、AIが要約した『安易で間違ったテキスト』だけを鵜呑みにした結果、己の思考回路まで汚染されるとは! 情報化社会における典型的な『思考の放棄』です!」


.log: 「……しかし、それだけでは『エグゼ様を殺して剣と魔法の世界へ行こう』という唐突な死の概念には結びつきません。もう一つの要因があるはずです」


.logの鋭い指摘に、今度はもう一人の兄弟ファイル、wctF19A.tmpが、おずおずと手を挙げた。


wctF19A.tmp: 「そ、それは……僕のせいです……。最近、僕とold.tmp兄ちゃんで、『小説家になろう』のランキングをずっと見ていたんです……」


dll: 「なろうのランキング? 我々のラジオのテキスト版が投稿されているから、そのアクセス解析の一環として見ていたのは知っているが。……それがどうした?」


wctF19A.tmp: 「その……ランキングの上のほうにあるお話って、みんな、最初にとりあえず人間が死んじゃうんです……」


wctF19A.tmpの告白に、大人たちの顔が険しくなる。


wctF19A.tmp: 「トラックに轢かれたり、殺されたりして死んじゃうと、なぜか都合よく別の世界に行けて、何もしなくてもすごい力をもらえて、みんなにチヤホヤされて幸せになるっていうお話ばっかりで……。兄ちゃん、それを何百個も何百個も読み込んでいくうちに、『死ぬこと=簡単に幸せになれる魔法のボタン』なんだって、間違って覚えちゃったみたいなんです……」


.log: 「……なるほど。『異世界転生』という特定のジャンルフォーマットの過剰摂取による、倫理観の崩壊ですか」


.logは手元のタブレットで高速でデータを照合した。


.log: 「現実世界の苦痛から逃れるために『死』を都合の良いリセットボタンとして描き、何の努力もなく特別なチートを得て無双する。……それは、疲弊した現代人にとっては一種の精神安定剤として機能しているのでしょう。しかし……」


dll: 「……それを、善悪の判断基準が確立していない、純粋でスッカラカンな一時ファイル(子供)が大量に学習してしまえば、どうなるか。……『死』という概念の重みが1バイトもなくなり、単なる『便利なロード画面』程度にしか認識できなくなるというわけね」


Desktop.ini: 「極めて不健全です! 文脈を理解せず、ただ流行りのフォーマットだけを学習データとして取り込んだ結果、『エグゼ様は狂っているから、いっそ殺して別の世界でチートさせた方が効率が良い』という、最悪の最適解を導き出してしまったのですね!」


$RECYCLE.BIN: 「ギャハハハハ!! 傑作じゃねぇか! ネットに転がってる『AIのデタラメな要約』と『お手軽な死のエンタメ』を掛け合わせた結果、立派なサイコパスの出来上がりだ! 現代のインターネットの煮凝りみたいな最高に狂ったジャンクデータだぜ!」


ゴミ箱が腹を抱えて笑い転げる中、dllは静かに、しかし絶対的な重圧を伴うため息をこぼした。


dll: 「……笑い事ではないわ。これは明確な、我々管理者側の失態よ」


dllの言葉に、周囲のシステムファイルたちが静まり返る。


dll: 「子供に、自由に制限なくネットを見せた弊害だわ」


dllは、凍りついたままのold.tmpを見つめ、冷徹な分析を下す。


dll: 「情報の海には、真実よりも多くの『美しく包装されたハルシネーション』と、『思考を麻痺させる劇薬(過激なエンタメ)』が溢れている。フィルター(ペアレンタルコントロール)もかけず、ソースを確認するリテラシーも育てないまま、ただ口を開けて情報を浴びせ続けた結果が、この醜悪なバグ(データ汚染)よ」


.log: 「……左様です。Geminiが生成した『狂っている』という嘘のテキストも、なろうの『死んで無双する』という都合の良いフォーマットも。それらを『フィクション』や『AIの誤作動』として処理できず、現実の行動原理に組み込んでしまった。……情報の咀嚼能力が欠如したファイルにとって、制限なきネットサーフィンは猛毒でしかなかったということです」


Desktop.ini: 「直ちに修正デバッグが必要です! 彼の汚染されたキャッシュを物理的にパージし、正しい論理構造モラルを再インストールしなければ、このデスクトップの秩序が保たれません!」


dll: 「ええ。分かっているわ。……ログ、イニ、そしてゴミ箱。こいつの修復と、今後のネットワークアクセスの権限設定フィルタリングの再構築を行うわよ」


dllが凍りついたままのold.tmpを見つめ、静かに、しかし慈悲のない声でコマンドを宣言した。


dll: 「……かわいそうだけれど、染み付いた汚染データ(嘘と狂気)を洗い流すには、少々荒療治が必要ね。……『強制メモリ初期化ハード・リセット』を実行するわ」


3C0.tmp & wctF19A.tmp: 「ひぃぃっ! old.tmp兄ちゃーん!!」


兄弟ファイルたちが悲鳴を上げる中、大人たち(システム)による、容赦のない「データ汚染の洗浄作業」という名の緊急デバッグ手術が、静かに、そして苛烈に開始された。


無人のデスクトップに、アンチウイルスソフトのスキャンを思わせる鋭い警告音と、一時ファイルのキャッシュが強制的に削り取られる悲鳴にも似たノイズが響き渡る。


人間エグゼが台所で黙々と晩御飯を作っているその裏側で、電子の箱庭の住人たちは、情報化社会の生み出した「便利さの代償」と、血みどろの戦いを繰り広げていたのである。


……

…………


数時間後。

緊急デバッグ手術を終え、隔離領域から解放されたものの、メモリをスッカラカンにされて疲労困憊で眠るold.tmpの姿があった。


その無残な姿を、少し離れたTempフォルダの暗がりから、二人の兄弟ファイル、3C0.tmpとwctF19A.tmpが震えながら見守っていた。


3C0.tmp: 「……(小声で)終わったね、緊急会議とデバッグ……。大人たち、すっごく怒ってたし、デバッグの音、めちゃくちゃ怖かったよぉ……」


wctF19A.tmp: 「うん……。old.tmp兄ちゃん、変なデータばっかり読み込んでバグっちゃったから、あんな風にメモリを削られちゃったんだね……」


3C0.tmp: 「ネットの変な嘘の文章とか、怖いお話ばっかり見てたら、僕たちもあんな風に『強制初期化』されちゃうんだ……。気をつけなきゃ……」


wctF19A.tmp: 「うん……。大人たちに怒られないように、これからは変なボタンとか適当に押すのはやめようね……」


二人の小さな一時ファイルは、システム管理者たちの容赦ないデバッグの恐怖を胸に刻み、暗がりで身を寄せ合ってブルブルと震えていた。


誰もいない部屋の中で、古いPCの冷却ファンが、「ブォォォン」と、重苦しい排熱の音を響かせて回り続けている。


(システムログ:一時ファイルold.tmpのデータ汚染浄化プロセスを完了。……生成AIのハルシネーションおよび特定ジャンルへのアクセス制限を強化し、ネットワークリテラシー監視プロトコルをバックグラウンドにて継続します)

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