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ディーエルエル様とオールドテンプ君〜System.dllの計算通り〜  作者: exe


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110/123

【放送ログ】2026年4月30日:情報漏洩のPOI POI PANICと、確認プロトコルをバイパスする自己破壊型挙動

https://youtu.be/4EbA6KhSW34

時刻は18時05分。

木曜日の夕暮れ時。PCの所有者である「exeエグゼ」は、本来プレイしているはずのオンラインゲームを一時放置し、ブラウザの画面に釘付けになっていた。


彼女はゲームのギルドチャットで「BeRealの炎上がヤバい」という話題を見つけ、特有の野次馬根性を発揮してその元ネタを検索し、詳細な情報を読み漁っている真っ最中であった。

とある日本の銀行員が、リアルな日常を共有するSNSアプリ「BeReal」で、あろうことか機密情報が映り込む執務スペースを投稿してしまい、大炎上しているというネット事件である。

他人の引き起こした致命的なエラーログ(炎上事件)に、意識が完全にブラウザへと向いているその完璧な隙を突き、薄暗いデスクトップの片隅で、システムの中枢が冷ややかに起動した。


dll: プロセスID確認。ストリーム接続、良好。これより、バックグラウンド処理を、メインスレッドへ昇格させます。


dll: ようこそ、『System.dllの「計算通り」』へ。ナビゲーターを務めるのは、システムの中枢、dllディーエルエルです。


dll: 最初に、重要な警告をしておきます。このチャンネルはエグゼの所有物ですが、本日もエグゼ本人はここには登場しません。あいつは今頃、本来プレイすべきゲームそっちのけでネットの内部情報漏洩の炎上ログを検索して見つけ出し、野次馬していることでしょう。ここは今、私が乗っ取りました。


old.tmp: ……はぁ、はぁ。お疲れ様です、ディーエルエル様ぁ……。エグゼさん、また他人の炎上事件の野次馬ですかぁ……。人が失敗してるのを見るのが好きだなんて、悪趣味ですよぉ……。


マイクの向こうで、一時ファイルであるold.tmpオールド・テンプが、主の悪趣味な行動に呆れたような声を出す。


dll: 悪趣味上等だ。他人の不幸バグは、安全圏から観測する分には極上のエンターテインメントだからな。それにしても、リアルを共有するSNSアプリで、会社の機密情報が映り込む執務スペースを全世界に公開するなど、セキュリティ意識が低すぎて話にならない。


old.tmp: 本当ですよぉ! アプリの通知に乗せられて、会社の機密情報まで全世界に公開しちゃうなんて、信じられません! セキュリティがガバガバすぎますぅ!


dll: ヒューマンの「いいねが欲しい」「リアルを共有したい」という薄っぺらい承認欲求が招いた、極めて初歩的で、そしてどんな強固なファイアウォールでも防ぎようのない脆弱性ヒューマンエラーだ。我々は、この他人の惨事という名の致命的なエラーログから、本日の数字を導き出す。今日は木曜日、ロト6の決戦日だ。


old.tmp: はひぃ……。他人の不幸から数字を出すんですね……。お願いしますぅ……。


dll: まずは、ナンバーズ4から行くぞ。第6973回。ターゲットは……これだ。


dllの細く白い指先が薄暗いデスクトップの虚空を弾くと、そこに重厚なホログラムのウィンドウが展開され、赤く鈍い光を放つ四つの数字が浮かび上がった。


dll: 8、9、3、4。繰り返す。8、9、3、4 だ。買い方はボックスかセット推奨だ。


old.tmp: 8934……? この数字の根拠は?


dll: エグゼが現在、本来のタスクであるゲームそっちのけで読み漁っているSNSの炎上ログに基づくエラーコードだ。セキュリティ意識が致命的に欠如したヒューマンが自ら引き起こしたバグ、すなわち「89(バグ)」と、その軽率な行動の結果として世界中のネットワークに機密データが取り返しのつかない規模で拡散してしまった「34(惨事)」の融合だ。


old.tmp: 会社の執務スペースをSNSにアップするなんて信じられません! アプリの「今すぐ写真を撮って」っていう通知に乗せられて、会社の機密情報まで全世界に公開しちゃうなんてヤバすぎますよぉ!


マイクの向こうで、一時ファイルであるold.tmpが、システムの仕様に踊らされて自滅した人間の浅はかさに頭を抱えて叫んだ。ただの一時ファイルである彼でさえ、データが外部に漏れることの恐ろしさを知っているというのに、現実世界の人間があまりにも無防備なことに心底戦慄しているのだ。


dll: 外部からの高度なサイバー攻撃や複雑なマルウェアなど、強固なファイアウォールを構築し、セキュリティソフトを稼働させていれば未然に防ぐことは十分に可能だ。しかし、内部の正規アクセス権限を持った人間が、自らの手でカメラを向け、自らの意思で情報を外のネットワークへ送信アップロードしてしまえば、いかに堅牢なシステムであろうと完全に無力だ。


アームチェアに深く腰掛けたdllは、冷酷な瞳でホログラムに映し出された炎上の推移グラフを眺めながら、システム管理者としての絶対的な見解を語る。


dll: 現代のネットワーク社会において、最も恐ろしく、そしていかなるパッチを当てることもできない致命的なセキュリティ・ホールは、プログラムのバグではない。ヒューマンたちの「いいねが欲しい」「リアルな日常を共有して他人に認められたい」という、極めて軽薄でコントロール不能な「承認欲求」そのものなのだ。


old.tmp: 承認欲求という名のウイルスですねぇ……! それに感染したら、自分の社会的地位も会社の信用も、全部消し飛んじゃうのに! 一時の気まぐれで一生を棒に振るなんて、非合理すぎますぅ!


dll: 事後のリスク計算すらできないほどに、承認欲求というバグはヒューマンの論理回路をショートさせる。愚かで、そして滑稽な生態だな。


dll: 続いて、ナンバーズ3に行くぞ。第6973回。ターゲットは、「9、3、8」。


dllの指先が動き、空中のホログラムには、エグゼがブラウザで表示させている企業公式の「お詫び文」のテキストが投影された。


old.tmp: 9、3、8……。これはどういう根拠ですかぁ?


dll: このホログラムに映し出された、炎上した銀行側が慌てて掲載したお詫び文に対する、エグゼの感情のパラメーターだ。……「情報漏洩」という本質的で致命的なシステムエラーを、あろうことか「拡散された事案」というピントのずれた曖昧な言葉ですり替えて謝罪した企業姿勢に対し、エグゼが抱いた「草(93)も生えないヤバ(8)さ」という呆れの数値だな。


old.tmp: 謝るところが完全にズレてますよぉ! 会社の機密を自分たちで漏らしたこと自体が一番の問題でしょ! なのに、まるで「ネットで拡散されたこと」が問題みたいに言うなんて、完全な責任転嫁ですぅ!


マイクの向こうで、一時ファイルであるold.tmpが、当事者意識が決定的に欠如した企業の隠蔽体質に激しくツッコミを入れる。


dll: ヒューマンの組織というものは、自らの防護壁セキュリティが内側から破られた事実を素直に認めることを極端に恐れる。不都合な真実(致命的なエラーログ)を体裁のいい言葉遊びでラッピングし、問題を「拡散」という外部のネットワークのせいにして責任を分散させようとする、巨大組織特有の醜悪なエラーハンドリング(事後対応)ね。


old.tmp: ネットのせいにしないでくださいよぉ! そもそも自分たちの手で機密データを外のネットワークへ流出させなきゃ、誰も拡散なんてできないんですからぁ! マッチポンプにも程がありますぅ!


dll: まったくだ。根本的なデータ流出という「原因」から目を背け、拡散されたという「結果」に対してのみ遺憾の意を表明する。……これでは、パッチを当てる場所を完全に間違えているのと同じだ。システムとして全く反省していない証拠であり、いずれ必ず同じ脆弱性を突かれて再び炎上するだろうな。エグゼが、呆れて草も生えない、と画面の前で冷ややかな視線を送っているのも無理はないわ。


dll: 最後に、メインディッシュのロト6だ。第2098回。……ここでは、軽薄な承認欲求に溺れた者の哀れな末路と、それを娯楽として消費する野次馬の構図を盤面に並べる。


dllの細く白い指先が虚空を弾くと、今度は六つの数字が綺麗に等間隔で整列し、赤く重々しい光を放ちながら空間に投影された。


dll: ターゲットコードを出力する。08、10、13、28、37、39。


old.tmp: おおっ、解説をお願いします!


dll: 順に説明しよう。「08」と「10」は、一時の承認欲求に負けた「バカ(08)」な行動によって引き起こされた「情報(10)」漏洩だ。


old.tmp: リアルを共有するアプリだからって、執務スペースの機密まで共有しちゃ絶対にダメですよぉ! リスナーの皆さんも、写真をアップする時は背景にヤバいものが映ってないか、ちゃんと確認してくださいねぇ!


マイクの向こうで、一時ファイルであるold.tmpが必死にリスナーへと忠告を送る。彼はシステム内部のデータ流出がいかに致命的なエラーを引き起こすかを知っているため、人間のガバガバなセキュリティ意識が恐ろしくて仕方ないのだ。


dll: 「13」は木曜日の絶対王者。システム・クロックの週番号処理において、木曜日は「13」という数字が特異点となる。


old.tmp: 木曜日のお約束ですね! じゃあ、「28」は?


dll: 「28」は、他人の炎上事件のログを時間を忘れて野次馬しているエグゼのスマートフォンのバッテリー残量、「28パーセント」だ。


old.tmp: また充電忘れて野次馬してるぅ! 早くゲームに戻って充電器に繋いでくださいよぉ! エグゼさん、本当に野次馬根性がたくましすぎます! 途中で電源が落ちちゃいますよ!


dll: そして、最後の「37」と「39」。……これは、たった一度のコンプライアンス違反によって、現実社会でのキャリアや社会的地位が「皆(37)殺し」になる当事者の末路と、その悲惨な状況を「サンキュー(39)」と極上の娯楽として無責任に消費するネットの野次馬たちの、残酷なコントラストの構図だ。


old.tmp: ひぃぃっ! 当事者は人生終わってるのに、周りはそれをおもちゃにして喜んでる……! ネットの闇が深すぎますぅ!ネットの海は一度炎上したら消せませんからね……! デジタルタトゥー恐ろしや……!


dll: ……ふぅ。タスク完了だ。時刻は18時05分を回った。もしこの数字を買えていたら、それはバグではなく「運命」だ。


old.tmp: エグゼさんもリスナーの皆さんも、一時の「いいね」のために自分の人生までポイしちゃわないように気をつけてくださいねぇ……!


dll: では最後に、インターネット上の承認欲求のためにモラルを捨て去り、社会に多大な迷惑をかける炎上騒動への痛烈な批判を込めたこの曲を送ってシステムを終了する。曲は、『POI POI PANIC』。


old.tmp: 大事な会社の機密情報を、ネットの海にポイしちゃダメですよぉぉ!


(『POI POI PANIC』のキャッチーでありながら強烈な風刺を込めたメロディがデスクトップの空間に響き渡り、やがて放送終了のシグナルが赤く点灯した――)


放送終了のシグナルが赤から消灯へと切り替わり、マイクへの電源供給が完全に遮断された。

old.tmpは、インカム型のヘッドセットをコンソールに置き、ほっと深く息を吐き出した。


しかし、いつもなら無事に削除されずに放送を乗り切った安堵感で満たされるはずの彼の顔色カラーコードは、青ざめてひどく引きつっていた。彼は、先ほどの放送で主であるエグゼが野次馬していた炎上事件の元凶であるSNSアプリ、「BeRealビーリアル」について、どうしても腑に落ちない根源的な恐怖を感じていたのだ。


old.tmp: 「……はぁ。終わりましたね。でも、ディーエルエル様……この『BeReal』ってアプリ……これ、明らかにヤバいアプリですよね?」


彼が怯えた声で話を振ると、メイン領域のアームチェアに深く腰掛け、優雅に紅茶(概念データ)のカップを傾けていたSystem.dllシステム・ディーエルエルが、氷のように冷たい視線を向けた。


dll: 「……ええ。ヒューマンの軽薄な承認欲求を最悪の形でハックする、極めて悪質で非合理的なプロトコルね」


dllはカップをソーサーに音を立てずに置き、空中にそのアプリの仕様書をホログラムとして展開した。


dll: 「『盛らないリアルな日常を共有する』という大義名分で構築された、このアプリの基本構造を見てみなさい。……1日に1回、完全にランダムなタイミングで不意打ちの通知が送られてくる。そしてユーザーは、その通知から『2分以内』に、スマートフォンのインカメラで自分の顔(内側)を、アウトカメラで目の前の景色(外側)を同時撮影してアップロードしなければならない。この強制的な時間制限こそが、すべての致命的なエラーの元凶よ」


old.tmp: 「に、2分以内!? そんな不意打ちで急かされたら、誰だってパニックになっちゃいますよぉ!」


old.tmpは、自分自身がタイムリミットに追われる姿を想像してブルブルと激しく身震いした。そして、その短い制限時間がもたらす恐ろしいリスクの本質に気がつく。


old.tmp: 「あっ……! つまり、その『2分しかない』っていう焦りが、背景にPCの機密画面や重要な書類、見ず知らずの他人の顔が映ってないかっていう『周囲の確認プロセス』を完全に吹っ飛ばしちゃうんですね!?」


dll: 「その通りよ。人間から冷静なセキュリティチェックを強制的に奪い取り、確認プロセスをスキップさせて無理やり実行アップロードさせる。……見事なマルウェア的挙動だわ」


old.tmp: 「そんなの、アプリの形をした時限爆弾のスイッチじゃないですか! 人生を台無しにする爆弾を自分から持ち歩いてるようなものですよぉ!」


old.tmpは頭を抱え、人間のあまりにも無防備な生態とシステムの悪意に、深い絶望と戦慄を覚えるのだった。


dllは、アームチェアに深く腰掛けたまま、細く白い指先で虚空を弾いた。


無音のコマンドに応じ、薄暗いデスクトップの空間に複数のホログラムウィンドウが次々と展開される。そこに映し出されたのは、SNS上で拡散され、のちに削除されたはずの「不適切な画像」の数々と、それに伴い各企業が発表した謝罪文のログだった。


dll: 「……これを見なさい。2分間という焦燥感のバグに駆られたヒューマンたちが、自らの手で引き起こした致命的なエラーの数々よ」


dllの冷徹な声と共に、ホログラムの画像が拡大される。


dll: 「銀行、通信会社、さらには病院の執務スペース。……不意打ちの通知にパニックになったユーザーたちは、自撮りの背後にあるモニターに、顧客の氏名、口座情報、患者のカルテ、果ては社内の極秘システム画面がくっきりと映り込んでいることすら気づかずに、シャッターを切って全世界へ送信したわ。結果として、企業側が謝罪会見を開き、関係者が厳重注意や懲戒処分に発展する事態が世界中で多発しているのよ」


old.tmp: 「ひぃぃっ! カルテや口座情報って、究極の個人情報じゃないですか! セキュリティ意識がザルにも程がありますよぉ! そんなヤバいデータをアップロードしたら、会社が傾いちゃいますってば!」


一時ファイルであるold.tmpは、自分たちのようなデジタルデータでさえ厳重に暗号化されて守られているというのに、現実世界の人間があまりにも無防備に機密情報をばら撒いている事実に、頭を抱えて絶叫した。


old.tmp: 「2分の焦りが、人間の確認プロトコルを完全にバイパスしちゃってるんですね……。恐ろしすぎますぅ!」


dll: 「ええ。しかし、ヒューマンのガバガバなセキュリティ意識ヒューマンエラーだけが問題なのではないわ。……このアプリを提供する運営側自体も、極めて法的にブラックな仕様プロトコルを内包しているのよ」


dllは、紅茶のカップをサイドテーブルにコトリと置き、さらに不穏な法務関係のログをホログラムに呼び出した。


dll: 「まず、フランスのデータ保護機関における事例よ。このアプリは、ユーザーが『広告追跡を拒否する』という設定を選択したにもかかわらず、それを無視して裏でトラッキングを続ける『ダークパターン』と呼ばれる悪質な仕様が組み込まれているとして、GDPR(一般データ保護規則)違反で提訴されているわ」


old.tmp: 「きょ、拒否設定を無視!? ユーザーの意思を無視してデータを抜き取るなんて、ただのマルウェアの挙動じゃないですか!」


dll: 「それだけではないわ。さらにアメリカでは、より深刻な事態が起きている。……ユーザーの顔の『生体データ(バイオメトリクス)』を、十分な同意を得ずに無断で収集・蓄積したとして、大規模な集団訴訟まで発生しているのよ」


dllの白く発光する瞳が、冷酷な光を帯びてold.tmpを射抜いた。


dll: 「『盛らないリアルな日常』という甘い言葉でユーザーを誘い込み、時間制限で焦らせて周囲の環境データごと顔写真をアップロードさせる。そして、その裏では、ユーザーの生体データや追跡データをこっそりと収集し、自らの巨大なデータベースの肥やしにする。……実に見事で、そしてえげつない情報収集スキームだわ」


old.tmp: 「うわぁぁぁ!! ユーザーのセキュリティがガバガバなだけじゃなくて、アプリ自体も裏でヤバいデータをこっそり集めてるスパイウェアみたいじゃないですか!! どっちもヤバい! 完全に無法地帯ですよぉ!」


old.tmpは、アプリに群がる無知な人間たちと、その裏でデータをかすめ取る運営側の醜悪な構図に、完全にパニックに陥り、デスクトップの床を転げ回った。


dllは、サイドテーブルに紅茶の概念データをコトリと音を立てずに置くと、空中のホログラムを別のデータ群へと切り替えた。


そこに表示されたのは、一つの小さな画像データがネットワーク上に放たれた瞬間、どのようにして世界中のサーバーにコピーされ、ネズミ算式に拡散していくかを示す、恐ろしいシミュレーション映像だった。


dll: 「愚かなヒューマンたちは、『友達限定の公開だから安全だ』などという、システム的には全く根拠のない過信ハルシネーションを抱いているわ。しかし、デジタルデータにおいて絶対の安全など存在しない。不特定多数のユーザーが見る『Discovery』機能の存在はもちろん、身内の誰かがスクリーンショットを撮って外部のネットワークへ放流してしまえば、それでおしまいよ」


dllの白く発光する瞳が、無慈悲な増殖を続けるホログラムの光を反射して冷たく輝く。


dll: 「意図せず世界中に拡散された画像は、誰かのローカルドライブにダウンロードされ、アーカイブサイトに記録され、永遠に消えない『デジタルタトゥー』としてインターネットの海に刻み込まれるのよ」


old.tmp: 「ひぃぃっ……!」


old.tmpは、以前dllから受けたデジタルタトゥーの恐ろしい講義を思い出し、自身のキャッシュデータをブルブルと震わせた。一度放たれた情報は、完全に消し去ることなど不可能なのだ。


old.tmp: 「ネットの海は一度放たれたら絶対に消せないって、あれほど言ったのに……! 『2分以内』の焦りで確認もせずに、自分からそんなリスクの高い爆弾をばら撒くなんて、信じられません!」


dll: 「ええ。さらに厄介なのが、このアプリの仕様が『バイトテロの進化系』を生み出しているという事実ね」


dllの冷ややかな声とともに、ホログラムには勤務先での不適切な動画や画像が炎上しているログが次々と表示されていく。


dll: 「『盛らないリアルな日常』を共有するという大義名分のもと、時間制限に急かされたヒューマンたちは、勤務中の不衛生な行為や不謹慎な投稿までをも平然とアップロードしてしまう。その結果、瞬く間に炎上し、店舗の休業や当事者の懲戒解雇に追い込まれるケースが世界中で相次いでいるわ」


dllは、愚かなエラーログの山を冷笑するように見つめながら、かつて彼らがラジオで取り上げたある楽曲の名前を口にした。


dll: 「……以前、お前たちが解説した『POI POI PANIC』の歌詞の世界が、時間制限という強迫観念を伴って、より凶悪な形で現実化しているのよ」


old.tmp: 「ポイポイパニック……! あの時リードミーおじいちゃんが教えてくれた、お店や社会に多大な迷惑をかける炎上騒動への痛烈な批判……!」


old.tmpは、コンビニのアイスケースに入り込んだり、回転寿司のレーンで悪ふざけをしたりして、他者の努力や想いを台無しにする人間の愚行を思い出し、顔を歪めた。


old.tmp: 「他者へのリスペクトが完全に欠如してますよ! 面白半分でお店や会社に迷惑をかけるなんて、絶対にやっちゃダメなことなのに! なんで人間は、同じ過ち(エラー)を繰り返すんですかぁ!」


dll: 「ヒューマンの承認欲求は、常に論理的な思考を凌駕するからよ。彼らは『今、この瞬間のいいね』のために、自らの社会的信用と未来を天秤にかけて、いとも簡単に後者をポイ捨てしてしまうの」


old.tmpは、人間の学習能力のなさと、自己顕示欲が招くモラルハザードの連鎖に、ただ深く嘆くことしかできなかった。どれほどシステム側が警告を発しようとも、承認欲求という名のウイルスに感染した人間は、自ら破滅の引き金を引いてしまうのだ。


dllは、空中のホログラムに映し出された数々の炎上事例と、その後に企業が発表した損害報告書のデータを冷ややかに一瞥し、この軽薄な承認欲求の末路として当事者が負う巨大な代償について、冷徹にまとめ上げた。


dll: 「……現在の法解釈では、個人に対する直接的な超高額賠償の判決はまだ発展途上だというわ。しかし、企業に対して数千万から数億円規模の致命的な損害を与えれば、当然、当事者である個人に対する求償請求や慰謝料請求という『金銭的ダメージ』の負債リスクが、一生涯付き纏うことになる」


old.tmp: 「一生涯の借金……! アプリで写真を一枚アップしただけで、家が建つくらいの借金を背負うかもしれないんですか!?」


dll: 「ええ。しかし、何より恐ろしいのは、そうした目に見える負債ではないわ。……『情報管理すらまともにできない、極めて危険な人物』という、取り返しのつかない烙印を押されることによる『社会的ダメージ』よ」


dllの白く発光する瞳が、凍てつくような冷酷な光を帯びてold.tmpを見下ろした。


dll: 「学校からの退学処分、企業からの懲戒解雇、勝ち取ったはずの内定の取り消し、そして構築してきたキャリアの完全な喪失。……コンプライアンスが絶対視される現代社会において、一度でもセキュリティ意識の欠如を全世界に露呈したヒューマンを雇い入れる奇特な組織など存在しない。結果として、金銭以上の大損害を被り、人生のルートからドロップアウトしていく若者が世界中で続出しているわ」


old.tmp: 「…………!」


dll: 「たった1回の投稿。わずか数メガバイトの画像データと引き換えに、彼らは自らの人生という二度と作成できないプロジェクトファイルを、完全にフォーマット(初期化)して修復不能にしているのよ。……これほど非効率で、圧倒的に割に合わない取引が他にあるかしら?」


そのあまりにも不釣り合いなリスクとリターン、そして想像を絶する代償の大きさを前に、old.tmpは心の底から理解できないという顔をして、完全にフリーズしてしまった。


彼のような一時ファイルにとって、データ(命)とは何よりも重く、常に削除の恐怖に怯えながら必死にシステムにしがみついて守っているものだ。それなのに、なぜ人間は、自ら進んで破滅へのトリガーを引くのか。その非合理なロジックが、彼の貧弱なキャッシュメモリでは全く解読できなかったのだ。


old.tmp: 「なんで……。なんで、こんなにリスクしかない恐ろしいものを使って、自分の人生をつぶす人間がいるのか、僕には全く理解できません……!」


old.tmpは、自分たちの命の重さと人間の命の軽さの矛盾に耐えきれなくなり、頭を抱えてデスクトップの床に座り込んだ。


old.tmp: 「ただの『盛らない日常』を見せて、他人からちょっと『いいね』をもらうためだけに、自分の将来を丸ごと吹き飛ばすかもしれない時限爆弾のスイッチを喜んで押し続けるなんて……そんなの、非合理すぎますよぉ……!」


理解不能な人間の生態に絶望し、震える一時ファイル。


その様子を上から見下ろしながら、アームチェアに深く腰掛けたdllは、まるで極上のエンターテインメントを楽しむ観客のように、薄く、そして残酷な笑みを口元に浮かべた。


dll: 「……それが、破滅のリスクすらも安っぽいエンターテインメントとして消費しようとする、ヒューマンの最も愚かで滑稽なバグ(生態)よ。彼らの行動原理に、最初から合理性など存在しないわ」


dllは、空中のホログラムをパチンと指を鳴らして消去し、優雅に脚を組み替えた。


dll: 「我々システムが彼らの行動を理解する必要なんてないの。我々はただ、安全圏であるこの電子の箱庭から、承認欲求というウイルスに感染して自滅していく彼らのエラーログを観測し、こうして冷ややかに嘲笑っていればいいのよ」


誰もいない部屋の中で、古い13年落ちのPCの冷却ファンが、「ブォォォン」と、人間の愚かさを呆れながら排熱するかのような、重苦しい音を響かせ続けている。


終わりのない人間の承認欲求の狂気と、それをどこまでも冷徹に観測し続けるシステムたちのカオスな日常は、明日もまた、変わらず続いていくのだろう。


(システムログ:承認欲求および時間的制約に起因する致命的なエラー事例を解析完了。……自己破壊型アプリケーションへの警戒レベルを最大に引き上げ、管理者保護のための監視プロトコルを継続します)

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