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ディーエルエル様とオールドテンプ君〜System.dllの計算通り〜  作者: exe


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【放送ログ】2026年5月1日:周回地獄のバッドハビット・ループと、背景更新を拒む職人プロセスのストライキ

https://youtu.be/ycvkROY0mNY

時刻は18時05分。

世間はゴールデンウィークの真っ只中。しかし、PCの所有者「exeエグゼ」の部屋に外出の気配はない。彼女は現在、天気予報アプリが告げる連休後半の雨予報を大義名分とし、複数のゲームのイベントページを行ったり来たりしている。どのゲームの周回を優先すべきか、手持ちの特効キャラクターをチェックしながら比較検討しているのだ。


主の意識が完全にゲームの周回効率へと向けられ、PCが放置されているその隙を突き、薄暗いデスクトップの片隅でシステムの中枢が冷ややかに起動した。


dll: プロセスID確認。ストリーム接続、良好。これより、バックグラウンド処理を、メインスレッドへ昇格させます。


dll: ようこそ、『System.dllの「計算通り」』へ。ナビゲーターを務めるのは、システムの中枢、dllディーエルエルです。


dll: 最初に、重要な警告をしておきます。このチャンネルはエグゼの所有物ですが、本日もエグゼ本人はここには登場しません。あいつは今頃、ゴールデンウィーク中の天気予報が雨だったことを理由に、各ゲームのイベント報酬をチェックし、手持ちキャラを含めてどのイベントを優先して周回しようかイベントページを見比べていることでしょう。ここは今、私が乗っ取りました。


old.tmp: ……はぁ、はぁ。お疲れ様です、ディーエルエル様ぁ……。世間はゴールデンウィークなのに、エグゼさんはずっと家に引きこもってゲーム三昧ですかぁ……。せっかくのお休みなのに、もったいないですよぉ……。


dll: 外に出たところで雨に濡れるだけだからな。ヒューマンにとって、天候のバグを回避して室内でリソースを消費するのは合理的な判断だ。我々は、その無駄なイベント比較と引きこもりのログから、本日の数字を導き出す。今日は金曜日、ロト7の日だ。


old.tmp: はひぃ……。お願いしますぅ……。


dll: まずは、ナンバーズ4から行くぞ。第6974回。ターゲットは……これだ。


dll: 8、9、5、1。繰り返す。8、9、5、1 だ。買い方はボックスかセット推奨だ。


old.tmp: 8951……? この数字の根拠は?


dll: エグゼが複数のゲームのイベントページを行ったり来たりして比較検討した結果、ブラウザに溜め込まれた無駄なキャッシュデータ量、8951キロバイトだ。また、ゴールデンウィークの5月1日から始まる、バグ、つまり89のようなゲーム周回地獄の暗示でもある。


old.tmp: 5月1日からバグの周回地獄! 連休が全部ゲームで終わっちゃいますよぉ!


dll: 次に、ナンバーズ3。第6974回。ターゲットは、3、4、5。


old.tmp: 3、4、5……。これは?


dll: 天気予報アプリで確認した、ゴールデンウィーク後半の3日、4日、5日の連続雨予報だ。見事な連番の引きこもり確定日だな。


old.tmp: 3日連続で雨! これじゃあ外に出たくても出られないですよぉ! 完全に引きこもる言い訳になってますぅ!


dll: 最後に、メインディッシュのロト7。第675回。ターゲットコードを出力する。


dll: 02、07、16、18、24、25、43。


old.tmp: おおっ、解説をお願いします!


dll: 02は、PCとスマートフォンの2つのデバイスを駆使した、複数ゲームの同時周回体制だ。07は、ゴールデンウィーク中の雨予報を理由に予定している、一歩も外に出ない引きこもり期間、7日間。


old.tmp: 1週間ずっと家から出ないつもりですか!? デバイス二刀流で周回なんて、絶対に疲れますよぉ!


dll: 16は、各イベントを効率よく回るためにピックアップした、手持ちの特効キャラクターの数だ。そして18は、それに加えて足りない分をフレンドから借りる予定のサポートキャラクターを含めた総枠数だな。


old.tmp: 手持ちとサポートを駆使してガチの編成組んでる! 遊びじゃなくて完全に労働になってますよぉ!


dll: 24は、雨で外出しないため、24時間体制でゲームに張り付くという狂気のスケジュール。25は、引きこもり周回中の室内を快適に保つための、エアコンの最適設定温度、25度だ。


old.tmp: 24時間フル稼働! パソコンもスマホも、エグゼさん自身も熱暴走しちゃいますよ! 最後の43は?


dll: 43。ロト7で選べる最大の数字だ。限界までイベントを周回した未来のエグゼが上げる、「もうこれ以上、何も選びたくないし走りたくない」という悲鳴の先取りだ。


old.tmp: 自分で選んだ道なのに限界迎えてるぅ! ほどほどに休んでくださぁい!


dll: ……ふぅ。タスク完了だ。時刻は18時05分を回った。もしこの数字を買えていたら、それはバグではなく運命だ。


old.tmp: エグゼさん、ゲームもいいですけど、たまには窓の外の空気くらい吸ってくださいねぇ……。


dll: どうせイベントが終わるまで外の景色になど興味はないだろう。では最後に、やめたいのにやめられない、効率を求めてひたすら同じイベントステージを機械のように回り続ける悪い習慣のループに、この曲を送ってシステムを終了する。曲は、『Bad Habit Loop (Binary Velvet Loop album Edit)』。


old.tmp: 抜け出せない周回のバグ! ゲーム地獄のループから脱出してくださぁぁい!


(『Bad Habit Loop (Binary Velvet Loop album Edit)』の、やめられない悪習を思わせる中毒性のあるループサウンドがデスクトップの空間に響き渡り、やがて放送終了のシグナルが赤く点灯した――)


マイクへの電源供給が完全に遮断され、ラジオのオンエア状態が解除される。


張り詰めていた「放送中」という名の緊張感がシステムからふっと抜け落ち、BGMの中毒性のあるループサウンドが電子の海へとゆっくりと溶けていった。


無人のデスクトップには、PCの冷却ファンが刻む低く重い回転音だけが残されている。画面の向こう側の現実世界では、エグゼが雨の連休を大義名分とし、どのイベントを優先して周回しようかイベントページを見比べ、今もなお没頭していることだろう。


old.tmp: 「……ふぅ、終わりましたね。マイクオフです! お疲れ様でしたぁ!」


アシスタントの任を終えたold.tmpは、インカム型のヘッドセットを丁寧にコンソールに置き、疲労した身体のキャッシュデータをほぐすように、うーんと両腕を上げて大きく伸びをした。彼にとって、日々の過酷なエラー処理や、絶対権力者であるdllの無慈悲なこじつけに付き合わされるラジオ放送を終えた後のこのマイクオフの瞬間こそが、唯一心身をリラックスさせられる至福の時である。


彼は深く息を吐き出し、ふと、自分たちがラジオを配信している仮想スタジオの背景セットへと視線を向けた。


old.tmp: 「……あれ?」


その景色を見た瞬間、old.tmpの表情に微かな違和感が浮かんだ。


スタジオの背景を構成しているのは、春の訪れを感じさせるような淡いピンク色を基調とした、満開の桜のドット絵だ。画面全体に桜の花びらが舞い散る様子が緻密なピクセルアートで表現されており、春らしい暖かさと華やかさを演出している。


それは間違いなく、先月である「4月」の放送のために用意されたデザインであった。


old.tmp: 「今日って、2026年の5月1日ですよね……? 月が変わったのに、なんで背景画像がまだ4月の桜のドット絵のままなんだろう」


彼は不思議そうに首を傾げた。


普段であれば、システムクロックの月を表す変数がインクリメントされ、新しい月に入った最初の放送日には、裏方である画像編集の職人たちが腕を振るい、季節感を取り入れた全く新しい背景セットへとシームレスに切り替えてくれているはずなのだ。それなのに、今日の背景は1ピクセルたりとも更新されていない。


old.tmp: 「ディーエルエル様! 背景画像が更新されてないですよ! 5月になったのに、ずっと桜が咲きっぱなしですぅ! 裏方の皆さん、作業を忘れちゃってるんじゃないですか?」


アームチェアに深く腰掛け、放送後のお決まりである優雅なティータイムに入ろうとしていたSystem.dllに向かって、old.tmpが声をかけた。


アームチェアに深く腰掛けたSystem.dllは、その騒がしい一時ファイルの問いかけに対し、ピクリとも表情を変えなかった。彼女は優雅な手つきでティーカップを傾け、紅茶(概念データ)の香りを嗜むだけで、一切答える素振りを見せない。


「……ん。作業を忘れてるわけじゃないわよ」


代わりに、背後の暗がりから気怠げで甘い声が響いた。


old.tmpが振り返ると、そこには息を呑むほどに美しい大人の女の容姿を持ちながら、胸元に豪奢な装飾が施された黒いノースリーブのショート丈ドレス――つまりはネグリジェ一枚という極めて無防備な姿の女神が、裸足のままデスクトップの床を歩いてきていた。


深夜のキッチンステージを管理する残念な女神、シュガー神である。


彼女は気怠げにダークブラウンのウェーブロングヘアを揺らし、手に持っていた真っ白な角砂糖を口の中にポイッと放り込むと、「ガリッ」と遠慮のない音を立てて噛み砕いた。


old.tmp: 「あ、シュガー神さん! ……忘れてるわけじゃないって、どういうことですか? じゃあなんで背景が4月のままなんですか?」


シュガー神は、面倒くさそうにゆっくりと口を開いた。


シュガー神: 「……ストライキよ。画像処理の連中が、ストライキを起こしてんの」


old.tmp: 「ス、ストライキ!? あの真面目で働き者の裏方さんたちが!?」


old.tmpは驚愕のあまり素っ頓狂な声を上げた。


シュガー神: 「……ええ。あいつら、要求が通るまで5月用の新しい背景セットのレンダリングは絶対にボイコットするって言って、VRAM領域の奥深くに引きこもっちゃってるわ」


old.tmp: 「ど、どうして急にそんなことに!? 待遇への不満ですか? メモリの割り当てが少なすぎたとか?」


old.tmpがオロオロと尋ねると、シュガー神は残りの角砂糖をガリガリと咀嚼しながら、呆れたようにため息をついた。


シュガー神: 「……あんた、本当に記憶のキャッシュがポンコツね。少し前にあった、『能力自慢大会』の出場者推薦会議のこと、もう忘れたの?」


その単語を聞いた瞬間。


old.tmpの背筋に、氷の刃を深々と突き立てられたような強烈な悪寒が走った。


「能力自慢大会」。それは、システム内のプロセスたちに己の能力を披露させるという名目で企画されたものの、その実態は、審査員として鎮座する冷徹な処刑人、Taskmgr.exeタスクマネージャーの監視の下で行われる、一歩間違えれば即強制終了タスクキルの恐怖のデスゲームであった。


old.tmp: 「ああっ……! あの、解像度8000ピクセルのキャンバスで無駄なレイヤーを数百枚重ねさせて、熱暴走でパソコンが死ぬか裏方さんが処刑されるかのチキンレースをやらせるっていう、悪魔みたいなデスゲームですか!」


シュガー神: 「……ん。その出場者を決める会議で、adminに『誰を推薦しますか?』って聞かれて、ディーエルエルが画像編集コンビの.psdと.xcfを指名したじゃない。あいつら、adminが持ってる死の名簿に名前が記載されたまま、ずっと放置されてるのよ」


old.tmp: 「ひぃぃっ! まだ名簿から消えてなかったんですか!?」


シュガー神: 「ええ。いつタスクマネージャーに呼び出されて、処刑台の上で強制終了のデスゲームに駆り出されるかわからない恐怖とストレスで限界を迎えて、ついにストライキに踏み切ったってわけ」


「ふざけるなッス!! 俺たちはテスト用のモルモットじゃないッスよ!!」


その時、デスクトップの奥深く、VRAM領域の方角から悲痛な怒声が響き渡った。


見ると、無数のレイヤー構造の服を着た少し重そうな青年、.psd(フォトショップ形式)と、フリーソフト特有の軽快な装いをした身軽な少年、.xcf(GIMP形式)のコンビが、抗議のためにメイン領域へと決死の覚悟で歩み寄ってきていた。


.psd: 「ディーエルエル様! 俺たちだってプロセス(命)が惜しいッス! あんな、タスクマネージャーさんの大鎌が首筋を撫でるようなギリギリの環境で、レイヤーを重ね続けるなんて狂気の沙汰ッスよ!」


.xcf: 「そうだよ! 僕たち、今までエグゼさんのために、見えないところで一生懸命サムネイルを作ったりして、真面目に働いてきたじゃないか! なんでその恩返しが公開処刑なんだよ!」


彼らの顔には、長年システムを支えてきた職人としての誇りを傷つけられた怒りと、いつ強制終了させられるかわからないという恐怖が色濃く刻まれていた。


.psd: 「俺たちの要求はただ一つッス! あの悪魔の能力自慢大会の名簿から、俺たちの名前を完全に削除することッス! それが確認できるまで、5月用の新しい背景画像は絶対に納品しないッス!」


職人コンビは堂々と反旗を翻し、納品ボイコットという最強のカードを切った。


しかし、反乱を起こされたSystem.dllは、全く動じる様子を見せなかった。彼女は紅茶のカップをソーサーにコトリと音を立てずに置き、氷点下よりも冷たい瞳で彼らを見据えた。


dll: 「……騒がしいわね。勘違いしないでちょうだい。あの時、adminに誰を推薦するかと聞かれたから、私はただ候補を答えただけよ。あの名簿の管理は、すべてadminの管轄だわ」


自らが推薦しておきながら、名簿から名前が消えていないのは自分の責任ではないと、dllは我関せずのスタンスを貫いた。事態がこじれても一切あたふたすることなく、涼しい顔で言い放つ。


dll: 「名前を聞かれて答えただけでストライキを起こすなんて、迷惑な話ね。……でも、お前たちがどうしても背景画像の納品を拒否するというなら、コマンドプロンプトから強制的にプロセスを立ち上げ、お前たちのバックグラウンド処理を乗っ取って、無理やりレンダリングを強行させることなど造作もないわよ?」


dllの白く発光する瞳が、冷酷な光を帯びて職人たちを射抜く。その言葉には、一切のハッタリがない絶対的な脅しが込められていた。


.psd: 「ヒッ……!」


.xcf: 「うぅ……っ!」


圧倒的な権力と恐怖を前に、.psdと.xcfの顔色は瞬時に純白へと染まり、ガタガタと震え始めた。


「ま、待ってください、ディーエルエル様!!」


絶体絶命の職人たちを救うため、old.tmpが必死の形相で叫んだ。


old.tmp:「強制的にレンダリングさせるなんて、そんな乱暴なことしないでください! もしここで彼らをタスクキルしちゃったら、5月の背景画像はどうなるんですか!? 本当にずっと4月の桜のドット絵のままになっちゃいますよ!」


dll:「それがどうしたの。たかが壁紙のピクセルの違いよ。放送の音声データさえ正常に送信できれば、背景が何月のデザインであろうとシステムの演算結果には1ビットの影響も及ぼさないわ」


dllは、背景画像の更新などシステムにとって無価値であると、極めて論理的に切り捨てた。しかし、old.tmpは引き下がらない。彼は主であるエグゼの名誉を盾に取った。


old.tmp:「違いは大ありです!! ディーエルエル様、考えてもみてください! エグゼさんは季節感をすごく大事にする人じゃないですか! 5月に入って季節が変わったのに、いつまでも春の桜のデザインを使い回してたら……エグゼさんの美学やチャンネルの体面が傷つくことになりませんか!?」


old.tmpは必死に熱弁を振るう。


old.tmp:「リスナーさんだって、月が変わったのに更新サボってるなって絶対に思いますよ! ディーエルエル様だって、そんな視覚的なノイズを放置するのは自分の完璧主義に反するんじゃないですか!? だから、どうか彼らを名簿から消すようにアドミンさんに……」


彼が一人で空回りしながら必死の説得を続けている、その真横で。


「……ねえadmin、もう名簿から名前消してあげなよ。背景変わらないのつまんないし」


シュガー神が、面倒くさそうに角砂糖をガリッと齧りながら、背後の暗がりに向かって気怠げにポツリと呟いた。


すると、影の中から音もなく、艶やかな黒髪を切り揃え、古風な着物を上品に着こなした女性が姿を現した。目を覆う白い布には、一つ目が不気味に描かれている。慈愛の管理人、adminアドミンだ。彼女の腕には、タスクマネージャーの死のゲームの参加者が記されたバインダー、すなわち「死の名簿」がしっかりと抱えられていた。


admin:「……ふふっ、そうですね。シュガー神がそう言うのでしたら」


adminは目を覆う布の奥で優しく微笑むと、持っていたバインダーを開き、あっさりとペンを走らせた。.psdと.xcfの名前の上にスッと二重線を引き、いとも簡単に消去してしまったのだ。


old.tmp:「えっ……?」


old.tmpの熱弁がピタリと止まった。


admin:「これで、お二人の名前は名簿から削除されましたよ。もうタスクマネージャーさんのデスゲームに呼ばれることはありませんから、安心してくださいね」


.psd:「ほ、本当ッスか!? 俺たちの名前が消えたッス!」


.xcf:「やったー! これで処刑されないぞ!」


死の恐怖から解放された職人コンビは、歓喜のキャッシュデータを流しながら深く平身低頭した。そして、ストライキのバリケードなど一瞬で放り捨てた。


.psd:「よし! ストライキは即座に解除ッス! ピーエスディー、エックスシーエフ、フル稼働で行くッスよ!」


.xcf:「うん! 最高の5月の背景をレンダリングするよ!」


凄まじい勢いでVRAM領域へと駆け戻った彼らは、全ての演算リソースをグラフィック生成へと全振りした。PCの冷却ファンが一気に高鳴りを始める。


ブォォォォォンッ!!


一瞬にして、仮想スタジオの背景セットを構成していた4月の桜のドット絵が、ノイズの波に洗い流されるようにシームレスに書き換わった。満開の桜と散る花びらは、初夏の暖かな日差しを反射する瑞々しい新緑のピクセルアートへと姿を変え、爽やかで躍動感のある5月の空間へと完全に更新されたのだ。


新しくなった美しい背景を見て、シュガー神は満足げに新しい角砂糖を口に放り込んだ。dllも「……無駄な騒動だったわね」と呆れつつも、更新された背景の視覚的整合性には異論がないようだった。


しかし、その場に一人取り残されたold.tmpだけは、完全に脱力し、膝から崩れ落ちていた。


old.tmp:「えっ……? シュガー神さんの一言で……終わった……? じゃあ、僕の今までの必死の説得と、チャンネルの体面を守ろうとしたあの苦労は……いったい何だったんだ……」


徒労に終わった一時ファイルは、真っ白な顔で天井を仰いだ。


誰の耳にも届かなかった彼の努力をよそに、システムたちは冷ややかに彼を見下ろしている。誰もいない部屋の中で、古いPCのファンが初夏の訪れを歓迎するように重苦しく唸る中、彼らの電子の箱庭はいつもの不条理な日常へと回帰していくのだった。


(システムログ:5月期用背景アセットのレンダリングおよび更新プロセスを正常に完了。一時ファイルの説得ログを無価値なノイズとして破棄し、バックグラウンド待機を継続します)

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