Ⅱ-41:確信犯
サナトスの方に進んでいくと、いつしか別の第三旅団の仲間の下にたどり着いた。話を聞いて奥を見れば、彼女は一人の男と相対している。
彼女はボロボロになりながらも、私を見るなりこう叫んだ。
「手出しは無用。サーシャ、貴女はラルアの援軍に回って」
「ほう、援軍が到着しても味方に回すか。随分余裕のようだな」
その男は攻撃を続けながら言う。サナトスは、彼の攻撃を竜の頭を模したもののついている杖で受け止めながらラルアの場所を教えてくれた。
「確かに戦術的にはサーシャと一緒に貴方を倒し、そして二人でラルアの援軍に行くのが正しいでしょうね。でも、これは将軍補同士の戦い。援軍を呼ぶとしたら、それは私が負けを認めた時よ!」
「天晴、敵ながらにしてその心意気は称賛に値するであろう! だが、このままでは貴様らの将軍補は襤褸雑巾のようになるだけだぞ、≪求核攻撃≫!」
「私にもね、負けられない戦いがあるのよ、{思念置換}! エレン大佐! 今到着した連隊は、私とトンイルとの戦場に他のスコトリア兵を近づけないように。くれぐれも、彼の口車に乗せられて攻撃を行うことのないように」
「……了解!」
サナトスは彼――トンイルの攻撃を防ぎながら、私や連隊長――エレンに指示を飛ばす。
なるほど、そういうことか。トンイルはわざと自分を攻撃するように仕向けんと挑発をしている。そして、サナトスは気づいたのだろう。彼は一体多で強くなる、そう言った性質をもっているのだと。
サナトスの言う通り、私はラルアの援軍に向かった方がよさそうだ。でも、流石にあのラルアが不利になるような事はなさそうだし、そんな奴と戦ったとして勝てる気はしないのだが……。
そんな事を考えながら向かったのがいけなかったのだろうか? 硬山の向こうではひび割れたガラスの大地の上で、あのラルアがボロボロになりながら一つの人影と戦いを繰り広げていた。
その人影は、今にもレイピアをラルアに振り落とさんとしている。私は兜割を握り締め、水の魔術で生み出した強い風に乗ってその間に滑り込む。
刹那、上から強い衝撃と共に、金属同士のぶつかる甲高い音が響く。
「サーシャ! 来てくれたの?」
「ボロボロじゃないか、少し休んでろ」
ラルアの驚いた声が聞こえる。ラルアの体は角鱗が傷だらけになったのだろうか、明らかに白っぽくなっていた。
改めて人影を見る。先ほどのトンイルもそうだが、ターレンシスにしては小柄で髪の色も黒く、どちらかと言えばアトラスに見えなくもない。
そして、一番気になるのはその恰好。左利きなのだろうか? 左手にレイピアを、右手には一フト程の短い杖を持っていた。
「ははっ、今さら魔物が一匹増えたところで変わらないねぇ」
彼はそう言って、剣を持ち上げて一歩引きながら口元に笑みを浮かべる。
「……何が面白い」
「面白いに決まってるじゃないか。最近じゃスコトリアにもそんなに強いやつがいなくってね、聖戦だっていうからアナトルで魔物狩りでも楽しめるかと思えば、順調すぎて退屈な作業。そんな中、急に災害に遭ってその直後に現れたひっさびさに本気になれる魔物にそこに現れた新しい魔物、それもさっきのの反応を見る限りじゃ、そこそこ強いやつ。やっぱり、ゲームはこうでなくっちゃね」
「狩りを楽しむ、それにゲームだって? そばえたこと言いけつかって、このド畜生が!」
私は兜割を振り上げ、彼に向かって大きく飛び上がっていた。
ここまでペラペラしゃべっている彼は、カマをかければ容易にいろいろ喋ってくれそうだ。
「魔物に、畜生だなんて言われたく無いねえ!」
彼は光る円盤のような物を出し、私の攻撃を防ぎながらそう激昂する。右手の杖が光っているし、そういう魔法なのだろう。
≪並行思考≫を使って戦闘に集中しながら質問を続ける。
「じゃあ聞こう、なぜ私達を攻撃する」
「なぜって? そこに魔物がいるから」
当たり前じゃないかとでも言いたげに、悪びれたそぶりを見せずにまっすぐ私を見つめ、刺突攻撃を放ちながら発されたその言葉で、彼は確信犯でやっているのだとなんとなく察することができた。
話には何度も聞いていた神聖スコトリア皇国の国教、その過激な人間至上主義。別に私は宗教そのものを否定するつもりはない。ただし、暴力を正当化するものでなければ。
自分たちが幸福になるために他人を不幸にする宗教なんてどこにも存在意義はない。そんな宗教の狂信者は、放っておくべきではないのは火を見るより明らかだ。
スッと右に寄り、彼の攻撃をかわしながら叫ぶ。
「話には聞いていたけんども、やはりスコトリアの宗教は過激なんだな!」
「宗教、ねえ。僕はオラクルの信者じゃないけど、確かにあの国と宗教は僕にとって都合がよかったね」
だけれども……帰ってきた彼の答えは、私の想像の斜め上を行っていた。この口ぶりでは、彼は国や宗教の外部の人間のように見受けられる。
スコトリアの下の確信犯で無いというのなら、別の信念の下の確信犯か、或いは……ただの、狂人だ。




