Ⅱ-40:洪水の後で
風の影響のない地下に潜り、地上を監視する。その後もベーニ各地で落雷・降雹やマイクロバーストが続いていた。
幸いなことに、雹は火災旋風に吸い込まれてその熱を奪い、またマイクロバーストも火災旋風の熱を奪うとともに大元の可燃物を吹き飛ばしてくれた。そして数時間の繰り返しにより、火災旋風は渦を巻くのをやめた。そこに追い打ちをかけるようにたらいをひっくり返したかのような大雨が降って、作戦開始から一晩燃え続けた火災は、ようやく鎮火されたようだった。
だが、この大災害はそれだけでは終わらなかった。一時間以上降り続けた局地的な大雨は深さ二フト程の濁流となり、ベーニの町を呑み込む。都合の悪いことに私達の近く、南門はダウンバーストにより破壊されたため、ベーニ全体の排水口の一つとなって水を集めてしまっているようだった。
その大洪水も数分で引き、火災旋風という圧倒的な光源を失った完全なる暗闇が訪れる。もう完全に鎮火されたので作戦上は硬山に向かわなければいけないのだが、何も見えない中でそちらへと向かうのは難しい。
そう考えていると、いくつかの蛍の光のようなものが漂っているのが見えた。警戒しながら近寄ってみれば、同じことを考えたのだろう、五百人程の第三旅団の仲間達が集まっていた。
サナトスやラルアは合流できてはいないので、第三十二連隊長エレンの判断の下、一旦交代で休息をとり、夜明を待ってから硬山に向かうことにした。
暫く待つと暁光が空を照らし始め、大災害の爪痕がはっきりと姿を現す。
ベーニの町の姿は、一晩で大きく変わっていた。かろうじて存在していたバラック街も姿を消し、がれきすらも流されたのだろう、ガラス状の大地がどこまでも続いている。空には雲一つなく、あの大荒れの天気が嘘のようだった。
最終的に合流できた千人程で連隊を組み、出発する。目標地点の硬山近くを見れば、既に人だかりができていた。多分サナトス達だろうと安心しかけたその時。
「なぁ、あれ、戦ってないか……?」
一人の兵士のぼやきが聞こえる。その声に連隊はざわめき……誰が指揮したわけでもなく、皆が駆け出した。
全て流されたはずなのに、かすかに感じられる有機鉄の香りが、その推測を裏付ける。
集団の後方に合流するや否や、エレンは大きく叫ぶ。
「遅くなって申し訳ない、臨三十九連隊千名、只今合流!」
あれ、これそんな名前だったんだ。
戦闘中の第三旅団はそれを聞き届けると歓声を上げ、士気を増す。既に戦っていた連隊と入れ替わりに、今到着した連隊が前線へと出る。
交代する際にサナトスが山の東側にいることを聞けたので、地面を潜って通過しようとも思ったが、大地はガラス化していて入る隙もない。連隊長と相談した結果、ここを突破してサナトスと合流することになったので、仕方がないので兜割とマキリを握り締め、乱戦の中へと突入する。人を攻撃することにまだ若干の抵抗があるが、コナジが美しいと言っていたこの町をがれきだらけにした彼らなど、収穫直前の畑を荒らす猿共が鎧をまとった姿だと考えれば、不思議と忌避感もスッと消えて駆除しなければという気持ちがわいてくる。
スコトリア兵は溶けて変形した鎧をまとい、やけにアンバランスな太く短い剣でこちらを切りつけてくる。
それを兜割で受け止めて梃子の原理で没収し、同時に左手に持ったマキリで鎧を切り裂いてその場所に兜割で胴打ちを与えれば、バランスを崩した彼は他のスコトリア兵を巻き込んで倒れる。逆側からも別のスコトリア兵が攻撃せんとするも、今度は兜をかぶっていなかったのでマキリの腹で攻撃を受け流し、兜割で面打ちにしてやる。兜割には刃がないが、これだけ重い金属の塊で殴ればひとたまりもないだろう。
そうだ、思い出した。猿を追い払うにはパチンコや火を持ってトラウマになるまで徹底的に追いかけるのが有効的だった。
手の甲に単純な火の魔法陣を描き、それを兜割を軸とした{塵旋風}に乗せてやる。それを振りかざせば、スコトリア軍は過剰なほどに警戒して隊の中で押し合いへし合いを始めた。中には飛びかかってくるのもいたが、一度兜割で子手打ちをしようとするとそれだけで武器を手放し、鎧に穴の開いていた胸元に突きを放てばそれだけで気絶した。おいおい、この程度でパニックになるって、うちの畑に来てた猿よりも根性がないんじゃないか? こいつらは、私の何に怯えているんだ?
恐る恐る後ろから切りかかってくる者もいたが、{塵旋風}をそっちへ引っ張ってやったら一瞬で動きを止め、その隙に私の後ろに続かんとしていた旅団の仲間に拘束される。面白くない。
……面白くない? いけない、いけない。今私が目指すことはスコトリア軍の殲滅ではなく、サナトスとの合流に過ぎない。むしろ、こっちの方が都合がいいじゃないか。
私は引き続き兜割を振りながらスコトリア軍をかき分け、サナトスのいるであろう方向へと進んだ。




