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Ⅱ-39:火災旋風vs火災積乱雲

 私達はベーニの東端を三時間ほど南下し、アナトル方面へと続く南門の近くまでやってきた。

 その間にだんだんと北風が弱まり、いつしか風向きすら変わって南西からの風となっていた。にもかかわらず硬山から上がる火柱は明るく、高くなり、そして渦を巻いて火災旋風へと変化している。その高さは地平線からおよそ三十度、一ノルル強離れていることを考えれば約七千フトと言ったところか。

 これだけの火災ともなればスコトリア軍がこの町を放棄して既に撤退してしまったのではないか? という疑問も沸いたが、南門が閉じられているので、少なくともこの門からは逃げていない事だけはわかった。ただ、普通に考えれば逃げるとすれば西だろうし、そこは第二旅団が上手くやってくれているだろう。

 がれきに隠れながら南門を監視する。この場所も硬山ほどではないが、大通り沿いにがれきの山ができており、隠れる場所には困らない。南門にも時折人の出入りがあるようで、バラック街へと何人かが向かうのを見えた。

 そうやって暫く監視していたが、その間にも今度は風が強くなり始めていた。具体的には、この場所からですらがれきの中の密度の低いものは飛び始めるほどに。もはや立っている事すらままならず、地面に這いつくばって様子をうかがうしかない。ふと空を見れば、分厚そうな雲に火災旋風の光が反射していた。夕方は快晴だったはずなのに、これまでのほんのわずかな間でひどい天気になってしまったようだ。どこかで、雷の落ちる音が聞こえた。


 ……雷? 冷静に考えればおかしいじゃないか。夕方に吹いていた北風の風上には雷雲は無かった。そもそもこの時期のベーニの町は、雲一つない快晴が続き空気も乾燥するものだからちょくちょくボヤ騒ぎが起きるのだと、この町の生まれのコナジは言っていた。

 にもかかわらず、どうして頭上では雲が渦巻いているのだろうか? 雲は水蒸気が凝縮してできた水の粒の集まり。この乾ききったトリマドルの気候で、どこから雲のできるほどの水が出てきたのだろうか? そして、それだけの水分を上空へと持ち上げるだけの力は、どこから来たのだろうか?


「サナトスさん。火を消すために水を出すとして、一人当たりどれだけの水を出せると思います?」

「やっぱり貴女もそう考えているのね。長期間の作戦を考えるなら、一人当たり半タンが最低ラインよ」


 答えは、火を見れば明らかだった。眩しさを我慢して火災旋風の上端を見れば、漏斗状に広がってこの渦巻く雲とつながっていた。この雲の供給源は、火災旋風を消さんとスコトリア軍の出した水。これが蒸発して火災旋風の上昇気流に乗って上空へと昇っていったのだ。一人当たり半タンということは、二十万人いれば十万タン。火災積雲、いや、小規模なものであれば火災積乱雲ができてもおかしくはない。ましてや、これは最低ラインなのだ。

 ふと空を見上げると、直径が十リンフトはあろうかという氷の粒が降ってくる。雹だ。それが降ってくると同時に、急に冷たく強い下降気流が僅かに感じていた熱さを吹き飛ばす。

 目の前のがれきの山も崩れ、何人かが下敷きになった。幸いにも既に火災旋風ががれきの一部を吸い込んでいたため誰一人とて大きな怪我は無かったが、もうこの付近に安全地帯は無いということを示していた。

 風と雹がが収まると、サナトスは壁に寄りかかって立ち上がり、大声で旅団全体に呼びかける。


「……風の息遣いを感じる。各位、竜巻に厳重警戒、横に逃げること! 隊列行動よりも身の安全を優先しなさい! 大前提として、全員がまず自分の身だけを守るように!」


 これだけの大声を出してしまえば、門のスコトリア軍にも聞こえてしまっているだろう。それでも彼女が大声を出したということは、今この場においてはスコトリアよりもこのふざけた気象の方が脅威が高いと判断が下された、ということに他ならない。

 そして一分も経たないうちに再び雹が降り始める。刹那、圧倒的なマイクロバーストがベーニを襲い、近くにあった南門を横倒しにしてしまった。もう、この町に安全地帯などありやしないのだと、自然の力をまじまじと見せつけられる。

 サナトスもそう感じたのだろう、彼女は第三旅団各位に二つの命令を下した。


 一、気象の収まり次第、六時間以内に硬山を目標とし、合流する事。

 一、生き残る事。


 そして第三旅団は一度隊列行動を取りやめ、全員が個人行動を行うことになった。

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