Ⅱ-42:vsハルカ・ミナミアルプス・ヤマナシ・ニホン
「じゃあなぜ聖戦だなんて宣ってる戦争に参加している?」
「楽しいから。理由なんてそれだけで十分じゃない。戦争ってのはね、全てが正当化されるんだ」
一歩引いて間合いを確保しながら、兜割の周りに{鎌鼬}をまとわりつけて攻撃の準備に移る。
「召喚されたばっかりの時は戸惑ってたけど、狩りを好きなだけやるだけで、彼らは私に感謝して、『勇者』だと称賛してくれる。それだけで十分」
(サーシャ、ごめん。やっぱあたし、こいつを許せない)
ふとラルアに意識を向ける。ラルアは信じられぬとでも言いたげな顔をしながら、でもその目は何かに気付いたかのようであった。
(とりあえずこっちに注目引きつけておく、気を付けて)
(助かるよ)
胴打ちと同時に、{渦水流}で後ろからの攻撃を加え、ついでに水の魔法で光の波の進む方向をいじっておく。
目の前の『勇者』と呼ばれた男は、それでも冷静に攻撃を受け止めた。
「お前、魔物を何だと思ってるんだ?」
「初めて見た時は面白いとは思ってたけどね、それよりも僕が強くなってたから、今となってはただの狩りの対象かな? あと、お前じゃなくて、僕にはハルカっていうちゃんとした名前がある」
左手のマキリで円盤状の光を切れば、ハルカは後ろに飛んで回避行動を取った。すかさず距離を詰めようとするも、煙幕を張られて迂闊に動けなくなる。
「ああ、ハルカ・ミナミアルプス・ヤマナシ・ニホンか。総連で記事になっていたが」
「良く知ってるね。魔物にも知れ渡ってるようで光栄」
まあ、名前だけしか知らなかったけどね。私と同じ世界を歩く者だったから気になっただけさ。
風を起こして煙幕を退けた時には、ハルカは既に攻撃態勢に移っていた。
レイピアの刺突を兜割で外側に弾き、再びつばぜり合いになる。
「狩り、と言ってるけどね、狩られる側にも生活がある」
「そんなの知らないね、『弱肉強食』って知ってるかい? 弱いのがいけないのさ」
その言葉に、初めて父さんの狩りについていった、小学生の時のことが脳裏をよぎる。
あんまりにも同じ猪に畑を荒らされたものだからと、父さんが引き金を引いて目の前でその猪の暴れるのを見納めにしたその時、私は地面に垂れていく赤い液体から目を離すことができなかった。あんなに憎いと思っていたはずなのに、かわいそう、そんな感情が芽生えて、父さんの頼れる姿がとても恐ろしいもののように見えた。その日の夕食は牡丹鍋だった。喉を通らなかった。
――いいか、『いただきます』って言うのはこういうことだ。『弱肉強食』という言葉の裏側の意味がわかるようになるってのがな、一人前の人間になるって事だ。
それから何度か連れていかされるうちにそこまでのショックを受けることは無くなったけれど、その父さんの言葉だけは毎回思い出させられた。
いまはもう、私は人間ではなくなってしまったけれど、この言葉は人間ではなくても大切な事なのだと思う。
「知っているさ、『弱肉強食』なんて言葉など。こういう話がある。ある島にウサギがやってきて、ウサギは島の絶対の強者となった。だが、強者の自覚を持たなかったウサギは全ての草を食いつくし、そしてその島は死んだ。そういうことだろう?」
「何を言ってるのか全く意味が分からないね! ウサギなんてのは、僕達に狩られるだけの弱者でしょうに」
「じゃあ、なぜ狩りをする?」
「さっきから言ってるでしょ、僕が強者だからだって」
あぁ、こいつは何もわかってない。強者は弱者を食べなければ生きていけない更なる弱者だ。
狩りをするのは、狩らねば自分達の命が危ないからに過ぎない。狩りをする側は、狩られる側に対してある側面では弱者でなければいけない。そうでなければ――それはただの殺戮だ。
こいつは、自分が絶対の強者であるにもかかわらず、狩りと称して依存する必要もない弱者の殺戮を繰り返している。自分たちの島を破壊した愚かなるウサギたちですら、生きるためでしか他の生き物の命を奪っていないのに。
ああ、確信したよ。
「さっきのド畜生という言葉は訂正する。畜生に失礼だ」
土下座をして平謝り。刹那、私のいた場所を衝撃波の塊が通過した。
私に注目していたハルカは、その衝撃波への対応が遅れたのだろう、受け身を取ることすら能わずに飲まれていった。
「本当に容赦しないんだな、ラルア……」
「今ので半分疑心暗鬼だったのがはっきりわかったからね! あの不毛の山岳地帯の洞窟での出来事は、スコトリアの仕業だって!」
本気の本気で行くよ、とラルアはハルカのいるであろう土煙に突っ込んでいった。




