Ⅱ-36:ベーニ奪還師団
「残念ながら彼の行動の理由に関しては、聞き出す前にラルアが討ち取ってしまったのでわかりませんでした」
ヤコバ砦に戻り、簡単な報告をする。
その報告を聞いたサナトスは、大きくため息をついた。
「お疲れ様、サーシャ。……ラルア、私は前にも偉そうな人は情報聞き出すまで殺しちゃダメって言ったわよね?」
「うぅ……。ごめんなさい」
ラルアは申し訳なさそうに言う。前々から怒られていたんかい!
詳しく聞いてみれば、どうも彼女の脳内には捕虜という概念が無いらしく、こんなんばっかりなので情報を聞き出せずにちょくちょく逃げられたり奇襲を受けたりしていたのだとか。
ラルアがこれだけ強いのに窮地に陥っていたのはこういうことか……。
「まあ、今回はラルア君一人で殲滅できる程度であったからそこまで大きな戦力ではない、聞き出せぬとも大した問題ではないだろう。だがラルア君、ベーニ奪還作戦の時はくれぐれも気を付けてくれ給え」
強く念を押すコナジ。第二旅団の諜報部隊曰く、ベーニには少なくとも複数の軍団レベルが滞在していると推定されており、それを率いる者ともなれば、最低でも将軍、或いは元帥級の指導者であろう。確実に、重要な情報を持っていると考えられる。
そんな奴から、情報聞き出す前に静かにさせてしまってはどうしようもない。
「では、コナジ将軍。ベーニへの出発はいつにしましょうか」
「そうだな。ラルア君、スコトリア軍のどの程度を殲滅させられずに撤退させてしまった?」
「きっちり殲滅したから、多分いません!」
自身たっぷりにラルアは言う。
ともなれば、元からあの火災旋風より奥にいた人達だけが逃げられたのだろう。
「ならば攻略に失敗したことが悟られる前に出た方がよかろう。街道沿いに進軍する以上、この砦に多くの戦力を残しておく必要もまず無い。第二旅団の軽度の負傷兵と第一旅団の兵を小隊単位で交換すれば明日には出発できるが……」
コナジは第一旅団長にちらりと目をやる。それを確認した第一旅団長は、小さく頷き「調整させます」と述べた。
「助かる。では、ベーニへ向かう兵士たちには、夕食までに明日の朝に出発することを周知させよう。将軍、コナジ・トリマドル・トリマドル・アナトルの名の下に、ベーニ奪還師団の結成を宣言する」
翌朝。私達はヤコバの砦を出て、トリマドル街道を南南西へ上り始めた。
街道は、不気味なほどに静かだった。誰一人ともすれ違うことはなく、足かけ三日の道のりを経て、ベーニまでの最後の村……であった場所に私達はたどり着いた。
道中、いくつかの町や村の近くを通ったが……そのすべてにおいて、死体は転がってはおれど、生存者は一人も見当たることはない。それらの町村を通るたびに、兵士たちは絶望し、そしてスコトリアへの怒りの空気が強まる。それはもう、直接の恨みがない私ですら、彼らを取り除かねばならぬと思えるほどに。
例にもれず不気味なほどに静かで、有機鉄の生臭い匂いすら乾ききったこの村で、我々七千の師団は夕食の準備をすることになった。
その最中、サナトスに「コナジ将軍が呼んでいるわ」と伝えられたので、彼の元へ向かう。
「どうされましたか、コナジ将軍」
「君を見込んで頼みがある。これから第二旅団の諜報部隊がベーニへ向かうのだが、彼らとは別で君にも行ってきてもらいたい」
「……同行ではなく?」
「同行にしたところで、君の動き方じゃ結果として単独行動になるのではないかね?」
コナジは苦笑いをしながら言う。
まあ、そうなんだけどさ。
「それで、何を調べてくればいいのですか?」
「有難い。君に頼みたいことは、マッピングだ。吾輩は今のベーニの町は我々の知る物とは完全に異なっていると考える。ここまでの町にも幾つか建物ごと作り直されていた町があったからな。だから、大通りやそこに面する敵の隠れることの能いそうな路地や建物の調査を中心に頼みたい」
……なるほど。私は元の町がどうだったのかは知らなかった。だから気づかなかったが、見る人が見ればすぐにわかる程度には変わっていたのだろう。
そして、ベーニの町は占領されてから既に七日は過ぎているらしい。たった七日、されど七日。一度廃墟となるには十分すぎる時間だ。
なるほど、確かに再調査の必要はありそうだ。でも……
「調査しても、ラルアが全部ぶっ壊してくれそうな気がするのですが」
「吾輩も薄々そう感じてはいるが、そうなるよりも前に決着をつけるよう努力する」
あぁ、良かった。そう考えているのが私だけじゃなくて。
そう安堵していると、コナジは一度口を開こうとして一度閉じ、また少しして重々しく口を開いた。
「……今夜、夜襲を行う。数で劣る我々が勝利するには、短期決戦の他ない。そのためにも地図は欠かせん。できるだけ早く、行ってきてほしい」




