Ⅱ-35:インタビュー
砦を出て、土に潜って炎の渦の下に行く。
空気の流れを見れば、火災旋風から三百フトも離れているのに、既に百ノルトにも達しようという強烈な風が吹き、土の温度も摂氏五百度に達してガラス化までしようとしている。
私自身が吸い込まれたり、ゆで卵のようになってしまわないように、土の深い場所を{吸熱}の魔法陣を展開しながら通ってゆく。
……ん? 炎の渦の真ん中に、何百ノルトもの強風、摂氏何千度もの炎に耐えている一つの人影がある。その鎧には見覚えがあった。スコトリアの偉い人(仮)だ。周りにいた人たちは、どうやら炎に飲まれてしまったようではあるが。
なにかぶつぶつと言っているようなので、聞き耳を立ててみる。
「……クソが、アナトルの邪悪なるものどもめ! 力なき罪なき者共を悪魔の業火で焼き払いやがって! だが、俺には効かんぞ! いかなる炎であろうとも、この俺の燃え盛る闘志の前にはただの火花に等しい!」
よく見れば、彼は自らの魔力でできた炎をまとっていた。私の出して帰ってきたものを超える、非常に高い温度の物をだ
……って。この火災旋風、こいつの炎が原因じゃねえか! どおりで同じ場所に留まり続けているわけだよ、火の供給元はここなんだもの。
うん、私悪くない。これ、確かに火種を蒔いたのは私だけど、実態は盛大なスコトリア軍の自滅だ。
まずは火災旋風を止めないと。逆向きの{塵旋風}、そして{吸熱}の魔法陣を描き、火災旋風を打ち消さんとする。火災旋風のおかげで{吸熱}により異常なまでの魔力を得ていたため、無理なく大出力で火災旋風をかき消すことができた。
「漸く、渦巻く炎が消えたか。……なんだ、なんだこの有様は!?」
抉れてガラス細工と化した大地に熱で形の変わってしまった金属の鎧がごろごろと転がり、空からは燐酸カルシウムの白い粉が雪のように舞っている。言うまでもなく、吸い込まれてしまったスコトリア軍の物である。
周りの炎が消え、初めて彼は惨状を目にすることができたのだろう。その男は、ただ立ち尽くし、慟哭している。
土を冷やしながら地上に出ようとも思ったが、大地のガラス化した厚い層を砕くのが面倒だったので、その下から念話で話しかけることにした。
(火災旋風が発生していたので来てみれば、スコトリアの軍人が一人)
「誰だ!?」
(私はトリマドル自治共和国、第三旅団のしがない傭兵、サーシャ・タカトオ)
「……貴様か。貴様がこの悪魔の炎を! 姿を現せ!」
男は怒り狂い、大剣を地面に突き刺さんとする。しかし、強靭なガラスと化した大地はそれを受け付けなかった。
(砦に被害が及そうだったから来たんだが、あの火災旋風はお前の炎じゃなかったのか?)
「とぼけるな! 俺の炎は渦なんて巻かねーんだよ! 貴様の炎の渦が激しかったから、耐えるために仕方なく炎を出していただけだ!」
こいつ、本気で言ってるのか? 炎なんて何もしなくても渦を巻く。既につむじ風のあったあの中なら尚更だ。
と、言うか……。
(それが本当だったとして、どうして炎に炎をぶつけようとした?)
しかし、その問いに答えが返ってくることは無かった。その男の首が飛んで行ったからだ。
一瞬、何が起きたのかは解らなかった。だが、その理由は間もなく判明した。
ラルアが文字通り飛んできて、残った胴体をも吹っ飛ばしたのだ。
「ラルア……いつの間に」
「ん? あ、地面の下にいたんだね。ごめんねー、横取りしちゃってー」
ラルアは悪びれたそぶりも見せずにそう言い放つ。
横取りって、お前なぁ……。いろいろと彼には聞きたいこともあったんだけど。
そう伝えると、申し訳なさそうに「もうここにしかスコトリア軍が残ってなかったから」と返される。
その言葉に砦までの間を見れば、確かに誰一人とて残っていなかった。こわ……。
「流石にやりすぎでしょ、皆殺しにする必要まではないでしょうに」
「……サーシャ。スコトリアはね、勇者を見つけるだけじゃなく、その方法を使ってもっとひどいことをあたしたちにした。あたしに力を託して消えていったみんなのためにも、彼らを生かしておくことはできない」
ポロリとこぼれた心の声に、ラルアは芯の通った声でそう返した。
私はいっぱしの傭兵で、スコトリアに対してそこまでの憎悪は無い。でも、アナトル連邦の人たちにとっては、大きな憎悪の対象なのだろう。
これ以上の言葉を紡ぐことは、私にはできなかった。




