Ⅰ-1:はじめてのたたかい
さて、旅に出たはいいものの……どこに行くべきだろう。
妹を探さなきゃ。その思いで飛び出したけど、冷静に考えれば、私がこの世界で知っている地理は、カチュアの森の限られた範囲だけ。
それに……今の私の姿で、町に入れるのだろうか? そもそも、この世界に、人間はいるのか?
一応ミーシャは人型をしていたから、人間っぽい生物はいるんだろうけど……
まあ、最悪≪念話≫なりを使って話のできる人――いや、この際人じゃなくてもいい――に出会うまで、トライアル&エラーの繰り返しになるか。
さて、ではどうやって人に会いに行くかだけど……生物が生存するのに、水は必須だ。
だから、カチュアの森にあった小川に沿って下っていくことにした。
そのうち橋とか用水路とかの人工物に出会えるだろう、という魂胆だ。
万が一海まで行ってしまったら……海岸線沿いにたどればいい。
……と、思っていたけど、失敗した。滝だ。
流石に考えなしに滝から飛び降りるのは、怖いという以前に無謀だ。
さて、どうするか。
まず、周りでなだらかな斜面になっているところを探す。
……あたりを見渡せば、きれいな崖線がどこまでも続いていた。だめそうだ。
ならば、土の中を掘って降りていくか?
川底を見る。これは……土じゃなくて岩だ。流石に掘れない。
うーん、やっぱり出る前にミーシャに道を聞いて来ればよかったなぁ。
何で聞いておかなかったんだろう。あの人も抜けてるけど、私もどこか抜けているようだ。
自覚ある分、気を引き締めなくては。
その時、ひらりひらりと空を舞う木の葉が目に入った。
……これだ。今の私は薄い膜状になれば滑空できる。はず!
体を伸ばして……跳ぶ!
…………
……
ダメでした。この体、木の葉みたいに固くないから、折れてしまってうまく空気を掴めなかった。
つまり今、自由落下しているわけで。
……って、ヤバいヤバい。減速しなきゃ。でも、どうやって?
そうだ、パラシュート、パラシュートを造れば……でも、材料がない。
いや、この際自分の体でもいい、≪中心教義≫!
すぐに体が落下傘状になる。こういう時にこのスキルは便利だ。
よし、これで減速して……え? 地表はもうすぐそこ?
ダメだ、減速が間に合わない……激突する!
ならば今度は体を下向きの錐体にする。
プールに飛び込むとき、体を大きく広げると痛いけれども、水に刺さるように飛び込めば全く痛くない。それと同じだ、たぶん。
それでも、衝撃は少しは来るだろう。だから私は、来るべき衝撃に備えて、目をつむった。
グサリ。体が大地に刺さったような感触がする。痛みは思ったよりはなかった。
さて、移動を再開しようか。そう思った時だった。
――大地が、大きく動いた。
急に体が傾いたかと思えば、ぐるりぐるりと回ったり。
地震か? 異世界でも、地震って起こるんだな……ってちょっと待て。
流石に大地震でも、地面がぐるぐる回るなんて聞いたことがない。
嫌な予感がする。これ、もしかしなくても……刺さったの、地面じゃないな?
地面(暫定)の外に菌足――菌糸のようなものだが、ミーシャいわく菌糸ではないらしいのでこう呼ばせてもらっている――を伸ばしてあたりを見回す。
あー、うん。刺さってるねー。完全に刺さってるね、なんか、めちゃくちゃでかい蜘蛛に。
……めちゃくちゃでかい蜘蛛?
……足一本が、木の幹くらいある、巨大な蜘蛛?
いや、ヤバいヤバい。どうやって逃げよう。
幸いにして、蜘蛛は私には気づいていない様子。でも、今飛び出たら確実に見つかる。
今は私という針を打ち出した者を探している、ように見える。そりゃそうか。
……お、なんかよくわからないけど走り出した。その先には……三人組の、人!
うん、人を見つけられたのは良かった。良かったけど……この蜘蛛、あの人たちが攻撃したと思っている! ごめんなさい……
どうやら三人組も蜘蛛に気づいて……逃げ出した。そして、この瞬間、逃げるという選択肢は私から消え去った。
これで彼らがこの蜘蛛にやられでもしたら後味が悪いし、それに……
せっかく見つけた人たちをみすみす見逃すわけにはいかないからね!
補遺:菌足ですが、より学術的に言うと菌状仮足という名前がきちんとついています。見た目は完全に菌糸ですが、菌糸とは違って細胞壁がありません。




