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Ⅱ-29:傭兵

「サーシャ・タカトオ。連合(ユニオン)のAランクで、登録はフィルミク王国のタオ。直近の活躍はヒムーニャ遺跡の巨大ファージスライムと、カンナガ湾でのレヴィアタン討伐。これらは連合(ユニオン)から届いた情報だが、間違いはないかね?」

「いえ、私はまだBランクです」

「……よし。お気づきのとおり、選考は既にはじまっているよ」


 こ、怖い……。しょっぱなからそういうことをしてくるのか。


「では、次に行こう。門への到着が、十時二十三分。合格。……では、君の種族を教えてくれないかね。因みに私は、見てわかる通りオークだ」


 はて、どう答えようか。いや、彼は全て教えろとは言っていない。ならば。


自律人形(ガイノイド)です」

「……君から生物反応が出ているが?」


 あー、うん。これは正直に全部言ってしまった方がよかった奴だ。失敗、失敗。

 人形をしまって不定形になり、言葉を重ねる


「そして、この通り魔導埃黴(マドウホコリカビ)でもあります」

「……ほう、面白い。それが本来の姿、ということか。ではなぜ、先にそちらを言わなかった?」

「先ほどまで私は人族の姿でしたから、人族の種族で答えるべきと判断しました」

「なるほど、正しい。いくら本国で外見による差別が禁止されているとはいえ、この町は人族の比率が高いからな」


 あ、高いんだ。これでも七割だったし、平均くらいだと思ってたよ。


「しかし……。困った。アナトルの歴史は長いといえど、魔導埃黴(マドウホコリカビ)自律人形(ガイノイド)も私の知る限りでは恐らく先例が無い」

「まぁ、そうでしょうね……」


 やっぱ適当に人間(アトラス)あたりでごまかしといたほうが良かったんじゃないかと、そんな事を考えていると、「だからといって採否には関係はしないということは断言しておく」と見透かされたように告げられる。


「まぁそれはおいおい隊分けの担当に決めさせるとしよう。とりあえず、こちらの契約書を確りと読んで、不備が無かったらサインをするように。不明点があれば、質疑は受け付ける」


 あ、投げやがったなこいつ。

 まあいいや、契約書が渡されたということは、採用に合格したということだろう。

 念のため内容を確認しておこう。守秘義務。雇用期間は三十日単位で更新又は休戦又は終戦、若しくは甲乙共に必要と認めた時まで、契約終了後はトリマドル自治共和国を速やかに退去し、二箇月の間立ち入らぬこと。報酬は連邦通貨建て……ん?


「すみません、リンパオさん」

「……何かね?」

「『この契約は、署名をもって即時成立とし、同時に契約終了となる』」

「……おめでとう、サーシャ君。合格だ。これが、本物の契約書だ」


 四枚ある契約書面の三枚目にあったこの記述。なるほど、ここまで面接だったのか。確かに、この契約書を出した時は一言も合格なんて言っていない。おぉ、怖い怖い。

 差し出された契約書も念入りにチェックして、不穏な項目がないかを確かめる。今度は大丈夫そうだ。

 人形に入っていないとペンを持てないので、久しぶりに直接インクを転写する。


「では、これより君はアナトル連邦の指揮下に入る。そして、礼を言おう。実を言うとな、人員の補充が追い付いていなかったのだ」


 それ絶対最後の契約書の奴で落っことしてるだろ。まぁ、注意力散漫な傭兵なんて欲しいかと言われれば、逆に足を引っ張る可能性の方が高そうだし、気持ちはわかるけれど。


「それに今回のスコトリアの侵攻は、今まで以上に激しくてな、負傷兵の救護の手すら回らなくなってきている」

「存じております。それに、ヒムーニャの遺跡で召喚された『勇者』と出会ったのも私と仲間でしたから、原因も」

「……確かにこのファージスライムの件は十二日前。日時も情報と同じ、か。ヒムーニャからほぼ最速でヒジャーズまで来てくれたのだな」


 まぁ、最速で来たのはローレンスが家族を心配してのことだし、そこは私の意思じゃないけど、これこそ本当に言わなきゃばれないだろう。


「さて、サーシャ君。早速ではあるが、今日の十三時に市民兵が町を出るために馬車を手配しているのだが、これに便乗してもらっても構わないだろうか?」

「そもそも私は昨日の朝にこの町についたばかりです。撤収に時間がかかるようなことをする時間もありませんでした」

「助かる。では君は第三旅団への所属とする。君の適性検査は、向こうで行うようにしよう。では、よろしく頼むよ」


 そう言うと、リンパオは二人いた兵士のうち片方を引き連れて退室した。

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