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Ⅱ-30:サナトス将軍補

 アナトル連邦、トリマドル自治共和国の首都、トリマドル。ヒムーニャから馬車で三日三晩かけてたどり着いたこの町は、現在連邦の戦力の拠点となっている町の一つだ。

 まあ、ここまで馬車で来たわけなんだけど……便乗って、まさか屋根にへばりついて移動しろ、だなんて思ってもいなかったよ。

 別に体を小さくすれば疲れもしないし、どうせ人形に入ってても馬車なんて疲れるだけなんだけど、複雑な気分だ。

 客室の市民兵たちが全員下車したのを確認し、人形に入って外に出る。

 待ち構えていたのだろう、直ぐに目前の建物の入り口の横に立っていた歩兵に声を掛けられた。


「失礼。貴女が、サーシャ・タカトオ様でありますか」

「はい、そうです」

「将軍補様がお呼びであります。お連れ致します」


 ……なんだろう。私は軍に入ってまだ何もしていないはずなのに、なーんか謙られてる気がする。

 それに、将軍補ってそれなりの位置の人だよね? なんで私なんかに会おうと思ったのか。興味が引かれそうなことは……種族くらいしかないなあ。

 まあ、それだけで呼ばれる原因になり得るってのは自覚はしてはいるけれど。

 それに、私は客人ではなくただの一人の駆け出しの傭兵なのだと歩兵に告げても、対応が変わることは無かった。うーん、やりづらい。

 そのまま歩兵につられて建物に入る。石造りの質素の建物で、装飾などは一切ないにもかかわらず、美しい。そう思わせる立派な建物だ。

 それに、他の人とすれ違うたびに行われる敬礼。帽子をかぶっていないので頭を下げて返す。やはり、ここは軍隊なのだ。

 歩兵に連れられ、奥まった場所にある重厚な木の扉の前で立ち止まる。


「サナトス将軍補、ツサイであります。サーシャ様をお連れしました」

「サーシャさんだけをお通ししなさい」


 中から透き通るような高い声が聞こえた。

 歩兵は扉を開けると、「お通りください」とだけ口を開く。

 中に入れば、スレンダーなエルフの女性が出迎えてくれた。


「始めまして。この度は私達トリマドル自治共和国防衛軍第三旅団に力を貸していただけるということ、感謝いたします」


 差し出された手を握り返し、私も挨拶をする。


「どうも、サーシャ・タカトオと言います。……あの、先ほどから気になっていたのですが、どうして、傭兵になりたての私が、これほどまで丁寧に……」

「では、普通に話させてもらうわ。人手が足りなくて困っているところに来た、それもBランクの人なんて、こちらとしては救世主のようなものだから。それに、傭兵を手荒に扱ったとなれば、最悪寝返られてしまうしね」


 あ、やけに現実的な話だった。でも、寝返ると言ったって私がスコトリアの軍門に下るなんて、彼らの主張を考慮すればまずあるはずもないのに。

 と、いうことは。前者の人手不足、これが深刻なのだろうか。


「それともう一つ。あなたこそ肩の力を抜いて頂戴。私など、旅団長とはいえども五日前の襲撃で行方不明となった先代の代理のようなもの」

「……想像以上に、状況は芳しくないのですね」


 行方不明。戦場における行方不明というのは、つまりはそういうことなのだろう。


「奴らの快進撃の他にも、不可思議な点はあったのよ。だけど、連合(ユニオン)からもたらされた情報、それが全てを説明してくれた。……リンパオから聞いたわよ、貴女がそれを見つけて、駆け付けてくれたんだって」

「理由が分かったと言っても、対策がとれるわけではないでしょう」

「分からないよりはましなの。奴らのしていることは、多くの私のような被害者を出す愚かな行為。このトリマドル自治共和国防衛軍が将軍補の一人、サナトス・スランヴァイアプールグウイングィスルゴゲールウクウィールンドロブスルスランティシリオゴゴゴーフ、見逃すわけにはいかない」


 ……はい? す、すごい名前ですね……。


「えっと、スランヴァイアプールグウイングウイン」

「スランヴァイアプールグウイングィスルゴゲールウクウィールンドロブスルスランティシリオゴゴゴーフ。長いようだったら、スランヴァイアと略してかまわないわ。……さて、サーシャ。本題に戻りましょう。貴女の、適性を見極めさせて頂戴」


 そういえばそうだった。これで、私がこの群で何をすべきかが決まるのだ。


「具体的には、何をすれば」

「模擬戦を行ってもらうわ。既に試験官を待たせてしまっているから、訓練場まで案内するわね」


 おっと、それはいけない。

 私はサナトスに連れられ、急ぎ足で訓練場に向かった。

★Tips:エルフ

基本的に魔法の扱いに長けている種で、エレクトゥスから分化したと考えられている。

外見的な特徴もエレクトゥスに近いが、大きな違いとして雄個体は鼻が、雌個体は耳が長く、尖っている。

実はオークとは近縁種で、その間に生まれる子供が子孫を残すことができないため、過去にはお互いがお互いを汚れた血と呼び合って忌避していたが、生物学の発展により近縁種とわかってからその関係は急接近し、今は普通に仲がいい。

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