Ⅱ-28:別れ
十分ほど待っていると、ようやくテタニがやってきた。彼女は侵攻が始まってすぐに、連邦政府から直接要請を受け、雇われの第一旅団の衛生兵になっているのだとか。彼女は後方部隊らしいし、後方部隊はいくつかの前線部隊からの情報を集められるから運良く同じ部隊に配属されればいいのだけれど、そこまで高望みするのはやめておこう。
「サーシャちゃんは、これからどうするの?」
「傭兵の依頼を、受けることにした」
「そっか。ローレンスもここに残るだろうし、明日の朝でお別れだねー」
「残ると言っても、帰国したことは連邦政府にも伝わっているはずなので、来週にも市民兵の公募に行くつもりです。それまでの間は、この町から出る軍人たちの武具や防具を整備します。それが、私にできる精一杯ですから」
彼は申し訳なさそうに口を閉じると、立ち上がって頭を下げた。
「テタニさん、お願いします。一人でも多くの、この国の方達を救ってあげてください。貴女にはそれができる」
「ちょ、ちょっと、ローレンス?」
「サーシャさん、お願いします。貴女は、常識を塗り替えるだけの力を持っている」
「……買いかぶりすぎだって」
それに何か、どっちかっていうと……けなされているような気がする。
そう困惑していると、彼はテタニには杖を、私には小刀を渡した。
「これは餞別です。テタニさんのは仕込み杖、サーシャさんのはマキリと呼ばれる小刀です」
「いいの? 貰っちゃってー」
「僕は、僕のできることをしなければなりません。それは、戦場に行く人の装備を整えること。それは、二人とて例外ではありません」
私に渡された小刀は、刃が例の鱗でできていた。どうやって加工したのか気になったが、裏側からなら他の鱗で切断することがギリギリ可能だったのだらしい。また、鞘の方も内側に鱗を挟んでおり、そうしないと鞘が切れてしまって使い物にならなかったのっだとか。切れ味が良すぎるのも考え物である。
そしてテタニに渡された杖は、先端から刃が出たり、持ち手近くを開けると中に十ビタン瓶を入れたりできる優れものだ。こんなことして杖としての機能は大丈夫なのかとも思ったが、キイヨが考えついた新たな魔法陣術の応用として、ジェリーで作った魔力導線を杖の中に仕込むことで、従来の杖と同等以上の増幅ができるらしい。何を言っているのかよく分からないけど、なんとなくすごいことはわかった。
「僕は実家に戻って、僕にできることをします。どうか二人とも、ご安全に」
「そういうローレンスこそ、体に気を付けて、ご安全に」
「休戦になったら、一緒にミッパラのトシフのところにでも行ってー、一緒にご飯でも食べよーよ。ご安全に」
そしてローレンスは、冒険者組合を出るとすぐに人ごみの中に消えていった。
翌朝八時。ヒジャーズの駅までテタニを送る。ヒジャーズの駅は、昨日の町の様子とは打って変わって静かだった。
「それじゃあサーシャちゃん。アタシは行ってくる。ご安全に」
「うん、ご安全に。また、どこかで」
テタニを乗せた駅馬車が走り出す。こうして、私の旅はまた一人旅に戻ってしまった。次にみんなと会うのはいつなのかは分からない。でも、約束したんだ。ミッパラでまた会おう、と。
私は駅を後にして、冒険者組合へと向かう。書類選考は通過していたようで、提示された時間の中で最も早い十時半に予約を入れる。
面接会場は、駅の隣にあった駐屯地だった。門番に組合員証を渡すと、詰所へ通さる。二人の兵士の監視の下、ここで待っているように言われた。気まずい。
そしてしばらく待って、丁度十時半になった時、扉が開き、大男が入ってきた。兵士たちが敬礼をしているのでそれなりの身分なのだろう、私も頭を下げて礼をする。
「楽にして、かまわないよ。サーシャ・タカトオ君で、間違いないね?」
見た目の厳つさとは裏腹に、穏やかな声で話しかけられる。楽にしろと言われても、こんながっちがちな雰囲気じゃできっこないんだけれど。
とりあえず肯定の意を示すと、彼は椅子に腰かけた。
「私は、この度君を見極めさせてもらうことになった、リンパオ・ヒジャーズという。まずは宣誓して頂きたい。ここで見聞きしたことは、誰にも口外しないと」
「……はい、私サーシャ・タカトオは誓います」
「よろしい、では、本題に移ろうか」
こうして、私の傭兵面接は始まったのだった。




