Ⅱ-23:解散
「どうしたんすか、トシフ。そんなに唐突に」
「ミッパラに戻んなきゃいけなくなってしまってな」
「あぁ、トシフもついに組合長っすか。おめっとさん」
キイヨが自分のことであるかのように嬉しそうに言う。だが、トシフの顔は苦虫を噛み潰したようなままだ。
「そうじゃなくてだな。いや、結果としてそうなる可能性が高いというか、どっちにしろオウォッキャンを離れざるを得ない事には変わりはないのだが」
「……はっきりしねーっすね、トシフらしくねーっすよ」
するとトシフは、突然に大きな声を出して心の内を曝けだした。
「俺だってどうすりゃいいのかわかんねえんだよ! ただ、一つだけ言えるのは、サーシャ、ローレンス。俺は明後日にハルマティーダを出る船で、ミッパラの島に帰らなきゃいけない。だから、オウォッキャンにいられるのは明日一杯が限界だ」
「トシフ、それテタニを呼んだ方がいい話でしょ? 私はもう大丈夫だから」
「ごめんな、サーシャ。俺もまだ、何が起きたのかを完全には呑み込めてないんだ」
一旦落ち着いた様子でトシフは椅子に掛ける。気を利かせたユゥが、お茶を淹れて持ってきた。
「とりあえず落ち着いてください。僕はテタニを呼んできます」
「あ、おいローレンス、ちょっと……」
トシフが引き止めるも、ローレンスは研究所を出ていく。
それを見たキイヨが、やれやれと言った風に口を開いた。
「本当に、らしくねーっすよ、トシフ。そもそも、ローレンスさんだって本音を言えば今すぐヒジャーズに帰りてーでしょうに、トシフがそんなんじゃ言い出せもしねーっすよ」
「……悪かった」
「謝るべきは、あーしじゃなくてローレンスさんっすよ。……それで、何があったんすか」
するとトシフは再び俯き、また押し黙ってしまった。研究所に沈黙が広がる。
暫くして、トシフはお茶を一気にすすると、重々しく言葉を紡いだ。
「……親父が、倒れたらしくてな。どうも先が長くないらしい」
「トシフの親父さんって、ミッパラの組合長っすよね」
「あぁ、なまじっか俺は組合長になる資格を持ってるから、帰れば親父の辞令で組合長を継がされんのが見えてんだ」
ローレンスもヒジャーズに戻るだろうし、もうこのパーティは解散だ。トシフはそう言って、どこか遠い場所を眺めていた。
しばらくすると、研究所の扉が再び開かれる。
「ちょうどスツケークへのポータルのところにいたので、テタニさんを連れてきました」
「トシフ、一体どうしたの? ローレンスから聞いたよ?」
「テタニ、か。俺はお前に謝らなきゃいけない。俺はミッパラに帰らなきゃいけないし、そしてローレンスも……」
「僕はいいですよ、最悪ヒジャーズには戻らなくても」
ローレンスが口を挟む。その言葉を聞いたトシフは、急に立ち上がって、ローレンスの方を向き、声を荒らげる。
「馬鹿野郎、これは最後のパーティリーダーとしての命令だ。ヒジャーズに帰れ、お前にも家族がいるだろう! ……とまぁ、テタニ。こんなところなんだ。正直、お前が戻ってこられるまではパーティを続けていたかったんだが……」
「そもそも、アタシが追放されたのはアタシが悪かったんだから、トシフが謝る事じゃないよ」
「いや、私はもう許してるし、トシフが頑固なだけなんだって……」
小声で呟いたつもりだったが、その呟きは確りとテタニの耳に入っていた。
彼女は私の前に立つと、私の目を見て強かに言葉を発した。
「サーシャちゃん。まだ、アタシの買った服を着てくれてるんだね。似合っててかわいいよ」
かわいい。その言葉に、かぁっと顔が熱くなる。
認めてしまえと、心の中の悪魔が囁く。そうすれば楽になると、天使がささやいている。でも、認められなんてできやしない。
そう葛藤していると、気がつけば、私はテタニに抱きかかえられていた。
「サーシャちゃん、無理をしちゃダメ。悪いのは、全部アタシなんだから。……トシフ。実はアタシもね、スツケークを離れようと思ってた。アタシの薬を必要としている人たちが、アナトルにたくさんいる」
「……そうか。ならば、改めてここで、俺と、ローレンス、サーシャ、そしてテタニにユゥのパーティの解散を宣言する。確認するが、異論は……ないようだな。それでは、ご安全に!」
「ご安全に!」




