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Ⅱ-20:総連

「我は、その時起きたことを信じられませんでしたな。まさか、スライム属、それもファージスライムに大量の水をかけるなど、自殺行為にも等しい」


 さらに悪夢はそれだけではなかった。ファージスライムに包まれたその愚か者は恐らく半狂乱状態となり、逃げだすために更なる水の魔術を使ってしまったのだ。

 確かに、そうすればその愚か者の周りは水で満たされ続け、スライムに食らわれるまでの時間稼ぎにはなっただろう。しかし、それは同時にファージスライムへの餌付けと等しい行いでもあった。そして非常に残念なことに、こういった愚か者に限って変に優秀なのである。恐らくマナ切れになるまで水を出し続けたのだろう、圧倒的な質量が残された人々を襲う羽目になったのだ。


「さっきから、Bランクのファージスライムを雑魚だと言ったり、妙に常識外れの学生が多いじゃないですか」

「……お恥ずかしい限りですな。そして、その結果としてかのファージスライムは人食いの可能なサイズまで一気に成長、我々に牙をむいたのですぞ」


 その時である。老人とトシフの間に、棘のついた太い蔦が降ってくる。

 その蔦を追ってみれば、黒髪の身長が五フト程の人が、顔を真っ赤にしていた。


「さっきからボクのトモダチを、常識外れだの愚か者だの好き勝手言って!

 普通に考えて、スライムなんて雑魚敵の代名詞、こんなに強いなんて思うわけないじゃん!」

「実際馬鹿だろ。スライム属に木と水は禁忌なんて、Cランクの冒険者ですら常識だぞ」

「常識だって言われてもね、そもそも僕たちはSランクとは言ったって、喚ばれたばっかなんd」

「そこまでです、ユーキ・サヌキ。いくら忌々しい悪魔(サピエンス)の仲間とは言え、ここはウィコット皇国。アナタは後に勇者、我らが人類(ターレンシス)の希望となるお方なのですから、こんなところで魂を汚すべきではありません。……アヴ老師。{離脱(エスケープ)}を使いましょう。早くしないとユーキ様が汚れてしまいます」


 もう一人の生存者が、ユーキを羽交い絞めにして言う。


「ノーマン殿、貴殿は礼というものを知った方がよいですぞ。そして……」

「俺はトシフ。それと、ローレンス、サーシャ、ユゥだ」

「トシフ殿。我々はユーキ殿が暴走する前に、コメイヴまで連れて帰らねばなりません。最後に、もう一度礼と謝罪の言葉を贈らせていただきますぞ。では、ご安全に!」


 では、ご安全に。そう言うと老人は呪文を唱え、二人を連れてどこかへ消えていった。

 私達ももうここにいてもしょうがないので、遺跡を出て道すがら今日の出来事を整理しながらヒムーニャの村に戻る事にした。


「全く。あのじいさん感謝の言葉を贈る相手を間違えて。まあ、報告書に乗せられる程度には聞けたからいいか」

「しかし、やはり総連(アライアンス)は好きにはなれませんね。人の事を悪魔呼ばわりするとは」


 まあ、それでもウィコット皇国内ではしっかりとウィコット皇国の法に従う分、最低限の分別はあるのだろう。

 でも私はそれよりも、あのユーキという人が気になる。


「そもそも、あんな情緒不安定な子をよくSランクに認定したよ……」

「サーシャ、一応言っておくが、総連(アライアンス)連合(ユニオン)じゃランクの概念が三つずれてるからな?」


 総連(アライアンス)のSランクは俺達で言うCランクだ、とトシフは言う。そうなのか、めんどくさいな。

 でも、それよりも気になったこと。それは。


「喚ばれたばっか、って、どういうことだろうね?」

「恐らく世界を歩く者ディメンジョン・ウォーカーかと思われます。妾の知る限りでは、その召喚術は七百年前に使えなくなっているはずなのですが」

「……言われてみれば、確かに気になるな。一応報告しておくか」


 ……そういえば、ロセが言っていた。神聖スコトリア皇国では、異世界への扉を開く研究が盛んに行われている、と。

 だと、するならば。


「神聖スコトリア皇国、ですか。そういえば、あのターレンシス、黒髪の人を『後に勇者になる』と言っていましたね」

「これは妾の推測ですが、この世界のことをなにも知らぬ世界を歩く者ディメンジョン・ウォーカーを勇者と囃し立て、魔物を滅ぼさんとしているのではないでしょうか。あのユーキという方だけでなく、最初にファージスライムに殴り掛かった者、そしてファージスライムを肥大化させたのも、恐らくは」

「確かに、あの国(スコトリア)そしてそこの人(ターレンシス)は、総連(アライアンス)の中でも最も過激な人間至上主義を掲げる奴等だ。魔族を取り込めぬなら異世界の人間を召喚して取り込む。正直疑わしかったが、今思えば奴等ならやりかねん」


 これはヒムーニャじゃなく、オウォッキャンまで戻って報告した方が良さそうだ。トシフはそう言うと、歩きながら報告書を書き始めた。危ないよ?

★Tips:人間

この世界において、単に人間と言った場合、以下の5つの近縁種を指す。

・サピエンス

 主にアナトル連邦に生息。大柄で、色黒。髪の色は黒く縮れ気味。

・ターレンシス

 主に神聖スコトリア皇国に生息。大柄で、色白。髪の色は黄色系。

・アイナース

 主にアイヌア帝国に生息。大柄で、色白。髪は子供のころから皆白髪で、目が赤い。

・アトラス

 主にウィコット皇国に生息。小柄で、肌の色はやや濃い。髪の色はリッチブラックだが、ストレスや加齢で一部の色素だけ落ちてカラフルになることがよくある。

・エレクトゥス

 主にフィルミク王国に生息。小柄で、色白。髪の色はパステルカラー。カラフル。


なお、サピエンスはターレンシスを、ターレンシスはサピエンスとエレクトゥスを、アイナースはサピエンスを、エレクトゥスはターレンシスをそれぞれ人間ではないと主張しているが、人間以外からすればこの5種族全部ひっくるめて人間である。

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