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Ⅱ-14:傾向と対策

★おしらせ

改稿作業は無事終了しました。ありがとうございました。なお、今回はサブタイトルの話数の変更を見送りましたが、こちらについても16日未明に現第Ⅰ章の変更、続けて18日未明に現第Ⅱ章の話数振りなおしを行います。

具体的には、16話までは10話繰り上げ、18話以降11話繰り上げとなります。

今度はURLの変更はありません。よろしくお願いします。

「さて、脱出口探しはいったんローレンスに任せて、先にファージスライムの情報を教えておこうか」


 先に奴があの壁を突破するかもしれないしな、とトシフ。ありがたく聞いておこう。

 ファージスライムは、洞窟の掃除屋の異名を持つ生物だ。洞窟内にコケやカビが生えてないのも、こいつのおかげだと言われている。

 その特徴は、何と言ってもその貪食性。知覚範囲内に入ったあらゆる生物を貪るまで止まることを知らない、Bランクの魔物だ。

 食えば食うだけ大きくなり、そして何も食べる者がなくなった時、一リンタン程度のサイズになるまで分裂を繰り返す。

 そもそも、スライム属自体の共通事項として、倒すには体の水分を抜ききってしまうか、活動不能なレベルまで小さく刻むかだ。中途半端な切断は、自ら分裂するのと大差がない。その活動不能レベル、というのは種によってだいぶ違う。あのファージスライムはそもそもが巨大な種なので、一シタンほどで活動不能になってしまうが、小さい種だと一ビタンでもまだ動くらしい。

 ただ、せっかく切り離しても、その切り離した部分(ジェリーと呼ぶらしい)を再び食べる――自食(オートファジー)と呼ばれる現象。これを起こされてしまうと、その分が本体の体積に戻る。つまり、せっかく切り離した意味がなくなってしまう。なので、普通は水分を抜く方がメインの倒し方になる。

 しかし、奴は大きすぎてそれは厳しかった。ならば、だんだんと体を少しずつ削っていくしかない。


「めんどくさい相手だね」

「……貴女様がそれをおっしゃいますか」


 私はただのカビだよ。そもそも、私が切られても大丈夫なのは森にいるときにミーシャが面白がってあまりにもブチブチやるもんだから、即座に≪中心教義(セントラルドグマ)≫で傷口を塞ぐ術を得たからであって、それが無かったら三十分くらいは体液が体外に垂れ流しにされてしまう。


「にしても、だ。縦が六フト、横が四フト程の楕円形の坑道を三十フトほど行ってもキリが見えないって、どんだけ食わせたらこうなるんだよ」

「確かに既に妾が無力化した分だけでも六タン、分裂すれば六百体ほどになりますね……」


 静寂が訪れる。


「……よし、出口を探そうか」


 これを倒すのは無理である。事実上のそういう宣言だ。

 不定形になり、菌足を伸ばす。人形だと一方向にしか探せないから、複数方向に同時に伸ばせる分迷路を解くのはこっちの方が有利だ。

 だけれども、調べれば調べるたび、行き止まりだけを見つけることができた。

 結局、二時間ほど調べたが、この先に出口は無かった。

 四人で、即席の壁を見つめる。

 ……わかっている。もう戦うしかないのだと。このままだと、嫌気呼吸のできる私はともかく、残りの三人は死ぬ。壁の向こうに視点を移せば、こちらに押しかけているファージスライムの、底抜けかとも思える巨体が見えた。

 まぁ、そう簡単には撤退してくれないよね……。


「トシフ、ファージスライムって、どのくらい細い隙間を通れる?」

「何を考え……あぁ、お前は、どこまで細くなれる?」


 よし、通じたようだ。


「髪の毛くらいなら余裕」

「ならば少なくともお前の方が狭い隙間に入れるな。じゃあ、ハニー・トラップを……」

「それは無理」


 だってあれ、テタニに聞いた感じじゃ筋肉動かなくするだけだから、そりゃあ心臓が筋肉でできてる動物には効果は抜群だろうよ。

 でも、どう見てもファージスライムに心臓どころか筋肉があるようにはとても思えない。つまり、ハニー・トラップはファージスライムにとっては毒ではないのだ。


「なるほど、もっともだ。じゃあローレンス、ラジングルマはそのくらいの穴は通るか?」

「どうです、ラジングルマ。……駄目みたいですね」


 いや、だからその穴から攻撃しようってんじゃぁ無いよ。

 流石にファージスライムとはいえ、最大流量は断面積に比例するはずだ。ならば、できるだけ小さい穴を開ければ、その穴から出てくるファージスライムも、にょろにょろとしか出てこないはず。

 それで切れば、少しずつとはいえ安全に削ることができるのではないだろうか? というのが、私の仮説。

 イメージとしては、スナック菓子の製造機だ。


「あぁ、確かにそうすれば安全に削れるが……時間がかかりすぎるし、何より壁にへばりつかれたら切るのが大変だ。下手したら壁ごとざっくりいっちまう」

「じゃあ、小刀か何かで蓋をするようにすれば……」

「ファージスライムは金属すらも食うんだ、切ったら素早く剣をスライムから離すのが鉄則だぞ?」

「でも、見る限りこの岩の壁は食べてない」


 その言葉に、トシフがはっとする。そう、ファージスライムは有機物や金属を食べるが、岩を食べていないのである。

 それは、洞窟が、洞窟という形で残っているのを見れば火を見るより明らかだ。


「そうか、そういうことか! ローレンス、黒曜石や水晶の小刀ってあるか? それと、鉛筆と和紙も出してくれ」

「ありませんが、ガラスなら最悪ここでも作れなくは……あっ、テタニさんがいないから熱源が」


 ……テタニが抜けた弊害がここにも出ている。私としてはそろそろ許してあげてもいいと思うんだけど、トシフはまだまだ許す気はないらしい。


「ガラスは衝撃には弱いですが、腐食に強いですから問題はないでしょう。熱源ならば、妾が用意いたします。漢字の魔術はマナ効率は悪いですが、汎用性には自信がございますゆえ」

「決まりだな、サーシャ。お前の考えている構造を、この紙に書いてくれ」

★Tips:毒

この世界では、毒というのを明確に定義することはできていない。一言に毒と言っても、その構造や作用原理は種類ごとに異なるからだ。故に、毒の種類ごとに効く/効かないは判断され、例えば猛毒のハニー・トラップはその作用原理故にいわゆる真正後生動物にしか作用せず、その他の存在には無毒である。

同様に、完全な毒耐性や万能な解毒薬という物は存在しないが、キングモービィは自分自身ではない物すべてに抗体を持っていたため、ほぼ完全な毒耐性を持っていたといえる。

しかし、いくら抗体を持っていたとしてもその抗体が作用するまでにはタイムラグがあるという脆弱性だけは克服できず、その隙をサーシャにつかれてしまった。

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