Ⅱ-15:試行錯誤
私が設計図を描いている間に、ローレンスは発掘で出た岩石を取り出し、そして仕分けていた。探しているのは白っぽい石、俗に珪岩だとかチャートだとか呼ばれているものである。
見つけたそれらの石は粉々に粉砕して、ユゥが即席で作った炉に放り込む。これが、ガラスの原料になるのだという。
「ローレンス、一回厚さが三リンフト、底が直径一フトで長さがその倍ほどの円錐状の管を作ってもらえるか? 頂点にほんの小さな穴をつけて。」
「お安い御用です」
「よし、頼む。サーシャ、まず円錐状の管で一回このファージスライムがどれだけの穴を通れるかを確認してから始めよう」
ローレンスがガラスを作るのを待つ間、三人で設計を修正する。材料は、始めは粘土を固めて造る予定だったが、ローレンスが頑張ってくれるらしいのと、オウォッキャンの冒険者組合に持って帰って説明をしたいとのことなのでので、ガラスをメインとすることになった。
そしてできたのがこうだ。まず、円柱内部を円錐でくりぬいた流量調節部分、そして台形柱状の蓋兼刃とそのガイド部だ。
ローレンスの円錐が完成した。代わりに設計図を渡し、先に設計がこれ以上変化しない刃から作ってもらう。
壁の半分程度まで事前に穴を掘り、円錐を粘土で固定する。
そして、{渦水流}でファージスライムの通るトンネルを開通。思惑通り、三角錐の中ほどまでぎっしりとファージスライムが押し掛ける。
でも、空気穴があるにも関らず一定以上前には進まなかった。
「……五リンタンくらいか? 思ったより狭いところ通れねぇんだなコイツ」
「もう少し、空気穴を大きくしてみようか」
内径が二リンタンほどになるところに、割れてしまわないように注意深く溝をつけ、折る。
……やっぱり、ファージスライムは出てこない。
トシフが、設計の変更をローレンスに伝えに行った。その間も、ファージスライムからは目を離さない。
円錐の先でピロピロと菌足を揺らすと、ファージスライムは食らいつかんと必死に動く。
このサイズだからだろうか? こうやって見ていると……案外コイツもかわいく見える。
いや、まあ、壁の裏の通路を埋め尽くしていることを考えると軽く恐怖だけどさ……。
暇なので、怖いもの見たさに菌足をファージスライムの方まで伸ばしてみる。
スライムさんこんにちは、カビだよ~。なんちゃって。
あっ、食べられた。そうやって体内に取り込んでから、溶かそうとするのね。
だけれどもね、私だってただ食べられるのを眺めていられるほどアホじゃないんだ。
効かないだろうけど、一応ハニー・トラップを流してみる。……うん、普通にうごめいてるな。
ならば、菌足を伸ばしてその各々の表面からファージスライムの水分を吸い取る。君が溶かすのが先か、私が吸い上げるのが先か。
「何してんだお前」
その声に菌足をしまい、後ろを振り返る。三人がガラスの器具を持って立っていた。
「いや、ずっとファージスライム見てたよ?」
「そういうことを聞いているんじゃなくてだな……。少しは緊張感持ってくれ。……まあいい、組み立てるぞ」
壁の別の場所に穴をあけ、同じように固定。そして、刃の方のセットもしてから、貫通させる。
ファージスライムが、流れてきて、蓋の前で止まる。よし、ここまでは大丈夫だ。
「じゃあ、開けますよ……」
持ち上げる。ファージスライムが出てくる。落とす。切れる。動かなくなる。そして、しまう。
よし、成功だ!
あとは、これを繰り返すだけ。繰り返す、だけ、だ……
「そういえば、何回繰り返せばいいんだろう?」
「……え、お前それ考えてなかったの?」
うん、確かに安全だけど、例えあの通路全体が大きさだったとして、一度に削れる体積は一シタンだから……。
「十二万回……?」
「……それ、どんだけかかるんだ」
「五秒に一回として、百六十六時間半……」
うん、今回は巨大すぎたんだ、敵が。単純に分裂しても四桁は余裕の大きさ。それをさらに細切れにするなど……前提からして正気の沙汰ではない。
「……この単純な往復運動であれば魔道具として自動化できますし、次以降は刃以外は粘土で作ってしまえばいいですが」
「問題は収納だな。サーシャ、一度動かなくした奴ら同士ってぶつけても大丈夫だったか?」
分からない。けど、やってみるのが早いだろう。二つのジェリーを取り出してくっつける。
……大きいジェリーになった。じゃあ、それを増やしていくと?
……五つ目で、動き出して襲い掛かってきた。とっさに魔法陣を展開して燃やす。
「……ダメみたいですね」
「いや、ジェリーの段階で燃やしてしまえば……」
「それでいいなら火属性の魔法陣の上に垂れ流すけど」
魔法陣を展開して蓋を開ける。当たり前と言えば当たり前だけど、ファージスライムは出てこなかった。




