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Ⅱ-7:追放

 研究室に、静寂が訪れる。と同時に、騒ぎを聞きつけたキイヨとトシフが奥からやってきた。


「ローレンスさんから話は聞いてたっすけど、完全に精神崩壊してっじゃねーっすか。やりすぎっすよ……」

「まさかあなたたち、ヒプナーゼ投薬状況下のサーシャさんに何度も繰り返し『かわいい』と言い続けて……」


 ローレンス、その予想で大正解だよ。そのせいでさっきみたいに精神崩壊してたんだよ。


「かわいい娘にかわいいって言わないのは逆に失礼でしょ?」

「らーはーらーはわいいっせ言わないれっせ言っせるれしょ!」

「サーシャ、心の傷が広がる前に三角錐に戻っておけ」


 そう反論する私を案じてトシフは言う。そういえば、なんで戻ろうとすら思わなかったんだろう? もう、催眠状態ではないはずなのに。


「さて、テタニ……ローレンスから聞いた話から想像できた状況以上にひどいことになってるが、お前使ったの本当にヒプナーゼか?」

「それは本当だって!」

「あのな、ヒプナーゼは確かに物事を覚えるという面では有用な薬だ。俺だって発表の前とかに飲んだことはある。でも、普通に使ってたらこうはならないだろ……」

「アタシだって、これでも薬師の里の出なんだから、きちんと用法容量守ってるって! 十シオモス分しか投与してないし、生まれたばかりの赤ちゃんに対して経口摂取で一日最大五シオモスが上限だから、サーシャちゃんだと全然問題ない量でしょ?」


 再び研究室が静かになる。

 ……いや、あれどう考えても経口摂取じゃないだろ。

 ってことは、もしかしなくても服用上限超えてしまっていた可能性があるのか。


「テタニ様。人形の重さをサーシャ様の体重に加算して計算するのはよろしくないかと」

「あーし達が昨日にサーシャさんを量った時は百四十オモスくらいだったっすね」

「そもそもテタニさんが薬をかけたとき、サーシャさんは豆粒より小さくなっていましたよね」

「あ、あああああ! アタシは、なんてことを……!!」


 一瞬で顔が青ざめ、これでもかというくらい私に解毒術式をかけるテタニ。

 えーと、つまりどういうことだ? そういえば、薬の投与上限って体重に比例するんだっけ?

 生まれたばかりの赤ちゃんはだいたい三キロ、百四十オモスは約四キロらしいから、単純比例で上限は最大約六・七シオモス。ってことは、ただでさえ許容量五割オーバーだ。

 で、これは人形から出た時の、限りなく今現在の最大サイズに近い状態での重さだ。しかも、あの時は可能な限り小さくなっていたから……。

 私は一体、許容量の何倍のヒプナーゼを吸収していたんだ? 考えるのも怖い。

 と、いうかテタニが薬効を消去できるからまだよかったものの、これをできずに勘違いしたまま普通に切れるのを待っていたとしたら……、私は確実に、文字通りの操り人形と化していただろう。

 うん、いままでテタニ側についてたユゥが一瞬で擁護をやめて追及に回るのも当然な事実だ。


「ごめんなさいサーシャちゃん、完全にアタシだけが悪かったです……。こんなのが、薬師の里で神童と呼ばれてたなんて、笑っちゃうよね……」

「……お前、明日からサーシャの心の傷が癒えるまでサーシャとの接触禁止な。それと、当面の間はパーティから外させてもらうぞ」

「そ、そんなー!」

「一体どこの誰が仲間に平気で服用上限の何千倍もの薬盛る奴に安心して背中を預けられると思ってるんだ、少しは反省しろ!」

「……トシフ様。妾にも罰をお与えください。妾もテタニ様があれだけの量を投薬されたとは存じていなかったとはいえ、サーシャ様の心を汚してしまったことには変わりありません」

「……サーシャ、どうするか? テタニとは違って、彼女には俺から与えられるべき罰は無い」

「え? 私? うーーん? ……ヒイヨ、なんはない?」


 ほら、ユゥって一応キイヨの自称秘書だし。


「あーしっすか? トシフ、どーせしばらっくぁヒムーニャもぐっすよね? じゃあ、ユゥさん。テタニさんが抜けてる間、その分トシフたちのパーティの補佐に回るっすよ」

「まぁそうだが……。サーシャ、ユゥが隣居ても大丈夫か?」

「うん、まぁ……、たら働ひね」


 衣料品売り場じゃないし。

 テタニが「信じらんなーーい」とか言ってるけど無視だ無視。今日一日の自分の行いを振り返ってほしい。

 少なくとも、ユゥは誰も薬漬けにはしていないのだから。


「と、いうわけだ。よろしくな、ユゥ」

「よろしくお願いします」

「よろしふね、ユゥさん」

「いえ、寛大なご処分に感謝いたします。 トシフ様、ローレンス様、そしてサーシャ様。どれだけの期間となるかはわかりませんが、よろしくお願いいたします」

「あぁ、じゃあ、明日は俺が今日仕分けした魔導具(アーティファクト)の売却で一日潰れるだろうから、明後日からヒムーニャに向かおうか。それまでに、調査の準備をしておいてほしい。集合場所は西門だ」

「承りました」


 こうして、テタニの暴走は幕を下ろした。テタニは当面の間はスツケークにいる知り合いの農家さんに身を寄せ、近くの森で薬草研究に精を出すとのことだ。

★Tips:重さの単位

重さの単位には、一般的にオモスを用いる。

1オモスは、10ビタンの水の重さであり、現実の1オンスと等しい。

また、小さな重さの単位としてシオモスがあり、10000シオモス=1オモスである。


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