Ⅰ-40:魔法陣
キイヨに連れられ、所狭しと棚の並んだ研究室の奥の、机の上に置かれる。
「トシフから聞いてると思うっすけど、明後日までサーシャさんを預かることになったキイヨ・ミッパラっす」
(サーシャです。……その話自体さっき初めて聞いたんだけどね)
「えっ、トシフの馬鹿話通さずに賭けをしてたっすか? それは申し訳ねーことをしてしまったっす……」
申し訳なさそうに謝るキイヨ。
うん、この人はトシフよりは常識がありそうだ。
なんだかんだ言ってこの世界来てから拉致されてばっかだったしなぁ。
(いやいや、謝るべきはトシフで、あなたが謝ることじゃないですよ。
どっちにしろここ来ても何もすることなかったし、こういうとこ入るの初めてなんで新鮮です)
「そー言ってもらえっと助かるっす。トシフにゃ後で強く言っておくっすよ。……せめてもの詫びとして、何か困ってっことがありゃ相談してほしいっす」
困っている事……? だいたい最近は出国審査に引っかかったり、トシフに物扱いされたり……。
うん、振り返れば振り返るだけ見た目で損してるタイプだな、私。
(人型に化ける魔族の話って聞いたことないですか?)
「ん? それなら王国の東の大森林にいる獣人達とかっすかね。もっかしてサーシャさん、人間になりたいっすか?」
まあできれば人間になりたいけど、まあそこまで行かなくとも、せめて……
(舐められたり、物扱いされたりしない程度の姿にはなりたいなぁって)
「あー、うん、なんとなく苦労してった感じがわかるっすよ……」
今のところ言うほどは苦労はしてはいないけど、これからを考えると積極的に行動を起こして情報確保に動けないのが致命的でね。
そんな話をしていると、ユゥがカップに入れたスープを持ってきてくれた。
茶色くて、透き通っている。これは……。
「ブイヨンでございます。お口に合うかは分かりませんが……」
(いえ、ありがとうございます)
体を伸ばしてブイヨンに突っ込む。これ、結構おなか膨れるな……ん?
何か、視線を感じる……。
(何見てんの?)
「その体本当にどうなってんすか? というか、サーシャさんって何者……?」
(普通の話ができる魔導埃黴だけど?)
「どの一つ抜けても違和感少ないのに三つ揃うと違和感しかないっすね」
三角錐体をやめて平べったくなる。あまり広がりすぎてもあれだし体の一部を≪多次元収納≫にしまって、と。
……二人ともまじまじとこっちを見ている。なんか恥ずかしいなこれ。
「魔導埃黴ってことは、魔法陣作れるんすか?」
(ここでやると部屋が……)
「では、妾が実験室の準備をいたします」
「あぁ、頼むっすよユゥさん」
……あれ? なんか実演する流れ?
っていうか魔導具はいいんか。そう聞いたら「解析術式は既に回してっで待つだけっすよ」とのこと。
キイヨは記録用具を準備すると、私を連れて実験室へ向かった。
……やっぱり物扱いされてるじゃないか!
実験室では、{渦水流}の魔法陣を再現することになった。
一度に複数の魔法陣を作らさせられたり、魔法陣の大きさを変えてみさせられたり……。
ここではじめて知ったんだけど、同じものを出すのにも魔法陣の方が使う魔力が少なくて済む。
あと、魔法陣って大きさを変えると比例して出てくる魔法の出力も変わるのね。
その後も、他の魔法陣を作らされたり、魔法陣について気の済むまでやった後は体がどれだけ伸びるのかとかを試されたり……。
そんなかんだで、夜遅くまでで私の体について研究されていた。
私の体自体は睡眠は不要だし、フィードバックで得られたものも多かったけれど、この二人はずーっとハイテンションでいろいろやってて大丈夫なんだろうか?
そもそも、どうして実験される側の私が実験する側の彼らの身を案じているのだろうか……。まぁ、本人たちがそれでいいならいいんだけどさ。
「いやー、魔法陣についてもひっさしぶりに面白いことがわかったすよ。ありがとっす、サーシャ」
(私は無意識にあの形作ってたんだけどね……)
「無意識、偶然ってのは、ブレイクスルーの重要なきっかけっすから、謙遜しないでそのまま受け取ってもらえりゃいいっす」
いい笑顔でそう言うキイヨ。うん、さっきまでさんざん振り回されてたはずなのにこの人憎めないわ。
「サーシャ様、少し、よろしいでしょうか?」
(うん? 何、ユゥさん)
「いえ、先ほど、人型になる手段を探しているとおっしゃっていましたが……、妾の実験にも手伝っていただけるのでしたら、近しい手段を提供できるかもしれませんが、いかがなさいますか?」




