Ⅰ-39:キイヨの賭け事
結局キイヨが目を覚ましたのは、暇になったローレンスが机の上に魔導具を並べ終わったころだった。
「気が付きましたか、キイヨさん。これらが、カチュアの森で発掘された魔導具です」
「おぉ、これらがそうなんすね。じゃ、早速研究室に運んで解析するっすよ。
冒険者組合にはあーしから連絡入れとくんで、あー……夕方また来てほしいっす」
そう言うとキイヨは奥の扉を開け、机の上の魔導具をテーブルクロスごと持ち上げた。
……ってちょっと待て。
(私は魔導具じゃないってば!)
「うわっ! 夢じゃなかったんすか!? 喋る魔導具なんて珍しいもん見つけてきたっすね……。まぁいいっす、やること変わらねーっすから」
うん、魔導具に化けてたけどさ、私は魔導具じゃあないんだよね。
三角錐体から不定形に戻って、組合員証をつきつけると、キイヨはトシフに説明を要求した。
私に直接聞いてくれてもいいのに。
「……なるほど、エルダー・カチュアのっすか。トシフ、今日一日この子借りていいっすか?」
「駄目だ。絶対魔導具後回しにするだろ」
「当たり前じゃねーっすか! 絶対こっちの方が面白いっすよ」
「アホか。連合の依頼が優先だ」
トシフとキイヨが言い争っているのを横目に、テタニの杖の先端に戻り、気づかれないようにテタニとローレンスとで外に出る。
久しぶりの再会なんだ、お邪魔虫はとっとと退席して、二人で仲良くやってりゃいいのさ。
その夜。報告内容の確認のため、トシフに連れられて私達は再びキイヨの研究室を訪ねた。
キイヨはまだ研究に没頭しているらしく、秘書のユゥという方が奥の研究スペースからキイヨを呼んでくる、と一礼して奥に入っていった。
椅子に掛けてしばらく待っていると、奥からキイヨがやってきた。
「待たせちゃってすまんっす。いやー、ヒムーニャじゃ見ないタイプのもあって興味深いのばっかだったっすよ」
そう言って彼は数枚の紙束をトシフに渡した。
「一番やべーのはこのスコップっすね。
ただでさえ勝手に整地してくれるっぽいんすけど、名前ありで、ぶっ刺した対象から使用者にマナを吸い上げるとかゆーとんでもねー能力があったっすよ」
名前ありの魔導具は、その魔導具が持ち主と認めた人がその名を呼びかけることで、能力と呼ばれる強力な力を発揮するものがある。
ローレンスのラジングルマなんかも名前ありだ。
「うわ、えげつないなそれ。
……ん? この『不明』って何だ?」
トシフがリストの一番下を指さして言う。
するとキイヨは先端が曲がった十手のような長い棒状の物を机に置いた。
「あぁ、これなんすけどね。解析してみると魔法陣を描く道具っぽいんすけど、どう見ても筆記用具じゃないっすよね」
「兜割、鎧や兜の上から打撃を与える打撃武器、だと思うのですが。しかしこれでどうやって魔法陣を描けというのでしょうか……」
ローレンスが続ける。マイナーな武器だったようで、ローレンスでさえトレイニアのアカデミーで調べて初めて知ったらしい。
「兜割って言うんすね、じゃあこの『不明』を訂正しとくっす」
「頼む。……それでもよくわからんが」
「魔導具なんて変なのばっかっすから……。
じゃ、これで明日連合に報告出すっすけど、皆さんこれで大丈夫っすよね?」
全員で一応目を通し、肯定の旨を伝える。
「じゃ、今奥で回してる詳細な解析が終わるのが明日の昼頃になりそうっすから、明日のこの時間に魔導具受け渡しのために来てほしいっす」
「あーっと、明後日の朝じゃダメか?」
「じゃ、明後日の朝にするっす。それとトシフ、約束っすからね、サーシャさんは借りるっすよ」
そう言うといつの間にか真後ろにいたキイヨは私をひょいっと持ち上げた。……え?
(おいトシフ、聞いてないぞ。何勝手に約束してるんじゃ)
「すまんサーシャ、明後日迎えに来るから。
まさか本当にここまで整理した報告まとめてくるとは思ってもいなくてな」
話を聞けば、トシフとキイヨで賭けをして、報告の草案ができていたら一日私が貸しだされるという謎の賭けをしていたのだとか。
テタニやローレンスには、私が聴覚を切っていた食事の時に話を通していたらしい。ちくしょう
そうしてまたもや私は、私の意思は無視されて研究室の奥に連行されていった。




