Ⅰ-38:オウォッキャン
翌朝、駅馬車はスツケークの町に到着した。
スツケークの町は、緑豊かでのどかな、一見どこにでもありそうな田舎町だ。
では、なぜこんなところまで線路が引かれているのか?
それは、この町のとある施設の存在が大きい。
その施設の名は、ポータル。特定の流れの地脈を持つ一対の場所同士を、一瞬で移動できるというまさに夢のような最先端の技術だという。
そして、ウィコット皇国の知の集積地たる魔導特区ミグラはオウォッキャンに設置したポータルと、たまたま対になるものを作ることができたのが、このスツケークだったのだとか。
つまり、ポータルを使える者にとっては、ここスツケークは事実上オウォッキャンと同じ町なのだ。
ポータルを使えるのは、ウィコット皇国の国民と、Cランク以上の連合の組合員、そして彼らに同行する連合の組合員のみ。
このような限定された利用ながらも、線路が敷かれる程度には利用されているといえば、この施設の威力がわかるだろう。
ポータルの係員に組合員証を見せてポータルを通れば、緑豊かであったスツケークとは対照的な、石造りの街並みが視界に広がる。
「着いたぞサーシャ。ここがオウォッキャンだ」
オウォッキャンの町は、この世界で今までに見たどの町よりも発展していた。
まず何よりも、この足元。石畳……つまり、舗装されているのである。
そして、建物タオ・ターミナルが五階建てなことに驚いていたが、この町では五階建て程度の建物なんてごろごろしている。
それに、もう一つ。町を囲む、大きな壁。これも、今までの町では見かけなかった施設だ。
「お、おぉ~」
「気に入ってもらえた? この学院地区を!」
あぁ、確かにすごい町だ。それに、早朝故人数こそ少ないが、町行く人たちだって、……ん?
あれ? たしか、ここも一応ウィコット皇国の中だよね?
でも、気持ち獣人達の密度が濃いような……?
「あぁ、この町は連合の作った町でしてね、皇国民と連合の組合員以外は入れないのですよ。ですから、スコトリア人も少なく、魔族たちも比較的安心して暮らせるのです」
詳しく話を聞けば、魔導特区ミグラは中央にあるヒムーニャ遺跡群を境に大きく二分されており、南側が連合の資本が入って発展した学院地区、北側が総連主導で開発された研究都市と呼ばれているのだという。
そして、その学院地区の中枢となっているのが、ここオウォッキャンなのだとか。
それゆえ、ここオウォッキャンに立ち入ることができるのは、ウィコット皇国民と連合の組合員のみ。
逆に研究都市側にもウィコット皇国民と総連の組合員しか入れない町もあるのだとか。
ミーシャの言っていた通り、どうも人間も一枚岩ではないらしい。うーん、仮に妹が総連側に入ったとなると、情報集めがめんどくさくなりそうだ。それでも、どっちにも属していないよりかは探しやすいだろうけどね。
「おーい、キイヨ、いるか?」
トシフは一つの建物の前で立ち止まり、中にいるであろう人を呼びつけた。
早朝ではあるが、中の人も起きていたようで、「ふぁ~い」と気の抜けた声が返ってくる。
間もなく、その声の主は扉を開け、気怠そうな姿を私たちの前に見せた。
「何すか朝早くから……? ってトシフ、戻ってきてたんすか!?」
「いや、タオの組合長からも話来てるだろうし、俺も六日前にトレイニアから連絡入れたよな?」
「今日くらいには来るとは思ってたっすけど、今何時だと思ってるっすか? ……まいいや、魔導具持ってきたんすよね? ほら入って入って。お二人さんも」
私達もトシフに続いて建物に入る。
入ってすぐのスペースには机と椅子があり、その椅子に座るよう案内された。
「紹介しよう。こいつはキイヨ、こんなんだがれっきとした博士だ」
「うっす、あーしゃキイヨ・ミッパラ、このトシフとは昔っからの腐れ縁っすよ」
「僕はヒジャーズのローレンスです」
「アタシはテタニ、よろしくね」
(どうもはじめまして、サーシャです)
「あぁ、トシフから話聞いてるっすよ。トシフがお世話に……あれ? 一人多くないっすか?」
「ん? 最初っから人数は変わってないが?」
トシフの口元はにやけていた。これは、悪だくみをしている顔だ。ローレンスとテタニの眼も笑っている。
よし、思いっきり乗っかろう。
「うん、変わってないよー」
(気のせいじゃない?)
「ここにいるので全員ですが」
「いや、絶対気のせいじゃないっすよ!」
「……信用してないようだな。サーシャ、最初っからここにいるよな?」
そのトシフの声に合わせて、テタニの杖から机の上に跳び乗る。
「いえーい!」
「キイヨ、こいつがサーシャだ。な、最初っから全員いただろ?」
そういうとキイヨは口をあんぐりと開けて固まってしまった。
……ちょっとやりすぎちゃったかな?




