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Ⅰ-37:ご安全に

 ハルマティーダの冒険者組合(ギルド)は、始めに総合受付があって、そこで要件を告げてから、詳細な窓口を案内されるシステムになっていた。

 私達の要件は、タオへの経過報告と、レヴィアタンの件の報告。

 タオへの経過報告は、ぶっちゃけそこまで重要ではない。問題は、後者だ。

 話し合った結果、ハルマティーダの組合長(ギルドマスター)宛てには、トシフと船長が頑張って過少記載した表向きの討伐報告書を、トシフ以外の実際に戦闘を行った四人が提出。その間にトシフが最も信頼のおける組合長(ギルドマスター)を経由して、連合(ユニオン)本部へ詳細な報告を提出することになった。

 そんなに慎重になる必要あるのかな? とも思ったが、トシフによると、キングモービィはかつては守護神とまで呼ばれた伝説の魔族らしく、その死が下手に知れ渡ると混乱が発生しかねないらしい。

 ……え? あれ、そんなヤバい奴だったの? 普通に毒殺してしまったけど……。

 というか、仮にも守護神とまで言われた存在なんだから、こんな簡単に毒殺されないでほしい。そうぼやいたら、テタニに「あんなやり方したら解毒も間に合わないに決まってるでしょ!」となぜか怒られてしまった。えー

 こんなんで死ぬんだったら、とっくの昔に他のカビに侵されて死んでると思うんだけどなぁ……。


 閑話休題。

 建前上の報告――と言っても、私は鱗を一枚差し出したくらいで、ほとんどロセが話をしていた――を終え、トシフと合流する。

 私達は一度駅馬車乗り場で足を確保した後、ハルマティーダでも有数の馬肉料亭で夕食(拷問のようなお預け)をとった。 

 四人は料理に舌鼓をうちながら談笑している。ちくしょう


「それで、ロセはこの後どうするんだ?」

「知り合いが、ヒンヌハルとヒジャーズの間に航路を開設するというので、その式典に呼ばれていてな」


 ヒンヌハルは、ハルマティーダから駅馬車で三昼夜西に行ったところにある港町だ。

 残念ながら私達の向かうオウォッキャンは東側なので、ここで別れることになる。


「ヒジャーズって、たしかローレンスの生まれた町だよね」

「あまりいい思い出はないのですがね。でも、近々訪ねようとは思っていたので、行きやすくなるなら大歓迎ですよ」

「そうかぁ、喜ぶと思うぞ。その知り合いはハルマティーダまで乗ってきた船の会社の社長なのだが、十中八九水夫たちの報告も聞いてるだろうしな、雷光の守護者さん」

「なんで貴女がその名前知ってるんですか……。恥ずかしいので、できればやめてほしいのですが」


 どうもローレンス、流れ弾を全部撃ち落としたとか、水蒸気爆発から船を守ったのだとかで、水夫たちに渾名をつけられていたらしい。

 その話をニシオギクボから聞いた時は、その場にいたロセやテタニと一緒に爆笑したっけ。


「俺なんてAランクにもなったのにそういうの全くないんだぞ、羨ましいぜ、雷光の守護者さん」

「そうそう、そんな恥ずかしがることもないのに。雷光の守護者さん」

(私なんて認知すらされてなかったんだからね、雷光の守護者さん)

「三人まで……。もういいです」


 そういって俯くローレンスの顔は、まんざらでもなさそうだ。

 そうして和気あいあいと食事(拷問)の時間は過ぎていった。

 乗り場にて、西行きの駅馬車に乗るロセと、別れの挨拶をする。


「では、お互いまた、いつか会おう。ご安全に」

「「「ご安全に!」」」

(ご、ご安全に)


 あまり慣れないのだが、「ご安全に」とはこの世界での割とポピュラーな別れの挨拶らしい。

 いつ命を落としてもおかしくない冒険者が、お互いの無事を願う、そんな意味が込められているのだとか。

 さて、私達もぼんやりはしていられない。

 オウォッキャンに向かうため、空席のあった東行き、スツケークまでの馬車に乗る。

 ハルマティーダを中心とする駅馬車は、タオの町を発着する物とは大きく異なる点がある。

 それは、車両の大きさだ。

 スツケークからハルマティーダ、ヒンヌハルを経て、神聖スコトリア皇国との国境の町、ウォクタムへ向かう幹線と呼ばれる系統では、一度に三十人ほどが乗れる車を、最大で二両つないだ馬車が運転されている。

 そんなことして、馬の負担は大丈夫なのかとも思えるが、実際に駅馬車の乗り場に来てみれば、そのような大量輸送力を実現することのできる技術がすぐに分かった。

 なんせ、その馬車の足元を見れば、地を這って等間隔でまっすぐと伸びる、一対の金属ないし石の柱。そう、線路である。馬車軌道、それが大量輸送の秘訣のようだ。

 しかしまあ、全区間乗り通すと快速の駅馬車でも足かけ七日もかかる距離の軌道工事をよくやったものである。

 私達の乗った馬車も、一両当たり二十五人ほどを乗せて、夜の闇の中をスツケークへと走り出した。

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