Ⅰ-34:後始末
「本船の危機を救ってくださいましたことを、船員一同を代表して、この船長ヘーチ・クォーガスクがお礼を申し上げます」
キングモービィに接弦した船に戻るなり、船霊ニシオギクボに連れられ船橋に戻れば、脱帽して海老のように腰を曲げた船長がいた。
「よしてくれ。私は堅苦しいのは苦手でね。それに……アレをどうするかも考えなきゃいかんしな」
ロセのその言葉に船長は顔を上げると、一転神妙な顔をした。
「アレ、とはキングモービィの骸のことですか」
「あぁ。ハルマティーダまで曳航してもらおうかとも思ったが、どうも鱗で曳航索が切れてしまうようでな」
そもそも、マストの折れてるニシオギクボに、曳航できるだけの力があるのかと言えば、無さそうではあるが。
……とは言ったものの。このまま放置するわけにもいかないのも事実。
「頭が痛いですな。漂流した鯨の死骸は下手に触ると爆発しますから、船乗りの間でも避けるのが鉄則。レヴィアタンがどこかに漂着したとなれば、それだけでも大騒ぎでしょうし、下手に触れて爆発したら……考えたくもありませんな」
「うーん、アタシ達が倒した魔物は、基本的にローレンスがしまってくれるから、そんなこと考えたことなかった」
そのローレンスはと言えば、今、船橋の隅でマナ切れでぶっ倒れている。
なんでも、船に降りかかる鱗を一人で撃ち落とし、そして件の水蒸気爆発で生まれた壁のような大波を割って沈没を防いだのだとか。
無茶しやがって。まあ私が言えた話じゃあないんだけど……
しかし、そんな状態でも話だけは聞いていたのだろう。重々しく口を開いて、キングモービィを収納するのは仮に元気でも不可能だと告げた。
曰く、収納系のスキルは容量はほぼ無制限だが、初めてしまうときは体から一定の距離に収める必要があるのだという。
私も試してみたけれど、有効半径はトシフ五人分くらいだった。
「私とて、真ん中に立ったとして収納できるのは半分が限界よ」
「我々にも仕事柄収納系を使える者も多くあれど、この船より大きなものをしまえるものはおらんじゃろうな」
ロセと船長も続けて答える。
「じゃあ、解体しちゃえば?」
「テタニ、お前は戦っててわかってるだろ。あの鱗は切れないぞ?」
いつの間にか部屋からローレンスのために毛布を持ってきていたトシフが口を開く。
大きくて、解体不能。死してなお、運搬と言う面で戦い方を考えさせるとは、非常にめんどくさい奴である。
(まぁ、鱗は硬いって言っても、中身は柔らかかったけどね……)
「中身って、サーシャ、お前どういう戦い方してたんだ?」
(舌の裏から血管に進入して体中に直接毒を流しただけ)
すぐに動かなくなったよ? と付け足すと、トシフにドン引きされた。
どう考えても右目をほじくり返してたロセの方がいろいろエグイと思うんだけどなぁ。
それを告げると、トシフは「どっちもどっちだろ」と、半ばあきらめたようないい笑顔で吐き捨てた。解せぬ
と、この会話で何か思いついたらしい。ロセが急に立ち上がって、私を掴んで真顔でとんでもない事を言い放った。
「サーシャ、お前行ってこい」
無理だって! なんで私ができると思った?
(私だってこの船橋の端から端くらいまでが限界だって)
「何を言っている? 奴を倒した時のように血管に進入すれば、範囲内に収まるだろう?」
……あ。
体からの一定距離、ということを考えると、つい体を点に近似して考えてしまいがちだ。だけれど。私の体は不定形だから、細長くなってしまえば範囲の空間を広げられる。盲点だった。
どうも前の世界での感覚が抜けきっていないらしい。いや、抜けられてもそれはそれでとても悲しい気がするけど……
と、いうわけで。
私は再びキングモービィの体内に侵入することになった。
会議を途中で抜け出し、空を飛んで右目の跡地に降り立つ。そして、鱗を取り出して目の奥を切り裂き、血管の中に侵入する。
体の隅々まで、主要な血管の中に菌足を伸ばす。そして、≪多次元収納≫で、キングモービィの亡骸をしまう。
それは、想像していたよりもあっさりと収納することができたのだった。
……おっと。いきなりしまっちゃったから、大きな波ができかけてる。
{渦水流}で打ち消して、よし。ニシオギクボに帰るか。
また書きダメが溜まってきたら、こういう形のを突発的にやるかもしれません。




