Ⅰ-32:vs キングモービィ 4
さて、私は今、キングモービィの口の中にいるわけだが……
考えようによっては、これって、逆にチャンスなのでは?
実際、キングモービィがダメージを受けたように見えたのは、岩を目に刺した時、ラジングルマがのどに直撃した時、そして、ロセが右目をほじくっていた時だ。
これらの共通点は、鱗の無い場所にあたっている事。
そして、今ここ、口の中には当然だが鱗は無い。
……いけるのでは?
まず、絶対に飲み込まれなさそうな場所に居場所を移す。舌の裏側だ。
さぁ、反撃開始だ。
テタニの使っていた{石弾連砲}を再現し、舌に打ち込む。
……普通に、刺さった。やっぱり、硬いのは鱗だけだ。
よし、ならば{渦水流}ごとしまった鱗を一枚取り出し、舌の裏をなぞる。
スッ……っと、まるで豆腐のように舌が切れた。
おぉ、この鱗、さらっと百枚単位で回収できた気がするけど、相当鋭い。
さて、なんだか苦しんで暴れているようで、上下左右がちょくちょく入れ替わっているけれども、問題ない。
だって、そっちの方が、血液の循環が早くなるのだから。でも、これだけ体が大きいと……そうだ!
私は、カビだ。カビと言うのは、気づかぬうちに深く根を張る生物。
その本能のまま、切り口から血管に入り込んで、その中に菌足を伸ばす。この世界に来てすぐの時のように、細長く、細長く。
体の大きさが足りない? 周りに養分なら大量にある。≪中心教義≫で作り足せばいい。
巨大な体では毒のまわりが遅くなるのなら、私が体の隅々まで、直接届けてやればいい。産地直送だ。
さっき、テタニが鰓に麻痺毒とか言ってたな。
麻痺毒、あるんだよ。これを、体中に、直接、流しちゃうぞー!
さぁ、≪中心教義≫。ハニー・トラップを組み立てるんだ!
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爆発の余波で空を舞っていた二人は、無事着水するなり、海上にお互いの姿を認め、合流することにした。
「大丈夫か? テタニ」
「アタシは、大丈夫。だけど……」
テタニはそう言ってロセに杖の先を見せる。
そこに、もう最近見慣れてしまった三角錐は、ついていなかった。
「あれだけ酷い爆発だったんだ。外れてしまっても仕方が無かろう」
「で、でも、サーシャちゃんは、今どこに!?」
「落ち着け、テタニ。探すのは、あのふざけたレヴィアタンを倒してからでも遅くはない。あの爆発で、奴もそれなりにダメージを受けたようだ。それに……」
テタニがロセの指さす先を見ると……キングモービィが海の上でもがき、何もいない方向に火を噴いていた。
「あのもがき方……見覚えは無いか?」
「……あなたが、目を穿っている時の!」
この時、ロセとテタニは同じ確信を抱いた。
今、サーシャが一人であの化け物と戦っていると。
「どうやってダメージを与えてるかは知らんが、いま、助太刀しようではないか!」
幸いにして、今、キングモービィは最初と同じように、水上にぷかぷか浮いている。
最初にロセがしたのと同じように、二人は右の腹、胸鰭のぎりぎり届かぬあたりから、その体に上陸した。
不思議なことに、キングモービィはもがいてはいるのだが、その胸鰭はピクリとも動いていなかった。
「サーシャちゃん、ハニー・トラップ流してるんじゃ……?」
「何を無駄な。レヴィアタンに毒を流したとして、回りきる前に分解されるわ」
二人は目的の右目跡にたどり着き、中を見る。期待はしてみたものの、ここにはサーシャはいなかった。
ロセは本来目玉のあるべきところを進み、奥の穴に手を伸ばす。
「気をつけろ、テタニ。こいつ、まだ脈がある。だが……」
そう言うとロセは、自らの魔導具:ホールスで、虚空を切る。
「……動くことが、できんようだな。それに、脈があるといえど、水の魔術で強引に流していただけゆえ、止めさせてもらった」
「と、いうことは……?」
「あぁ、キングモービィ撃破だ。……さて。サーシャ! いるなら返事をしろ! どこにいる!」
ロセが叫ぶ。すると、しっかりと、念話が帰ってきた。
(今、血管の中。ちょっとまって、そっち行くから)
「……お前は何を言っているんだ?」
するとロセの目の前、キングモービィの視神経の奥から、にゅるりにゅるりと髪の毛ほどの黄色い糸が出てきた。
しばらくするとその黄色い糸の先端は膨らみだし、やがて見慣れた三角錐となった。
サーシャだ。
呆然とするロセを前に、テタニは近寄って声をかける。
「サーシャ! 心配したんだよ? いきなりいなくなっちゃって」
(ごめんごめん。吹き飛ばされちゃってさ、気が付いたら口の中で)
サーシャはそういいながらテタニの杖の先に戻った。
それを見届けたロセは、この戦い一番の功労者であるサーシャにねぎらいの言葉をかけた。
「そうだったな、三角錐状の姿ばかり見ていたから忘れていたが、サーシャはカビだったな。まったく、どこまでも驚かせてくれるじゃあないか」
「まーそれも、サーシャちゃんらしいよねー」
そして、ロセは遠くに見えるニシオギクボに長く二回、短く二回の発光信号を送った。




